第71話:神の輝き
「ルネサンス、そのまま!」
「おおおッ!」
個々の力では魔王に敵わないと悟った魔王討伐軍の三人は、役割を完全に分けた。
補助役に魔剣士。足止めに勇者。そして攻撃者に魔女リリィ。
「動けまい魔王! 悪行の報いを受ける時だ!」
「小癪なり勇者! 貴様ら如きにやられる我ではないわ!」
拘束を解こうと全身の力を込めた、その直後の力の弛緩を魔女は狙っていた。
「今だリリィ!」
「お願い、リリィ!」
「蒼魔法第拾伍式……!」
「何だと!?」
その両の掌から、青々とした神通力が放出された。
「青龍炎!」
「ね、熱!? 青い熱が!?」
「燃え尽きろぉぉ!!」
「ぐおおおおッ!!」
神通力を放ち続ける事、なんと五分。
「墜ちろ! 落ちろ堕ちろぉぉー!」
「魔女、めぇぇぇぇ!!」
リリィのストックが尽きるギリギリのところで、魔王アスカリオは焦げ切った体ごと吹き飛ばされ、打倒された。
その落下した奈落の底で。背骨が折れて立ち上がれない魔王の虫の息は、あと数分でこと切れる。
はずだった。
「……誰だ」
「控えろ下郎。この私が機会をやろうと言うのだ」
「貴様は、いや……あなたはまさか」
戦闘神は自分の鱗を千切ると、魔王の素肌に押し込んでいく。
その痛みで、魔王の感覚が蘇る。
「ごおおおお!」
「生きて、余を愉しませよ」
***
魔王の黄金の輝きは、まさに客席で戦闘神トーレスが放っているものと同一であった。
リリィは一瞬その光に気を取られたが、構わずフィニッシュまで持って行こうとする。
「あと少し、あと少しなのよ!」
「熱い……熱いぞ魔女よ!」
「なっ……」
魔王が両腕を左右に開くと、リリィの放っていた青炎が180度反射した。
リリィは自分の魔力をモロに襲い掛かられて、焦る。
「ぐぬぅッ」
杖でなんとか躱した者の、腕に軽い火傷を負ってしまい、摩る。
――むしろ、これくらいで済んだのが奇跡ね……。
腕を縦に振って、ダメージを馴染ませる。
一方の魔王も、長時間の蒼魔法にかなりのダメージを負った様だった。
序盤は、リリィが制したと言っていい。だが……。
――何故、いきなり拾伍式に対応できたのよ……。
「何なのよ、その光」
「神の力だ」
――神威と似た輝き……しかし、詠唱が無いと言う事は……。
リリィは悟った。魔王の体内には、神の細胞が埋め込まれている。
つまり自分は一部分が神化された生物……魔族より上位の存在と戦っているのだと。
「それは、邪悪のアンタが持っていい力じゃないわよ」
「お前が決める事ではない。神が決められたのだ」
「証明しなきゃね。アンタが、紛い物だって事、をッッ」
会話途中で杖を投擲した。魔王が杖の防御をしている隙に、素早く星屑を掻き集める。
「星屑でいいのか!?」
学が後方で叫ぶ。星屑は即席の魔力にはなるが、魔王相手には詠唱で得た神通力で無ければ通用しないのではないか。先程の蒼魔法ほどの威力は期待できないのではないか、と彼は言っているのだ。
「まあ見てなさい!」
リリィは光球を作ると、魔王に投げる。魔王はそれを、光の腕で弾く。
リリィはその隙にまた星屑を集め、光球を作り、投げる。魔王はそれを処理していくが、徐々にリリィの生成スピードに処理が追いつかなくなっている。
――なるほど、このスピードが星屑の真骨頂か。
学はまた一つ学んだ。
そして気が付くと、魔王の周りを光球が取り囲んでいる。
完全に閉じ込めた。
そして満を持して、リリィが詠唱を始める。
「魔神よ、この私が邪悪なる魔王を、貴方の代行者として打倒する。少しでも平和を想う気があるのなら、この魔女に神通力を貸し与えよ! 寄越せ!」
詠唱の文言が強気であった。
それでもしっかりと落ちて来る神通力が、神にとっても魔王の復活が脅威である事を示していた。
「よし、これでトドメを!」
その時。自分の作った光球が、眼前に撃ち返されている事に気づく。
気づいたところで、間に合わない。
「なっ!?」
光球が爆発する。魔王の黄金の腕に触れられると、魔法の方向が反転してしまうのか。
リリィは自分の魔力で吹っ飛んだ。
「痛い……」
「リリィ、来てるわよ!」
レイムルの叫びは正しかった。魔王は一気に距離を詰め、魔剣を最上段に構えている。
この一撃が炸裂すれば、小柄なリリィの体は木っ端微塵である。
「終わりだな!」
「ふざけんな! 終わらせないわよ!」
金色と青色がぶつかり合う。観客席へ向けて放射線状に、衝撃派が広がって行った。
「きゃああ!!」
「に、逃げろ!」
戻って来ていた前列の観客がまたしても逃げていく。
それでもなお、この戦いは見逃せないものとなっていた。
「くぅっ!」
そして蒼は、金色に押し潰されていった。




