055 乱戦です。
「いっせいのせっ!」
ポーラが声を張り上げる。
まだまだ頼りない声だったが、この短期間でだいぶしゃべり方を取り戻していた。
彼女が懸命に声を出す理由は――。
『――【火矢】』
『――【風刃】』
『――【石礫】』
『――【水球】』
ポーラの声に合わせて、幼い声が唱和する。
子どもたちが魔法を唱えたのだ。
キリエから文字を学び始めた子どもたち。
読み書きを覚え、詠唱を暗記したら、後は練習すれば魔法が使えるようになる。
急ごしらえではあったが、一人も失敗せずに魔法の発動に成功した。
キリエのギフト【教師】の効果があったからこそ、この短期間で魔法が習得できたのだ。
各自が自分の得意属性に合わせて覚えた、たったひとつの魔法。
どれも初級魔法で威力は大したことがない。
それでも、まとめて打てば牽制にはなる。
動きを止めたオーガに石が殺到し、命を奪う。
彼らも立派な戦力だった。
子どもたちの中でポーラだけは突出していた。
彼女のスキルは【万魔の才】。
唱えた魔法に強力な補正がかかるスキルだ。
その彼女が唱えた魔法は――。
『――【氷針雨】』
ポーラの口から発せられた魔法が――無数の鋭い氷柱となって、オーガの頭上に降り注ぐ。
硬いオーガの肌を斬り裂き、筋肉に食い込む。
「凄いな。この年齢でこの威力。末恐ろしいね」
アレクセイも感嘆する。
さすがにまだ魔力量が少ないので一発しか撃てないが、子どもとは思えない魔法だ。
だがしかし、オーガたちも黙ってやられているわけではない。
倒れゆく仲間を乗り越え、恐れ知らずに前進して来る。
「こっからが総力戦だ。みんな、全力で行こう」
アレクセイの声に、喊声が上がる。
接近戦になるので、投石の弾幕は一時中断。
子どもたちも魔力回復ポーションでひと休みだ。
マーロウとメルタは既に村の中に退避している。
二人なら乱戦であっても、誤射なくオーガを狙える。
最終決戦に臨むのはイッチら【兵士】三人とジロ、それにアレクセイとスージーだ。
「ジロは丸太をブン回してオーガを近づけるな」
「マッスル!」
「大将と姉御は好きに暴れて下さい」
オーガは残り十数体。
キングオーガは高みの見物なのか、後方に控えている。
イッチたちは三人一組で一体を相手取る作戦だ。
彼らも強くなったとは言え、複数のオーガに対するのは危険すぎる。
その代わりに数を減らすのは――。
『――【火雨】』
アレクセイの魔法で、豪火が篠突く雨となって降り注ぐ。
初っ端からの全力魔法だ。
右翼の数体が火だるまとなり、肉の焦げる匂いが漂う。
一方――。
『――操血術【血奔流】』
スージーの手から伸びる血流が、左翼のオーガを絡め取り、ねじ切り、捻り潰す。
こちらも数体のオーガを絶命させた。
攻撃が終わるやいなや、二人とも回復に移る。
アレクセイは魔力回復ポーションを。
スージーは小瓶のアレクセイの血を。
一気に飲み干した。
どちらも効果が出るまで時間がかかる。
その間は直接戦闘だ。
『――忠義挺身』
スージーがスキルを発動させる。
魔法の障壁がアレクセイを守る。
多少の攻撃ならば防いでくれる。
そこから――両者入り乱れての戦いが始まった。
イッチらは訓練通りの巧みな連携でオーガと渡り合う。
囲まれないように一体だけおびき寄せ、三対一の状況を維持する。
一人に攻撃が集中しないように波状攻撃で攻めていく。
地味で堅実な戦いをする彼らとは対照的に、アレクセイとスージーの戦闘はダイナミックだった。
生まれたときから一緒の二人。
ピッタリと息の合ったコンビネーション。
オーガの集団の中を縦横無尽に走り回る。
斬り、燃やし、血が襲う。
オーガどもを手玉に取り、打倒していく。
そんな中――。
「発射ッ!」
村の中から怒声が発せられる。
アレクセイとスージーは即座に離脱し、オーガから距離を取る。
その直後――。
村の中から、黒いなにかが山なりに飛んでくる。
戦線を飛び越えたそれはオーガ集団のど真ん中で地面に落ち――。
――ドォォォン。
激しい爆発とともに、黒い破片を撒き散らす。
その正体は――爆竹。
格子状に切れ込みが入った魔硬竹の筒だ。
中にはジバク草の起爆種と、パンパンに詰められた魔素パウダー。
異世界で手榴弾と呼ばれる武器を参考にしてアレクセイが考案したものだ。
地面に衝突する衝撃で起爆種と魔素パウダーが反応して爆発する。
その勢いで外側の筒が細かい破片となって四方に飛び散るのだ。
その威力は絶大で、オーガの身体を貫通するほどだ。
混乱するオーガ集団の中に、アレクセイとスージーは飛び込んで蹂躙する。
また、時をおいて爆竹が飛来する。
その繰り返しで――オーガたちは全滅した。
「よし、退却だ。大将と嬢ちゃん、後は任せた」
イッチら四人は村の中に避難する。
キングオーガの相手は彼らには重すぎる。
戦えるのはアレクセイとスージーだけだ。
ウオォォォウォオオオ。
キングオーガが吠える。
やっと出番だとばかり、ドシンドシンと重い身体を揺すりながら、ゆっくりとこちらに向かって来る。
その手には巨大な棍棒。
オーガが持っていたのは石製だったが、キングオーガの手にあるのは金属製だ。
「さあ、スージー、もうひと踏ん張りだ」
「はいっ、お姉ちゃんに任せてっ!」
小瓶の血を飲み干したスージーは、口元の血を舌でペロリと舐めてから答える。
最後の戦いが――今、始まる。
次回――『キングオーガと最終決戦です。』
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