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電脳魔法少女 サイバズウィザーズ!  作者: マキザキ


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第6話 B サイバーオーシャンサメ地獄!




「いやああああ!! サメが! サメが泳いでるううううう!!」


「こんなの許して良いんですか! 危険すぎますよ!!」


「殺処分を求めます!!!」



 希海が駆けつけると、水族館前は大混乱に陥っていた。

 数十人の住民が、「サメを許すな!」だの「サメの恐怖をなくせ!」など、およそ意味の分からないプラカードを掲げ、緊急配備された警察隊と揉み合っている。

 その暴徒と化した住民達の目の色に、希海は見覚えがあった。

 特撮バズラスの被害者が、同じような目をしてヒーローごっこに興じていたのを……。


 そして彼のサイバーグラスには、水浸しになった街の電脳世界を悠々と泳ぐ無数のサイバーザメが映っている。

 サメたちが街を流れていくデータに食らいつくと、それはサメ型のデータに変換され、受け取った機器の持ち主が悲鳴を上げて次々に倒れた。


 駆け寄り、助け起こそうとする希海に、「サメが! サメが来る! みんな殺されちゃう!!」と言って錯乱する女性。

 「サメだと! 許さん! 皆殺しだ!!」などと言って、水族館へ突入を試みる列に入っていく男性もいる。

 「ノゾミ! テレビにサメが映ってる! 助けてくれえええ!!」などと迷惑電話を入れてくる友人もいる。



『はっ!! やぁ!! はぁ……はぁ……はぁ……キリがない!! サイバーファイヤー!!』



 電脳世界ではファイヤーフォームとなった美来がサイバーザメを剣で、火炎で、撃破し続けているが、如何せん、数が多すぎて破壊が出現に全く追いついていない状況だ。



『希海! 回復のために一旦戻るね! あと装備変更する!』


「了解! 来い!」


『フォームチェンジングコール!! スパーク!』


「スパークフォーム! プットオン!!」



 希海のスマホ内で、美来の赤いコスチュームが分解し、黄色い光が彼女の身を包んでいく。



『悪もシビれる破邪の雷! サイバーウィザード・ミライ! スパークフォーーーム!!』



 黄色いエネルギーラインが美来のコスチュームを走り抜け、アーマー、ベルト、そして2丁銃が出現した。

 そして、凄まじいスピードで希海のスマホから飛び出し、銃を乱射する美来。

 放たれたエネルギー弾丸は、辺りを泳ぐサイバーザメ達へと的確に誘導し、次々と分解、消滅させていく。


 瞬く間に、水族館周辺のサイバーザメは壊滅した。

 『ふぅ~。軽い軽い!』と、銃口に吐息を吹きかけて見せる美来。

 サイバーザメによる毒電波が消えたためだろうか、水族館前に殺到していた人々の熱気が急速に萎えていった。

 警察隊が彼らの鎮静化を図り、何人かがパトカーに乗せられて事情聴取を受けたり、救急車で搬送されていく。


 後はバズラス本体を叩くだけ! と、希海と美来が水族館の電脳世界を覆うサイバー海、そこの深みに蠢くバズラスのシルエットと対峙しようとした時、突然、辺りの消火栓が次々に爆発を始めた。

 「何だ!?」と驚嘆の声を上げる希海の眼前に、巨大なサメが大口を開けて飛びかかってきた。


 それを手刀で斬り裂き、彼は周囲を見渡す。

 たった一瞬で、辺りは新たな惨事に見舞われていた。

 希海と同じように、サメに襲われたのだろう。

 腕を食いちぎられた男性が悲鳴を上げながら転げまわり、胴体に噛みつかれた女性が、広場の噴水の中へ引きずり込まれていく。

 警察隊が銃で応戦したが、その銃弾はサメの体に吸い込まれ、やがてひしゃげた形で飛び出してしまった。



「サメだ!! いや……サメ型の水塊が出現して皆を襲ってる!」


『はぁ!? なにそれ!?』


「まんまの意味だ! 俺は救護に向かう! 早くバズラスを撃破してくれ!」


『分かった! 任せて!』



 現実世界に現れたサメ達に戦いを挑む希海を置き、美来は水族館のサイバー海へとその身を投げ出した。




////////////////////




「見えた……!!」



 水族館の電脳空間を飲み込んだ深い海。

 その深層から、サメの顔をした怪人が美来を見上げている。



「あいつを倒せば……! スパークショット!!」



 サイバーザメ達を次々に屠った電撃弾を、怪人もといバズラス目がけて次々放つ美来。

 しかし、サイバー海の層は思いの他厚く、サメに達する前に弾丸は消えてしまう。

 そんな姿を嘲笑うかのように、バズラスは微動だにせず、美来を見つめ続ける。



「“来い”ってわけ……? 行ってやろうじゃないの!!」



 美来は足にエネルギーを集中し、サイバー海の深みへと潜っていく。

 突如、その横合いからタコの足が出現し、美来に絡みついた。

 だが、美来は一瞬苦悶の表情を浮かべつつも、冷静に胸から電撃エネルギーを放出し、その足を分解した。


 彼女がより深く潜ると、今度は水着のサイバー金髪美女たちが多数出現し、美来に抱き着いてきた。

 「もうあんな人のことは忘れたの」「来月彼との結婚式なのよ!」「ちょっと待って! 海に来て泳がないつもり!?」「こんなところにサメなんているわけないじゃない!」などと言いながら、美来の四肢を摩りながら、彼女の唇を執拗に奪おうとしてくる。

 美来はその唇を必死で回避しつつ、拘束を何とか振りほどくと、サイバーショットでその美女型データたちを分解した。


 深度が増すたびに、次々襲い来る謎のデータたち。

 ある時は半透明のサメの姿で。

 ある時は燃えるサメの姿で。

 メカのサメ、複数の頭を持つサメ、そして銃を持った悪の知事や、異様にキレ散らすおばさん等……。

 意味の分からない敵たちを相手に、美来は冷静かつ的確な対処を続け、バズラスの元へと着実に近づいていった。


 (あと少し潜れば、バズラスを射程内に捉える……!)と、美来が銃口を再び敵めがけて突き付けた時、突如、彼女の周囲にデータが展開した。

 咄嗟にそれを回避しようとした美来だったが、深サイバー海では素早く動くことが出来ず、シャークケージに囚われてしまう。



「あぐぁ!! な……何……ひぎゃああああ!!」



 彼女の足があった場所から飛び散る火花。

 捕えられた美来に襲い掛かったのは“見えないサメ”。

 初撃で彼女の右足を食いちぎったそれは、今度は彼女の左肩に食いつく。


「う……あああああああ!!」と悲鳴を上げながらも、美来は銃の至近距離射撃でそれを撃破した。

 だが、息つく暇もなく、怪しげな神父が十字架を握りしめ、ケージをこじ開けながら彼女に襲い掛かった。

 十字架で額を殴打され、一瞬意識が飛んだ隙に、美来の四肢は神父が放ったサイバー十字架に磔にされてしまう。

 そしてそのまま、海底へと沈んでいく美来。


 パチパチと明滅する視界の先からノソノソと近づいてくるバズラスの姿に、美来は驚愕した。

 恐ろしく低クオリティな着ぐるみを思わせるそれは、シロワニ特有の多重に並ぶ細く小さな歯を光らせ、上下非対称の細長い尻尾をわざとらしく振りながら、彼女のかけられた十字架に迫る。

 美来はあまりの意味不明さに混乱状態に陥ったが、すぐに状況を把握し、鈍重なその敵めがけ、胸のクリスタルから電撃を放つ。



「サイバーサンダー!!」


「グオオオオオオオン!!」



 肉食獣を思わせる悲鳴を上げ、バズラスはあっけなく爆発四散した。




////////////////////




 一方、現実世界では、希海が巨大な鉄板を団扇のように扇ぎまくり、水族館前広場から街中へ進攻しようとする水塊ザメたちの竜巻をギリギリのところで食い止めていた。

 警察が異常事態に対して迅速に動き、神城市内の前水道を一時停止にしたおかげで、被害の拡大は最小限に留まっていた。

 伊達に対策本部を作っていない。


 かれこれ小一時間竜巻と戦っている希海が、額から流れてくる汗を拭きとりたくても拭きとれない状況に悶々とし始めた頃、思いがけない助っ人がやってきた。



「ダイジョウブ!! ゼンブタベル!」



 希海の前に飛び出してきたのは、あの黄色い生物。

 先ほどに比べて一回り大きくなり、背中にヒレのような三角形の機関が生まれていた。



「タベル!」



 黄色い生物は大口を開けると、竜巻を吸い始めた。

 いや、正確には竜巻そのものではない。

 竜巻に含まれている、情報エネルギーだ。


 希海のサイバーグラスには、竜巻から黄色い生物目がけて流れていくエネルギーがはっきりと確認される。

 まず、竜巻に乗っていたサメ型データがその形を失うと、徐々に風が弱くなり、やがて、竜巻はつむじ風サイズになり、希海の鉄板竜巻によって簡単に相殺消滅したのだった。



「ふぅ~! すごいな君! やっぱり君こそが美来のパートナ……うおっ!?」



 やはり、この子は美来の使い魔的存在だ。

 そう確信した希海が、その生物に手を伸ばすと、突然振り返りざまに、鋭い牙で噛みつかれた。

 実際その尖った歯が彼の手に触れることはなかったが、その生物の顔は心なしか厳つくなり、希海の手のある場所をガジガジと食いちぎろうとしている。



「お……おい……どうしたんだよ……?」



 希海がそう問いかけると、黄色い生物は「ドウシタ……?」と呟き、どこへともなく跳ねて行った。

 そうこうしている間に、大混乱から立て直った警察隊が、事態の収拾を始める。

美来が希海のスマホに満身創痍で戻ってきた頃、水族館前広場にはブルーシートがいくつか横たえられ、救急車の到着を待っていた。


 誰のものとも思えない、嗚咽や泣き声が、夕暮れの広場に響いていた。


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