彼と彼女 ~好きになったのは俺3~
「ありがとう」
マンションの前まで来ると、彼女がお礼を言ってくれた。
「それじゃ、明日ね」
マンションの中に入っていこうとする彼女を呼び止める。
「玄関まで送る」
「えっ? もう家に着いたから、ここでいいよ」
そうかもしれないけど、俺が離れたくなかった。もう少し、話をしていたい。
「いいから、いいから」
俺はちょっと強引にマンションの中へと入っていく。
「白河くんが遅くなっちゃうよ。だから、いいのに」
エレベーターを待っている間、心配そうに気遣う彼女の姿。
「俺は男だし、少しぐらい遅くなっても大丈夫だし、それに送っていくからには、責任もって、玄関まで送り届けなきゃね」
「白河くんって、けっこう心配性?」
「そ、友達に関してはね。だから、あきらめて送らせて?」
俺は、少し身をかがめて、陽菜の顔を覗き込んだ。
すると、彼女はちょっと困ったような顔をしたけれど、やがて、ふっと表情を緩めた。
「仕方ないな。だったら、送らせてあげる」
茶目っ気のある表情で微笑んでくれた。
「ありがとう。これで俺も今夜は安心して眠れるな」
俺の言葉に、不意にくすくすと陽菜が笑い出した。
それにつられて、俺も笑う。
やっぱり、陽菜はかわいい。
ちょっとした会話も表情も、俺の心を捉えてしまう。
エレベーターが来なければいい。二人きりの時間がずっと、続けばいいなと思っていたら。
自動ドアが開く気配がした。
誰かが入ってきた。
これで二人の時間は終わりかとがっかりしているところへ、声がした。
「よっ! 陽菜、久しぶり」
親しげに彼女を呼ぶ男の声。
振り向いた陽菜の表情が変わる。
親しみを込めた声で男の名前を口にした。
「理玖」




