薔薇の恋Ⅱ
「ヴィオリーナ、今日も綺麗だね」
わたしを見てにっこりと微笑むあなた。
『嬉しいわ。あなたのためよ。あなたに喜んでほしいから、わたしのすべてを捧げるの』
朝露に濡れたわたしに触れながら、あなたは満足そうに微笑むの。
触れられた花びらから指先の熱が伝わって、わたしは喜びに身を震わせ
る。
この瞬間をどんなに待っているのか、あなたは知らないでしょう?
あなたの言葉が。眼差しが。指先が。
どれほどの喜びをもたらすものなのか、あなたは知らないでしょう?
あなたに愛でられる至福の時間。
この時間のためだけに、わたしは生きているの。
この時間のためだけに、わたしは綺麗に咲き続けるのよ。
それだけがわたしの誇りだったの。
でもね、わたしは知っているの。
あなたの瞳には悲しみの光が宿っていることも。
微笑むあなたの表情が泣いているように見えることも。
愛する人を喪ってしまったあなた。
その時から、あなたの世界は色を失ってしまったのよ。
わたしはどうして薔薇なのかしら。
薔薇ではなく人間に生まれてきたかったわ。
もしも、人間になれたなら――
今も、心の傷を負ったまま、ひとり悲しみの中にいるあなたを抱きしめるの。
わたしの指で、眼差しで、耳で、声で、わたしのすべてで、全身全霊で、あなたのすべてを護ってあげるの。
あなたがわたしを一番好きだと言ってくれた瞬間から、わたしはあなただけのものだから。
人間になりたいわ。
あなたのそばにずっといられる女性になりたい。
現実になったら、どんなに嬉しいかしら。幸せかしら。
決して叶うことのない夢。
わかっているけれど、願わずにはいられなかったの。
わたしはずっと、あなたに恋をしていたのよ。
だから――
願わずにはいられなかったの。
すべてのものが寝静まり、静寂が訪れる真夜中のこと。
雲に隠れていた月が徐々に姿を現して淡くあたりを照らし出す。
月の光にわたしは目を覚ます。
見上げるようにして天を仰ぐと、満月がひときわ大きく輝いていた。
月の光はキラキラとわたしに降り注ぐ。
ムーンダスト。
月のかけらのような、キラキラと銀色の粉をまぶしたような光が降りてくる。
やがて神秘的な光に包まれたわたし。
そして――
奇跡はおきたのよ。




