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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
1章

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23話 ど、どどどどどどどどどどうすればいいんですか?

◇◇◇◇


 その次の日。

 シトエン嬢は馬車で。

 おれは、他の騎士たちとともに騎乗で付き添いながら街道を走っていた時のことだ。


「団長」

 後ろにいたはずのラウルが馬を並べ、声をかけてくる。


「なんだ?」

 尋ねると、顎で馬車を示す。


 視線を向けると、侍女のイートンが馬車の窓ガラスに両手をついてなにか訴えているからぎょっとする。


「馬車を止めろ」


 おれが命じると、ラウルは自分の馬に鞭をくれ、馬車の前に走り込んだ。

 おれは馬の手綱を引きながら、「どうどう」と声をかけてやる。従順な愛馬は、「あ。止まる?」とばかりに徐々になみ足に移行した。


「どうした?」


 馬から降り、近くの騎士に手綱を預けて馬車に近づく。

 扉を外から開いて顔だけ中につっこんで、ぎょっとした。


 シトエン嬢が座面に上半身を預け、のびてしまっている。

 シーン伯爵領ではずっと動き回っていたから、今になって疲れが出たのだろうか。


「シトエン嬢!?」


 勢い込んで中に入る。

 向かいの席に座っていたイートンがおれのために場所をあけながら、泣きそうな声を出した。


「どこか休めるところはございますか?」

「ラウル!」


 名を呼ぶと、すぐにやってきてくれる。


「近辺でどこか宿を押さえろ」

「承知しました」


 馬車の中を一瞥しただけで状況を察してくれたらしい。カーテンをひき、ぴたりと扉を外から閉めてくれる。


「シトエン嬢、どうしました? 酔いましたか」


 顔を近づけて呼びかける。

 随分と顔が白い。


 おまけに呼吸が浅かった。眉根が寄り、額に汗が浮かんでいる。

 おれはシトエン嬢のように医学の知識があるわけじゃないが、これは知っている。


 痛みを耐えている時の表情だ。


「どこか痛いんですか?」

「あの……、その……」


 シトエン嬢は痛みの合間に言葉を紡ぐが、すぐに言いにくそうに唇を噛む。なんだろう、と戸惑う目の前で、シトエン嬢の耳が真っ赤になる。


「お嬢様は‶月のもの〟が重くて。馬車の揺れがこたえるんです」


 切り出したのは、イートンだったが。

 聞いた途端、なんかこう。


 ぴんとこなかった。


「つきのもの?」


 なんだそりゃ、と問い直す。


 見る間にシトエン嬢が真っ赤になり、彼女全体から湯気があがるかとおもった。


「女性の……、ほら、月に一度ありますでしょう」


 イートンが小声で早口に言う。

 おまけに、殴りかかりそうな勢いでつっかかられて。

 ようやく、気が付いた。


「ああ! あれ!! あ……っ。そうですか!」 


 大声を発してから、盛大に後悔した。シトエン嬢がいたたまれない、とばかりに身を縮めたからだ。


「いやあの……、これは失礼しました。いや……。え。どうすればいいんですか」


 おれは立ったり中腰になったりを繰り返し、シトエン嬢を見たり、イートンに睨まれたりしながら、ひたすらうろうろする。お前が一番どうした、という感じになっている。


「いつも飲むお薬があるんです。それを飲んでしばらく眠れば大丈夫だと思います」


 消え入りそうな声でシトエン嬢が言い、それから座面に顔を伏せた。

 しばらくそうやって痛みを堪えているから、もう、じっとしていられない。


「ど、どどどどどどどど、どうすればいいんですか」


 あわあわと右を向いたり左を向いたりしたら、イートンに背中を殴られた。


「だから、お薬を飲んで休憩するための場所を探してください! 揺れない場所を!」


 ああ、そうだそうだ。そうだった。

 おれは慌てて馬車からまろびでる。


「ラウル! ラウル!」


 必死に副官の名前を呼ぶと、あいつは地図を広げて騎士たちと何か言っていたところだった。


「ここです! ……団長、まずいですね。宿場はあるんですが治安が悪そうだし……。乗り物酔いですか? ちょっと休憩して治りそうなら馬車でそのまま寝てもらって……。今晩の宿泊地まで一気に馬車を走らせますか?」


 地図を持ち、ラウルが騎士たちと一緒におれの側に近寄って来るが。


「わからん。すぐ治るのかどうか……」

 ぶんぶんと首を横に振る。


「わからん、って。乗り物酔いじゃないんですか」

 騎士の一人が首を傾げる。


「いや、その……。女性特有の……、ほれ、あの……。ツキノモノというやつらしい。揺れるとしんどいらしくて」


 おれが口にすると、歴戦の猛者たちはみな、阿呆のようにぽかん、とした。


「なるほどなるほど」「ははあ、そうでしょうな、うんうん」「ふんふん。それは大変でしょうな」


 何気にわかったふりをしているが、みな、おれと同じぐらいの程度であると知れた。


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