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第20話:現実と理想

 ショウが間合いを詰める。通常リーチの長さではもちろん20cm大きいチョーに分があるが、槍の長さがそれを補っていた。ショウの槍は長い。


 だがその長さを扱うには、かなりの腕力がいる。その事をチョーは知っているからこそ……試してみる事にした。


「振れるのかい、その槍を!」


 ショウの出足を利用して、チョーの方から一気に距離を詰める。そして突き一閃、狙いは槍を持っている方の手首だ。

 ショウは攻撃をかわすとそのまま頭上で槍を旋回させ、チョーに受かって振り下ろした。


「おっ、危ねぇ!」


 チョーもまた、それを難なくかわす。


 ――振れてるな。修行の賜物だろう。


 ショウの槍の腕を再確認したチョーは、全ての情報収集を終えた。


「体も温まったし、次はこっちから……行かせてもらうわ!」


 摺り足が一転、ロングストライドから槍の切先が飛んでくる。


「むっ」


 切先を切先で迎撃するショウ。だが、チョーの攻撃は単発シングルでは終わらない。


「槍の速さは即ち引きの速さ。あんたの長すぎる槍では、それができねぇ」


 二発、三発と矢継ぎ早で飛んでくる。まるで槍そのものを投げているかの様に感じるが、これはチョーの引きが恐ろしく速いためである。


「まだまだいくぜぇ!」


 槍の連撃地獄が始まった。こうなると、槍が長い分脱出が難しい。

 ショウはただただ槍先で攻めをいなすしかなかった。


「脱出できるか、俺の攻めから!」


 チョーは休まない。これほど槍を突き続けたら、普通なら腕がパンクして休息を入れてしまう所。だが一人殿は腕の筋持久力が段違い。だからこそ長時間でも多人数と戦う事ができるのだ。

 体力だけで言えば、トーナメント参加者でも1,2を争うだろう。


「流石にかわすか、デュマペイル。なら、なせない様にしてやるぜ!」


 チョーは槍に貫通力を持たせるため、回転を加え始めた。そしてついに、ショウの鉄壁の守りが突破されてしまう。


「うらぁぁ!!」

「ぐむっ」


 回転を伴った槍突きが二、三発。両肩にヒットし、脇腹を掠った。

 だが、本当に凄いのは一呼吸置いた後であった。


「しゃあああい!」


 壱、弐、参、四、伍発……否、まだ続いていた。

 ショウはチョーの引きの速さを嘗めていた事を悟った。さながら連射銃の様に、次弾の装填までがほぼほぼノータイム。

 一人殿の極意は、この超速の引きにこそあったのだ。この引きがあるからこそ、一度に五人でも、十人でも相手に出来るのだ。


「チィッ!」


 全てを回避する事は不可能。ショウは肩と左太ももに裂傷を負ってしまった。

 これでも、かなりの健闘と言える。並の闘技者なら正中線をぶち抜かれていたに違いない。

 流石にこれ以上は不味いと考えたのか、ショウはバックステップを連発し、大きく距離を取った。


 ――逃がしたか。


 チョーは大きく息をついて、槍を地面に立てる。長い無呼吸運動を終え、酸素を補給しているのだ。


「チョー凄げぇ! 槍がまるで戻らずに、その場に留まりながら突いてる様に見えるぜ」

「いや、確かにチョーが強いんだけどさ……」


 観客がざわつき始める。現実と理想のギャップに。


「ショウって、なんていうか」

「あんまり強くないよね……いや弱くもないんだけど、期待してたのとちょっと違うっていうか」

「そもそも体格が違い過ぎるよね」


 その観客の声を聴いたからか、チョーによって想定以上のダメージを喰わされたからか。

 ショウはボソボソと、何かを喋り始めた。


「休憩はこのぐらいでいいだろ、デュマペイル。第2ラウンド、いくぜ!」

「認識を改める必要がある。チョー・ヒリュウ」


 フェイントなしで突っ込んでいくチョー。そのタイミングに合わせて、ショウは大地を蹴った。

 気づけば、ショウの体はチョーの頭上を飛び越していた。


「何!?」

「君は強い。悔しいが、出し惜しみは出来ない相手だ」


 ふわり、とショウの体が宙に飛びあがった。


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