第23話:異色の対決
試合の集中から解放されたショウは、観客全員を殺したい衝動に駆られた。
――俺の試合を、あんなに大勢が見ていたのか……チッ!
いつもの癖であった。常勝を保つために、自分の戦い方を知る者は全て葬って来た。姿を見られると、反射的に殺意が湧いてきてしまう。
何とか殺意を抑え込み、控室まで向かう通路の途中……次の出場者とすれ違う。
「見たね、俺の戦い方を」
「まぁ、見ましたよ」
「なら、俺もたっぷり見させてもらうよ。君の戦い方を。せいぜい、手の内を隠して戦うといい」
学は答えず、真っ直ぐに闘技場へ向かう。
――観客はもうどうでもいいか。今は、彼を殺す事に全力を注がねばならないな。
ショウは控室に戻るのを止め、闘技場の観客席へ引き返した。学を観察するために。
***
「この錠剤をあと二錠、こっちのこなをあと一袋、と」
ジョン・デビルレイズは最終調整に入っていた。
用意していた薬を服用していく。
「良いのですか、博士。この大会では持ち込みは一つまでと」
不安を覚えた弟子たちが語り掛ける。
「武器の持ち込みが一つまでというだけの話だ。体内に溶け込む分には何の問題もない」
「しかし……」
「何でもありとは、こういう事よ」
弟子の諫言にも耳を貸さず、残りの錠剤を飲みほした。
体が熱くなっていくのが分かる。
「では行こうか。ホウリュウインとか言ったか。いい実験台になりそうだわい」
***
――遅い。これも作戦の内か?
学は試合場で正座をして待っていた。待つ事5分。対戦相手は一向に現れない。
「学さ~ん、ファイトです!」
蒼の声援が飛ぶが、観客のざわつきにかき消される。
「いつまで待たせるんだよー」
「もう不戦勝でいいじゃねーか!」
客の不満のボルテージが上がって来た頃、ようやくジョンは現れた。
「いやぁすまんすまん。用を足していてね。すっかり遅れてしまったよ」
その声を聴いて、学は瞑想から帰還する。
彼は両の目でジョン博士の姿を捉えるが、どこか違和感を覚えた。
――こんなに筋肉が隆起していただろうか?
学は観察眼に優れていた。
その彼の目から見て、開会式の時はどう見ても70キロ近くしかなかった博士の体が、今は90キロ近くある様に見える。
質量保存則の観点から見ても、20キロ近く食事をしない限りここまで増えるのは有り得ないのだが……。
「何をしているんだい。早く始めようではないか、ホウリュウイン助手」
「……いいでしょう」
顔を合わせるのもほどほどに、元の位置に戻っていく。
学の方のコーナーには、蒼が待っていた。
「不安そうですね、学さん。私が応援してあげますよー」
「……」
学は既に集中に入っていた。相手以外を、自分の意識している空間から消し去る。
蒼の声も届かないほどの、深い深い集中だった。
「レディィィ、ゴーッ!!」
科学者対武闘家。異色の対決が幕を開けた。




