第67話:闇の焼売
闘技場に降り立った両者が向かい合う。
3m越えの魔王アスカリオと、1.5m程度の魔女リリィ。ほぼ倍のサイズ差に、観客はこの先の展開を予想できない。
体術では試合にならないのは間違いない。何せ体重差250キロを超えている。
となれば勿論、魔法での勝負になるのだが……。
「貴様とも、二年ぶりになるのか。魔女よ」
「ええ。私がトドメを刺した……いや、刺したと思ったあの日からね」
「ウィニングショットは勇者に譲ると思っていたが、いやはや。我の強い女だ」
「私があんたより弱いと思われるのが癪に障るだけよ」
意外にも舌戦が繰り広げられている。
魔王のお喋り具合に、観客がざわめいている。あんなにフランクな性格だったのかと。
「勇者が消えて、お前は今どんな感情だ?」
「あいつには感謝してるわ。あんたを半分スケルトンにしてくれたんだから。良かったじゃない、魔王っぽくなって。私に倒されるにはもってこいの見てくれだわ」
「倒せるか。このアスカリオを」
「愚問ね。私は最強の魔女。倒せないものなどこの世に無いわ」
「そうか。今日も楽しめそうだ」
二人は言いたい事を言い切ると、互いのコーナーへ戻っていく。
どちらが悪とも取れないやり取りに、観客は戸惑う。
「レディィィ、ゴーッ!」
二回戦最後の試合が始まった。
と同時に、アスカリオの両手が地面を掴む。
「小手調べだ、魔女リリィ。暗魔法弐拾式、受けてみろ!」
一回戦のリプレイを見ている様であった。地面から這い上がって来る暗闇が、広範囲からリリィを包み込む。
「まるで闇の焼売だな……」
「シュウマイって何? ホウリュウイン君」
いつの間にか学の傍に居たのは魔剣士レイムルであった。
リリィ側の応援に回るために、東側のコーナーに来ていたのだ。
「僕の故郷の食べ物ですよ。ああやって、具を包むんです」
「リリィが具かぁ」
レイムルはその例えに苦笑いをしながら答えた。
「絶対苦いわね、それは」
リリィは暗闇の中で、冷静に焼売の綻びを探していた。
360度見渡せば、光の漏れ出ている所が見つかる筈……と思ったが、無い。
「ン? なるほどね」
しかしリリィの観察眼は、360度にプラスした視野を持っていた。
観客がざわつく中、闇籠の頂点から、轟音と共に光が突き出した。
「なんだぁ!?」
そしてその光の中からリリィが飛び出す。
続けざまに空中から、光球をアスカリオに向けてブン投げた。
「……ッ」
それを両手の神通力で防いだ瞬間、闇籠は消えてなくなった。
いとも簡単に、弐拾式を破って見せた魔女に、観衆は驚きを隠せない。
「包み際が甘いのよ。頂点の所から光が漏れ出てたっての」
「そこに気づくとはな。今世最強の魔女は伊達では無いと言う事か」
「そゆこと」
リリィは掌を上に掲げると、光の球をどんどん拡大させていく。その様を観衆と、魔王に見せつけている。
「さぁ、使い古した技はそこまでにしてさ。あんたの底を見せてみな」
「……やはり貴様は楽しめる相手だ。魔女リリィ」
魔王も全く同じモーションで、闇の塊を拡大し始めた。
「力比べといこうか」
「望む所よ!」
オーバースローから放たれた明暗の球がぶつかり合う。
「うおおおっ!?」
「ひぃぃ!」
衝撃で前列の観客達が吹き飛ばされていった。
「えげつないなぁ~」
「全くですね」
レイムルと学が呆れ顔で闘技場を見つめていた。




