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30:『スティックのり』
スティックのりを買って来てと頼んだ。
夕方、母親が袋から取り出したのは、透明なプラスチックの筒型容器に入った味付け海苔だった。
文句の一つでも言ってやりたいところだが、母親は口煩いのでやめておいた。
夕食は白ご飯に味付け海苔を巻いて食べた。
久し振りに食べた味付け海苔は美味しかった。
翌日、スティックのりは自分で買いに行った。
可愛らしいピンク色のスティックのりを選んだ。
帰宅して居間のコタツで提出する書類を再確認、不備無し。
茶封筒に入れ糊付けした。
ほんのりアップルの香りがした。
この日の夕食も、白ご飯に味付け海苔を巻いて食べた。
美味しかった。
風呂上がり、ドライヤーを済ませ居間に戻ると、普段からなにかと口煩い母親が糊付けしていた。
可愛い色だの良い香りだのと、なんやかんや話し掛けててくる。
スティックのりではとまらない母の口。
口煩い母親であるから、文句の一つであっても本来ならば避けたいところだが、仕方が無いのでウエットティッシュを渡して一つ文句を言ってやる。
「それ、リップじゃないから」




