表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/145

第38話:真打登場

「学さん、今の戦いは参考になったんですか?」

「ええ。大いに勉強になりましたよ」

「へぇ~たったあれだけの攻防で学べる物があるんですねぇ。流石、伊達に学と名付けられてませんねぇ。興味があるんですか?」

「ええ、興味がありますね」


 蒼と学は、試合を終えてコーナーに帰って来たリリィをまじまじと見つめる。


「あ~、無駄に疲れたァ……何よ、見てんじゃないわよ」


 学は神通力の溜めを一切行わなかったリリィの魔法学に、興味を覚えた様子だった。対して蒼は明後日の方向で物を見ていた節があった。


「ほ~ん、学さんてリリィさんみたいなのがタイプなんですねぇ」

「はぁ?」

「えっ!!?」


 また始まった、と呆れ顔の学に対し、凄い勢いで振り向くリリィ。

 光球の代償でボロボロになった手で、慌てふためいて髪をとき始める。


「え、ホウリュウイン君、え、私」

「蒼さん、あなた徹頭徹尾ズレてますねぇ。興味があるって、魔法の事に決まってるでしょうが」

「あ、そっちですか……」

「……」


 リリィは学を睨みつけると、走って去って行ってしまった。


「行っちゃいましたねぇ」

「あの、蒼さん」

「何ですか?」

「あなた、わざとやってないですか?」


 ***


 息を切らしながら控室に帰還したリリィを、勇者ルネサンスが迎え入れる。


「心配する必要もなかったな。流石だよ、大魔女リリィ」

「うっさいわね! 全部あんたのせいよ!」

「ええ……何で勝ったのに不機嫌なのさ?」


 勇者から奪ったハンカチで目を拭うと、彼の胸に拳を突きつける。


「次はあんたの番よ。あの化物、本当に倒せるんでしょうね?」

「もちろんだ」

「『一人で』、よ? 本当に大丈夫なの? 生きて帰って来れるの」

「……」


 勇者はしばらく目を瞑る。ただ雰囲気を出す為のアクションではない。イメージトレーニングをしているのだ。

 勝ちまでの過程プロセスを想像し、確信が持てるまで、勇者は決して目を開けない。これが戦いを前にした、彼の勝利への習慣ルーティーンなのだ。

 そして遂に、ルネサンスは瞼をどけた。


「……ああ、間違いなく勝つさ!」

「それでいいのよ。杖でぶん殴って気合い入れてやろうと思ったけど、勘弁してあげるわ」

「はは、でも珍しいな。お前がそんなに気を遣ってくれるとは。お前にとっても俺は敵だろ?」


 順当に行けばリリィにとって、ルネサンスは二回戦の相手である。

 応援すると言う事は、敵に塩を送るという事だ。


「あのねぇ。私があの魔王と、もう一度やりたいとでも思ってるの? あんたが勝てば、取り敢えず最低限の平和は守れるのよ。その後に私があんたを倒して優勝する。一番平和な筋書きを望んでるだけよ」

「……そうか。そうだな、俺は優勝などどうでもいいが……平和を確保してからのお前との手合わせも、楽しみでないと言われたら嘘になるな。うん、それで行こう!」


 勇者の人の良さに、魔女は苦笑する。

 この大会の参加者は、皆相手を殺す程の勢いで挑んできている。

 だがルネサンスだけは、リリィとの二回戦を『手合わせ』だと言う。彼女は殺す対象には入れていないのだ。


 ――そうさ、この大会で俺が殺すのは唯一人。


「リリィ」

「何よ」

「またな」


 勇者は鉢巻を頭に回し、気合いを込めて結ぶ。そしてリリィに笑顔で手を振ると、闘技場へ向かった。

 たった一人で、世界の平和を守るために。


「本当、甘ちゃんよアイツは。反吐が出る」

「だがあれで強いんだ。逆に付け入る隙が無いという事ではないか?」


 背後にはいつの間にか竜騎士ショウが立っていた。リリィは特に仰け反る様子もなく、そのまま話す。


「そうね。駆け引きをしない馬鹿だからこそ、勇者足り得ているのかも……しれないわね」


 ***


 闘技場では、勇者の登場に場内が沸き返っていた。


「ルネサンスーッ!」

「勇者様ー! お願い勝って!」

「世界を救ってくれぇぇ!」


 声援というよりは、願いが響く場内。

 これまでの試合は五分五分、そうでなくとも六対四程度の差だった声援比が、この試合に限っては勇者のみに集中する。

 だがこの試合の相手は、あまりに強大すぎて、その声援は全く持って力にならないだろうと。勇者含め全員が思っていた。


 その頃学と蒼は、逆側の通路に来ていた。蒼が魔王を直接見ておきたいと言ったためだ。


「また腰ぬかしますよ」

「勇者様に倒されちゃったら、もう見る機会ないじゃん! お、来た来た!」


 その巨体は、あまりにも闇に染まっていた。電灯の無い暗い通路に、完全に溶け込むほどの黒。

 一目で魔族と分かる、人ならざる容貌。


 すれ違いざま、学と蒼が闇に染まりそうになる様な……そんな負の気を浴びせかけられた様な気がした。

 そして、しゃがれた声で魔王に話しかけられた。


「法龍院学と、織原蒼か」

「え、私達を知っているんですか?」

「……」


 蒼は驚き、学は黙っている。魔王は二人の足元から、頭までスッと目を流した。


「なるほど、異物だな。貴様達二人は、一回戦で負けておくべきだった」

「……」

「嫌な事言いますねぇ」

「きっと、良くない事が起きるぞ。戦闘神には、決して逆らうな」


 そう言うと、眼を合わせない学の胸倉を、異形の手で掴み、引き寄せる。


「学さんっ!?」

「決して、逆らうなよ」

「放せっ……」

「勝てるはずがないのだから」

「言われなくても、誰があんなのを敵に回すか!」


 学はつま先蹴りで手首を蹴り上げ、魔王の拘束から脱出した。


「ではな。良いつがいだぞ、お前たちは」


 睨みつける二人の視線を浴びながら、魔王は闘技場に降り立つ。

 勇者一色だった歓声は、その姿をみとめ、直ちに消え去ったのだった。

 一回戦最後にして、世界の命運を賭けた戦いが始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ