表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/73

022 リシアはポーション作りをがんばりました。

 アレクセイが村長宅を訪れると、出迎えてくれたのは、すっかり元気になったディーナだった。


「調子はどう?」

「はい。すっかりよくなりました。アレクセイ様のご好意に感謝したします。本当にありがとうございました」


 ディーナは深く頭を下げる。

 昨日まで寝たきりだったとは思えないほど、血色がよくなっていた。

 それを見て、アレクセイは安堵する。


 彼女は三十歳だが、子どもがいるとは思えないほど若々しかった。

 娘のリシアの青髪より少し色の薄い、水色の長髪を後ろでひとくくりにしている。

 そして、細い身体に不釣り合いな、母性の象徴である大きな胸。


「なにはともあれ、薬が効いてよかったよ。後は、料理のおかげかな」

「ナニーさんという方が作って下さったそうですね。食べたら元気が湧いてきました。お礼を言わなければいけませんね」

「きっと喜ぶと思うよ。リシアは調合中かな?」

「ええ、朝から調合にかかりきりですわ。ご案内致しますね」


 案内された調合室は狭かった。

 棚には、乾燥したハーブや薬草。

 部屋の隅には、発酵済みで森の土のいい匂いを放つ腐葉土とかめいっぱいに貯められた水。

 大きなテーブルの上には、調合釜などの器具。そして、マーロウに運び込まれた調合素材と調合辞典が並んでいた。


「ご領主様っ……」


 調合作業をしていたリシアは手を止める。

 昨日はちょっと距離を感じる態度だったが、今日はそんな感じはない。むしろ、どこか落ち着きなくソワソワした様子だ。


「こんなに多くの『魔素パウダー』をいただいて、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 二人揃って深々と頭を下げる。

 魔素パウダーはモンスターから取れる魔石を砕いて粉状にしたもので、調合において最重要な素材だ。

 魔素パウダーなしでは、ほとんどなにも作れない。


「ああ、気にしないで。これもすべては村のためだ。感謝しているなら、調合で返してくれればいいよ。君たち二人にしかできないことだからね」

「はいっ、ご期待に応えたいと思います」

「わたしも頑張りますっ!」

「まずは、今まではどうしていたか、教えてもらえるかい」

「はい――」


 ディーナの説明をかいつまんでみると――。


 ディーナが火痘に蝕まれてからは、リシア一人で調合していたそうだ。

 とはいえ、魔石が手に入りづらい環境なので、森で採取した薬草に手を加えて軟膏や飲み薬を作ったり、腐葉土から肥料を作ったりという程度。

 どちらも調合と言えるほどのものではない。


「なるほど、だいたい分かったよ」


 説明を受けたアレクセイは、二人のステータスを確認する。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


【名前】:リシア

【年齢】:14

【性別】:女

【種族】:普人種


【ジョブ】:【薬師】

PS(パッシブスキル):【薬学】

AS(アクティヴスキル):【調合】


【ギフト】:【調合師】

PS(パッシブスキル):【奇跡の調合】

AS(アクティヴスキル):【魔力調合】


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 アレクセイはリシアのステータスを見て驚いた。


 ――十四歳!


 リシアは栄養状態が悪かったせいで、十歳くらいの身体つきだ。

 まさか自分とひとつしか変わらないとは思ってもみなかった。

 ちょっと子ども扱いしすぎたかな、とアレクセイは反省する。


 【薬師】だったリシアに付与されたギフトは【調合師】だ。

 リシアのスキルに関しては――。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


【薬学】調合知識を得る


【調合】調合魔法を使える


【魔力調合】魔力を用いて調合できる


【奇跡の調合】極めて稀に、未知の調合方法をひらめく。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 【奇跡の調合】と【魔力調合】というふたつのスキルを新たに覚えた。

 どちらも、調合に適したスキル。とくに【奇跡の調合】は気になるスキルだ。

 ひょっとすると、とんでもない物が作れてしまうかも……。


 そして、ディーナのステータスは――。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


【名前】:ディーナ

【年齢】:30

【性別】:女

【種族】:普人種


【ジョブ】:【薬師】

PS(パッシブスキル):【薬学】

AS(アクティヴスキル):【調合】


【ギフト】:【鑑定師】

PS(パッシブスキル):――

AS(アクティヴスキル):【鑑定(調合素材)】


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 ディーナのギフトは【鑑定士】でスキルは【鑑定(調合素材)】。

 これがあれば未知の素材でも上手く取り扱える。


「二人とも、調合向きのギフトだ。よかったね。早速頑張っていたみたいだけど、成果はどうかな?」

「ご依頼の通り、ふたりでヒールポーションを作ってました。こちらになります。全部で二十本です」


 瓶に入ったヒールポーションがテーブルの上に並べられる。

 【調合】は【薬師】や【調合師】が使える魔法の一種だ。

 魔力を使い、レシピ通りに素材を調合するのだが、完成すると瓶に入ったポーションが出現する。

 瓶も魔力によるもので、ポーションを使用すると勝手に消滅する不思議な仕組みだ。


「早いね。品質は?」

「二本を除いて普通品質です」

「残りの二本は?」

「それはリシアが……」


 今まではほとんどディーナが会話していたが、母にうながされてリシアが口を開く。


「ご領主さまから授かったギフト【調合師】のスキル【魔力調合】を試してみたんです。そうしたら、高品質のポーションができました」


 高品質のポーションは普通品質のポーションの五割増しの値段で、それなりに経験を積んだ調合師でないと作れない。

 普通なら、今日はじめてポーションを作ったばかりのリシアには不可能だ。


「すごいね、ちょっと見ていい」


 アレクセイは鑑定用のメガネをかけ、ポーションを鑑定する。


「うん、間違いなく高品質だ。よくやったよ、リシア」


 アレクセイはメガネを外しながら、無意識に手を伸ばしてリシアの頭を撫でようとし――リシアの年齢を思い出す。

 あまり、子ども扱いしちゃ悪いな。そう思って手を引っ込めようとして、そこで気がつく。

 リシアがしょぼんとしていることに。


「えーと……」

「アレクセイ様、よければ撫でてあげてください。この子は小さいうちに父を亡くしてしまったので……」

「そっか。いい?」


 アレクセイが尋ねるとリシアは恥ずかしげに小さくうなずく。


「これからもリシアの【魔力調合】には期待しているよ」


 髪を撫でるとリシアはふにゃんと気持ちよさそうに頭をあずける。

 リシアが満足するまで、アレクセイは撫で続けた。

 ディーナは二人を微笑ましい目で見守っていた。


「ありがとうございました、ご領主しゃま……しっ、失礼しました」


 リシアは噛んでしまい、慌てて頭を下げる。


「ああ、気にしなくていいよ。それと、みんなにも言っているけど、呼びやすい方法で呼んでくれればいいよ」

「じゃあ……『お兄ちゃん』って呼んでも……いい……ですか?」


 妹のいないアレクセイにとって、新鮮な響きで心地よかった。

 アレクセイは不安そうにしているリシアの頭をポンポンと叩く。


「ああ、もちろん。敬語も無理してつかわなくていいからね」

「うん。ありがとう……お兄ちゃん」


 慇懃無礼という言葉があるように、実家にいた頃のアレクセイは「かたちだけの敬意」にさらされてきた。

 それにはうんざりしているので、アレクセイはかたちにはこだわらない。

 敬意を払ってもらえるように、自分が行動するだけ――そう考えていた。


「お兄ちゃん、あのね、もうひとつ報告があるんだっ」


 リシアは見慣れぬポーションを一本取り出した。

 次回――『リシアが凄いポーション開発しちゃいました。ご褒美はシャンプーです。』



楽しんでいただけましたら、ブックマーク、評価★★★★★お願いしますm(_ _)m

一人でも多くの人に本作を読んでいただき、ベーシックインカムを広めたいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ