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第42話:振り絞る勇輝

「破ったのか、あの暗魔法を!?」

「あれ、弐拾式ですよ!? とんでもない魔法ですよ!? 本で読んだ事ありますもん。あれを破るなんて……」


学と蒼は驚き役を務めていた。勇者の神通力を全て充てた魔法剣が、闇籠を破ったその勢いのまま、魔王の額に刃を突き立てた瞬間。それを確かに見ていた。

観客のスタンディングオベーションが止まらない。その大歓声は勇者自身にも、逆転勝利を雄弁に伝えていた。


だが、魔女リリィだけが叫んでいた。


「ルネサンス、まだ終わってない!!」

「……なに?」


被殴打と神通力の解放で疲れ切ったルネサンスが頭をあげると、魔女の言っている事の意味が分かった。


「……頭か」

「ええ、刺さったのは頭よ! 胸じゃない!」

「なんという運の悪さだ」


二年前に魔王を倒した二人は知っていた。頭は、魔王にとって急所でも何でもない事を。

魔族の脳は頭ではなく、胸にある。前半、ルネサンスがしきりに胸を狙っていたのは身長差のせいで頭に届かないから……というわけではない。負けられない勝負だからこそ、隙あらば脳を突き刺そうとしていたのだ。


そして、勇者の放った魔法剣もまた、魔王の脳を狙った一撃だった。しかしそれがまさか、的の大きい胸ではなく急所でも何でもない部分……人間で言えば肘の様な場所に当たってしまうとは。


二人の絶望に呼応するかの様に、魔王が動き出した。観客の焦りが、勇者に伝わる。


「あいつ不死身かよぉ!!??何で頭貫かれたのに動けるんだ!?」

「ば、化物……」

「世界はもう終わっちまうぅぅ、ルネサンス、助けてくれぇぇ!」


勇者の体は、膝が笑うほどに疲弊していた。それでも彼を突き動かすのは、観客の恐れ、叫び。そして自分の中に残った勇気である。


――奴の神通力も闇籠で切れている。今距離を詰めれば、俺の体術で――!


相手も同じくらい厳しい筈と信じ、勝利への一歩を踏み出したその刹那。

勇者の目にいきなり地面が現れた。


ッ」


ルネサンスは頭から転倒した。一瞬の出来事で、上手く状況を把握できない彼に、魔王が優しく教えてくれた。


「足元を見てみろ。闇棘が突き刺さっている」

「な、に……」


勇者は言われて初めて気づいた。右足が、切断一歩手前まで裂かれ、笑えない量の出血している事に。


――まだだ、まだ死角に回り込めば!


転がってポジションを変え、前半に潰しておいた左目から攻める。走れなくとも、彼の眼の勘は健在だ。その死角から攻撃を出そうとしたその時。


魔王の左目が見開かれた。

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