第68話:圧倒的に
魔女リリィの光球と、魔王アスカリオの闇球がぶつかり合って弾ける。
観衆の目に写る白と黒のコントラストは芸術的であった。
「互角……!」
「いや、魔王相手に互角って凄くねぇか!?」
観衆もリリィの魔力を認めざるを得ない。
魔法だけで言えば、間違いなくこの二人が参加者中1,2を争うのだろう。当初の予定通り、魔力戦の様相を呈して来た。
だがそんな観客の声を聴いて、リリィが大きく溜め息を一つ。
「互角だって。ほ~んと、やんなっちゃう」
そう言うと、素早く腕を振るいつつ星屑を拾い集める。
「アスカちゃんさぁ。あんたも互角だと思う? 」
「さぁな。何にせよ、星屑ではなく神通力を使ったらどうだ?」
「私はこれが好きなのよ」
そう言うと再び光球を造り出すリリィ。一回戦からこの技しか見せていない。
最も多くの手の内を隠し通しながら勝ち進んでいるのは、間違いなくこの女であった。
「相変わらず強情な女だ」
「あんたにはこれで十分なのよ」
「では、これならどうかな?」
そう言うと纏った闇を綿飴の様に千切りだす魔王。その破片を氷柱の様に尖らせると……。
「行け」
暗魔法第拾伍式『無闇』。その鋭い闇塊に襲われるリリィだったが、難なく左右にステップを踏んで避ける。
「それがどうかしたのかしら? アスカちゃん」
「甘い」
「えっ!?」
闇の氷柱は方向を変え、背後からリリィに襲い掛かる。
リリィは光球を盾にして防ごうとするも、弾数が多すぎる。一本は防御をすり抜け、リリィの脇腹を掠めて消えた。
真っ黒なローブの右腹部が破れ、白いインナーがチラ見えしている。
「ああっ!? 私のローブが……」
「さぁ、そろそろ本気で来い魔女よ。私も貴様も、まだまだ力が出せるはずだぞ」
そう言うと、再び拾伍式を展開する魔王。
流石にリリィにも余裕が消えて来たか、目つきが変わった。真剣に軌道を読もうとしている。
「避けられんぞ!」
今度は数が更に増えた。氷柱どころか、これでは巣を突かれた蜂の大群である。
とても躱し切れる数ではない。
「ちっ!」
舌打ちと共に杖を投げつけるリリィ。それでも闇の蜂の数は減らない。
万事休すかと思われたが……。
――仕方ない、パクるか。
迫りくる棘たちを、左右の手刀で払い落していく。そして、その手には星屑の光が宿っていた。
「あれって……君の技じゃないの?」
「あ~……パクられましたね。酷いなぁ」
「あの子、実用性があれば何でも使うからなぁ。ドンマイ」
技を真似られた学が落ち込む。そんなに簡単に真似られるほど、安い技術ではないからだ。
それはそのままリリィの格闘センスを物語っていた。
「体格はないけど、やっぱり上手いですよ」
「それは私も思ってたよ。剣は私が上だけど、案外体術が得意なのよねぇ」
その筋では達人である学も認める体術の上手さで、リリィは魔王の拾伍式を全て叩き落とした。
その勢いで、今度は光球を空に向かって投げた。一見暴投に思えたが……。
「何のつもりだ?」
「ふっふ。さぁ、今度はこっちの番だよ!」
魔王の頭上に移動した光球は姿を変え、無数の光の矢になって降り注ぐ。
先程の拾伍式に対する、完全なる意趣返しである。
「ぬぅぅ!」
「おっと、上ばかり気にしてていいのかな? アスカちゃん」
リリィは鬼畜な事に、平面からも複数弾の光球を投げつける。
もはや魔王の逃げ場はどこにもない。
「あんたと私が互角? 笑わせるわね」
鼻で笑って見せるリリィの、不敵な表情に観衆は畏怖した。
やはりこの女は、絶対者なのであると。
「私が上よ。圧倒的にね!」
土煙に飲み込まれた魔王に向かって叫ぶリリィ。
勝負は決したかに思えたが……相手もまた、人では無い事を皆が思い出した。
煙の中から、無傷で現れる魔王を見たからである。
「何か言ったのか? 魔女よ」
「くっ……」
――あれで決まるほど、甘くはないか。魔王の名は伊達では無いって事ね。
リリィは杖を拾い、身構えるのだった。
凄惨な戦いは、ここから始まる。




