32話 霧の中の真実
「えっ?!」
謎のフラッシュが収まった時、目の前に現れた光景にわたしは息を飲んだ。
それと同時に、どうすべきかと瞬時に考える為に頭を回転させる。
光が晴れた瞬間、戦っていたはずの狼男の姿をしたMTTBはミケの姿に変わっていた。
一体どういうことなのか、わたしには理由は分からなかったが、一つ分かっているのはこのままではマズイという事だ。
MTTBとの戦いの中で、何とか隙を作り、今まさに振りかぶりがら空きの胴に斬りかかろうとした所での出来事だった。
「くっ」
わたしは咄嗟に持っていた刀の柄から手を離した。
手放された刀は弧を描き明後日の方向へと飛んでいく。
残された空手が、ミケの腰を切断するような斬撃の軌道を描いた。
「はぁはぁ……」
斬り終わりの姿勢のまま、わたしは荒い息をつく。心臓は今にも飛び出してきてしまいそうなくらいに跳ね回っている
危なかった。
もうちょっとでミケを斬り殺してしまう所だった。
ちらりとミケの顔を見上げると、ミケの顔も驚愕の形で固まっていた。
なんでこんな事になっているのか全然わかんないけど、ミケの顔を見るにあっちも全然わかってはいなさそうだった。
側面からガサリと草を踏む音がする。
流し目を向けると、地面に倒れるショコラと木によたれ掛かっているリィリィの姿が目に入った。
そして、彼女たちとMTTBウェアウルフの姿も。
「それ、貸して!」
わたしは膠着しているミケの手から、無理やりウィング・ド・エッジをもぎ取ると、ぐるんと体を回転させて投擲剣のように投げつけた。
直線の軌道を取り、まっすぐにMTTBの横腹に突き刺さる。
その衝撃によって吹っ飛んだ所にわたしは一気に駈け寄ると、MTTBの体に刺さっている剣を引き抜き、そのまま剣舞を舞うように、横にぶった斬った。
斬られたMTTBの体が塵になって消えるのを確認すると、わたしはショコラに向き直った。
「大丈夫?」
わたしが訊ねると、ショコラがコクコクと頷く。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
かわいそうに泣くほど怖かったらしい。
そういえば、いつの間にか霧が晴れている。
あの変な幻肢痛〈ファントムペイン〉も消えていた。
あれだけ負っていた傷も消えている。
咄嗟に振るった一閃も、無意識ではあったが利き腕によるものだった。
「にゃ?」
ハテナマークを浮かべながら、利き手に握られたミケの剣を見つめていると、
「あ、ミケ」
猫村正を持ったミケがわたし達の方に歩いてきた。
どうやら、わざわざ放り投げられていたものを拾ってもって来てくれたらしい。
「ほら」
「うん、ありがと」
差し出された猫村正を受け取ると、わたしもミケのウィング・ド・エッジを返す。お互いの剣を交換したわたし達は、それぞれのを鞘に戻す。
「?」
猫村正の柄から手を離すと、ふと、同じように剣を鞘に収め終わったミケが神妙な顔つきで、こっちを見つめている事に気づいた。
「え、何? どうしたの?」
わたしがキョトンとしながら訊ねると、
「別に……」
そう言うと、ミケは目を逸らす。
「別にって事はないんじゃないの?」
明らかに何か言いたそうなんですが。
「別に、何でもねーよ」
「えー、なによ」
言ってよ。気になるじゃん。わたしが吐かせようと詰め寄ると、ポンと頭に手が置かれた。
この男誤魔化す気満々である。
まったく。とわたしはジト目をミケに向けてから、
「……!」
ふとわたしは目の前の塵になって風に流されているMTTBの残骸から飼い主さまとの繋がりを感じられる事に気が付いた。
もしかして、コイツだったの。
飼い主さまの猫アレルギーの原因。
それは、何の変哲もないただのはぐれウェアウルフ。
塵となって消えていく中でウェアウルフの飼い主さまとの繋がりが消えていくのがわかる。
まさかこんな普通の雑魚の中に紛れていたなんて、しかも群れからはぐれて隠れていた。
下手をしたら本当に見逃していたかも知れない。
もし、ショコラが連れてきてくれなかったら、コイツを倒すのは無理だったかもしれないんだ。
「ショコ――」
わたしがその事を伝えようとショコラに声を掛けようとした時だった。
「あの!」
とショコラに割って入られた。
「ショコラは、このパーティにいてもいいんでしょうか?」
突然の問いかけに、わたしもミケも動作を止めてショコラを見つめる。
「なんで? いいに決まってるじゃない」
「でも、足手まといなんじゃ……」
「そんな事ないって」
「でも……」
「でも、じゃないって!」
わたしははっと口元を押さえる。
思わず語気が強くなってしまった。
「……」
ショコラが一体何を言っているのか、わたしにはさっぱり分からなかった。
ショコラの事を足手まといなんて思った事も一度もないのに。なのに、自分で勝手に自分を評価して、しかもわたし達もそう思ってるだろうと思っている事に何より腹が立つ。
むぅと不満の目をショコラに向けていると、ミケは「まあ待てよ」と割って入った。
「とりあえず、あいつらの傷を治してやる必要がある。そう思わないか?」
ミケが指差した先には、倒れているアリエルとザクロの姿があった。
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