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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
2章

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13話 シトエンをよろしくお願いいたします

 さて、と。

 会場の参加者が丸く囲む輪の中に入った。


 待っていた舅殿は腕を垂らし、足を肩幅に開いてリラックスした風に立っている。


「素手ですか?」

 一応尋ねてみると、「むろん」と返ってくる。


 素手か……。


 さっきまで座っていたので、関節を動かすために手足をプラプラさせながら、舅殿の姿を観察する。


 打撃系だといいなぁ。やっかいなのは関節技だ。念のために、袖はまくり上げておくことにする。とられると厄介だ。


 俺が動きを止めると、壇上のタニア王が告げた。


「はじめ」


 わっとまた周囲で歓声が上がる。全部タニア語だが、その中でラウルが怒鳴るティドロス語の応援がちょっと嬉しい。


 徐々に間合いを詰めようとしたら……。


 いきなり舅殿が踏み込んできて、襟首をつかもうとする。

 んだよ、やっぱ投げ技とか関節系じゃん。手刀で叩き落とし、下がる。


 だがしつこい。おまけに素早い。襟を掴もうと、すさまじい早さで手を繰り出してくる。まじか。ほんとこのひと50代かよ。


 気づけば下がりっぱなしなのに気が付き、舌打ちした。ちょうど数歩さがると参加者席まで行ってしまうので、俺の襟を掴もうとする手を掴み、一気に身体を反転させる。


 背負い投げをしてやろうと思ったのに、逆に背後からしがみつかれ、そのまま片足を払われて、押し倒された。


 やべ……っ!

 このまま首絞められでもしたら落ちる!


 慌てて這い出し、立ち上がる。 

 だが、向かい合う間もなく、背後に飛び乗られた。


「え、なにっ⁉ はぇええ⁉」

 慌てて身体を左右に振って振りほどこうと思ったのに……。


「……げほっ」

 すぐに首を絞められて息が漏れた。


 背中におぶさった舅殿は、両足で俺の腰をとらえ、右腕の肘で俺の首を絞めてくる。なんだよ、こんなに接近する格技知らねぇよ。


 ただ、腕は気道も頸動脈も締めきれていない。背後からおぶさる、という足場の悪さが、俺にとっては幸いしたらしい。


 舌打ちし、勢いよく背後から地面に倒れこみ、そのまま身体を反転させる。


 さすがに、俺と床の間に挟まれて肺の空気が出たようだ。

 はぐ、と背後で呻く声がし、腕が緩む。

 その隙に立ち上がり、今度は素早く向き合う。


「……ばけもんかよ」

 つい無礼な言葉が漏れたが……。


 俺が身構えた時には、舅殿はファイティングポーズですでに間合いに飛び込んできていた。


 即座に間合いを詰められた。

 スタミナどうなってんだ、このおっさん!


 心の中で「すんませんっ」と謝って、胸の中央を蹴り飛ばす。どん、と舅殿が後ろに吹っ飛ぶ。


 それでようやく間合いがきれた。


 立て直す時間も作戦を考える時間もない。このおっさん、すぐ手を出してくる。


 ただ、気づいた。

 どうやらタニアでは足技はあまり使わないらしい。


 だからそのまま右腕を振りかぶって一歩踏み込む。

 防御のために舅殿が顔面をガード。


 殴るとみせかけて。

 身体を反転させ、回し蹴り。

 ガードに直撃させる。


 腕と足じゃ、破壊力が違う。

 上半身が揺らぐのを目の端で確認。


 蹴った足を振り切り、そのまま腰を落とす。

 だけど、回転は止めない。しゃがんだ姿勢で片足を伸ばし、舅殿の右足首を蹴った。


 もともとバランスを崩していたから、軽い衝撃でも十分だった。

 舅殿が床に膝をついた。


 俺はまだ回転を止めず、そのまま身体をもう半回転させ、今度はその右顔面に拳を……。


「やめ」

 寸止めしたところで、タニア王の声がかかる。


「サリュ王子の勝ちじゃ」


 ふたたび会場が沸いた。やれやれ。

 ほっとしながらも、腰を伸ばす。床に片膝突いたままの舅殿に手を差し出した。


「お手合わせありがとうございました」


 舅殿は破顔して俺の手を握る。

 わ。あんまり似てない親子だと思ったけど……。笑顔、そっくりだな。


「流石ですな、参りました。シトエンのことをどうぞよろしくお願いいたします」


 舅殿は立ち上がると、きっちりと背を伸ばす。

 俺も相対して礼をした。

 また、会場が沸いた。



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