表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/145

第85話:爆炎

「あんたには気の毒だけど、あの方には勝てないわよ」


 レイムルはいつの間にか蒼の背後に回り、肩に手を置いていた。


「だぁから何で私で確定なんですか? これから学さんと戦うんですよ私は」

「そのマナブサンはもう来ないわよ」

「えっ」

「私が、手を回したから」

「んん!?」


 レイムルが懐中時計に目をやる。


「この時間になっても来ないと言う事は、戦闘不能ね」

「そんな……」

「何言ってんのよ。あんたにしたって望んだ展開でしょ、これは。不戦勝じゃない」

「う、うん。だけど……」


 レイムルはリリィの幸せのためにダヴールに手を貸した。それは蒼にとっても願ったり叶ったりな工作である。

 しかし蒼は、どこか釈然としない思いがあった。


 ――正々堂々なんて、言ってる場合じゃないのにね。変だな私。


 ***


 リリィは両の掌で神通力を圧縮し、薄く料理し始めた。


 ――イメージは変な刀……広く薄く鋭いアレ……。


 未だ実戦では試した事も無く、実験でもまともに成功していない大魔法。

 蒼魔法拾八式。


 ――唯一式は横の厚みが足りなくて、奴の神性装甲を穿てなかった。だがこれなら、風穴くらいは……!


 成功するかどうかは五分と言った所。しかしリリィに選択肢はない。

 後の先を取って決める!


「来い、半神ダヴール!」

「よかろう。神性の魔法、受けて見よ」


 ダヴールの体から、神通力で作られた朱色の砲弾が表れる。

 それらがまるで生き物の様に空中に集合し、ダヴールの指揮下に入る。


「行くぞ魔女。貴様の心臓を狙う。瞬き厳禁だ」


 リリィは彼からのアドバイスを思い出す。


『拾八式から先は、レベルが違いますから。まず防御はできないと思って下さい』


 つまり、全て躱すしかない。あの数の魔弾を。


「フーッ」


 息荒く、集中するリリィ。一発も貰うわけにはいかない。

 ダヴールの腕が、振り下ろされるのが合図だ。


「炎魔法拾八式!」


 魔弾がリリィ目がけて飛ぶ。

 避ける。まだある。避ける。一歩近づく。避ける。まだある。避ける。

 避けても避けても迫りくる砲弾。だが限りがあるわけではないと、自分に言い聞かせてなおも避ける魔女リリィ。

 この攻撃を避け切って、蒼魔法を放つつもりだった。しかし。


「痛ッ!?」


 ここで脇腹を補強していた神通力が切れた。

 そのあまりの激痛に、石ころに躓いた様に足腰が立たなくなったリリィは、うつ伏せに倒れる。

 その頭を魔弾が掠めて行った。


 ――最悪! これじゃ回避不能……この格好で撃つしかない!


 覚悟を決めた。掌から、温めていた神通力を、手裏剣の様に逆手から投げる。


 ――蒼魔法拾八式……。


冷艶鋸ドラグオン・シミター!」


 それは青々と輝く巨大な偃月刀であった。

 その縦の薄さ故に、朱の砲弾を次々とすり抜けて、ダヴールへと迫る。

 そして横の厚さ故に、半神の神性装甲にさえ対抗できる。


「ぶった切れ!」


 リリィの気合いが通じたか、神通力の刃は魔人の手元へ到達する。

 だがその瞬間、ダヴールから神性の炎魔法がもう一つ……。


「えっ」


 爆炎であった。その衝撃は這いつくばっていたリリィのみならず、コロシアムの土ごと吹っ飛ばして燃え盛る。炎魔法拾玖式。


「うっ、あっ、ああああッ!」


 肺に神炎を吸い込んだか。声にならない苦しみに抱かれ、リリィは後方の客席に激突する。

 オマケに脇腹に衝撃が響き、強制的に涙腺が緩む魔女。

 神性の痛みが、体中から生気を奪っていく。気絶ブラックアウト寸前である。

 今まで彼女が喰らった攻撃の中で、もっとも響く――体の中から骨肉が暴かれる様な痛み。


 ――これが、神の魔法!?


「リリィ! ダヴール様! もうやめて!」


 薄れゆく魔女の意識の中で、レイムルの叫びが聞こえる。

 ぼんやりと残る視界の中で、遠くに見えるダヴールの手元。

 僅かに、切れている。出血している様に見える。


 ――私の、拾八式は……効いてる……なんだ。半神って言ったって、無敵じゃない。だったら。


「フンッ!」


 気合いで星屑を脇腹に叩きこむ。

 真っ白な視界の中でなんとか客席の椅子の背にしがみ付き、立ち上がる。

 魔女はまだ死んでいない。レイムルは何とか思いとどまらせようと喚く。


「立っちゃダメえ!」

「うっさいわ、露出狂変態女め」


 確かに、ダヴールに殺されるかもしれない。

 それでもまだ、自分には試せることがある。なら、立ち上がる以外の選択肢は彼女にはない。


「やれる事、あと二つもあるっつーの……ケホッ」

「そうか、立つか」


 喉を火傷した。強がりも嗄れ声。痛々しい魔女の姿を見つめる半神は……。

 それでも、残心を解かない。

 満身創痍の魔女に対し、一切の油断なし。

 まさに強者の、神の佇まいであった。


「神通力、寄越しなさい!」


 相変わらず無礼な詠唱で、神通力を補充するリリィ。

 身体を引き摺って、闘技場へ戻って来る。


「神性魔法で死ななかったとは驚きだぞ。人間」

「余裕ぶってんじゃないわよ。しっかり出血してるくせに」

「ふっ……」


 リリィはほとんど破けた黒色のローブで素肌を隠しながら、ワイドスタンスを取って中腰で構える。

 ダヴールは後屈立ちのままだ。もう一度同じ技を繰り出す事を示していた。


「見せてあげるよ。人間技の最高峰」

「では、私は次の爆炎で幕を引こうか」


 この時、リリィは星屑の位置を目で追っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ