第46話:急襲
その頃、蒼は住居への帰路を愛犬と共に歩いていた。
「マーガリン、今日は良く我慢したね~。偉いゾ」
立派な毛並みを撫でてやると、フワフワとした感触で蒼も愛犬も幸せな気持ちになる。
一人と一匹。ベストパートナーである。
「さ、もうすぐでウチに着くよ。まずお風呂に入って、ご飯食べて、そっから明日の対策を~」
その時、背後に人の気配を察知した蒼は前転で距離を取り、立ち上がりざまに振り返る。
その闇に溶け込んだ、僅かに輪郭を確認できる黒い黒い男。
「クライド・クライダル!」
警戒はしていたつもりだったが、まんまと後を付けられていたらしい。
一歩、二歩と後ずさる蒼。
「意外ですね……というより、意味が分からないんですけど」
「何がだい?」
「いやいや、普通襲うならそっちのブロックの三魔(魔人・魔女・魔王のこと)でしょーが!! 何で最初に私のところに来るの!?」
「消去法だよ。ダヴールの旦那と魔王の暗殺は無理だった。この二週間、ずっと狙撃の機会を伺ってたし、実際に撃ちもしたが失敗だ」
クライドがやれやれ、という顔をして掌を耳に掲げる。
勿論、蒼は納得がいかない。
「じゃあリリィさんでいいじゃん! 私じゃなくていいじゃん!」
「魔女はガードが固くてね。今日もボディガードを従えて部屋に籠っている事を確認して来た。もっとも、彼女自身もボディガードのボディガードをしているんだがな」
「言ってる意味が解りませんが、じゃあ今日は休業して下さいよ! 何でわざわざ逆ブロックの私を襲う……はっ、襲うってそういう意味!?」
蒼の冗談を無視して、クライドは先の方の質問に答える。
「最大の敵を、先に倒しておきたい。それだけだ」
「はぁ? 私が……最大の敵!?」
「そうだよ。『予知能力者』」
――バレてる!? 何で!?
「全員の戦いを監視していたからな。君は動体視力・運動能力はそこまで良くないのに、マルカーノの攻撃を悉く防いでいた。だからもしやと思ってカマをかけて見たんだが、どうやら当たりの様だな」
「何の事かさっぱりです。今日は私の組立の勝利ですよ」
「君の能力は、俺の天敵だ。だから制限の無い野外戦で、先に片付けさせて貰う!」
「ちょー、だから勘違いですって!」
***
「で、何なの!? 乙女の部屋に夜這いしに来てまで、何の用!?」
「夜這いじゃないですって。何をそんなに怒っているんですか……」
「じゃあ何?」
「クライドから身を守るためですよ」
その言葉を聞いてリリィも合点がいった。
クライド相手なら、鍵付の部屋など何の意味も持たない。それよりも、二人一組になって交代で睡眠をとった方がよいのだ。
「で、何でそれが私なの?」
「あなたじゃなきゃダメなんです」
「え、それって……」
「魔王と迷ったんですが」
「そこは迷うな!」
学は単純にリリィの実力を認めている。そして、もう一つ目的があった。
「魔法の事を教えて欲しいんです」
「何を言ってるのよ。あんたは体術家でしょ?」
「リリィさんになら言ってもいいか。僕は魔術師です」
「なっ!? あんた馬鹿なの? そんな重要な情報を私に暴露して……」
驚くリリィに対し、学は一歩踏み出して頼む。
「魔法の事を、教えて欲しいんです」




