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62話

 産まれたばかりの、四つ後の四番目の赤子。

 ブリルーノは、その子をへその緒が付いたじょうたいのまま産湯で洗っていく。

 手に感じる赤子の体重は、先に取り上げた三人と比べると半分もないんじゃないかと感じるほど、軽い。

 そして魔力視を通して見た赤子の魔力は、息を吹きかけたら消えてしまうのではないかと思うほどに、儚い。


(このままだと、すぐ死んでしまいかねないな)


 ブリルーノは、自分が使える魔法の一覧を脳内に呼び起こし、赤子を助ける方法を模索する。

 そして、ある魔法なら助けられる可能性があると判断した。

 しかし、その魔法を使うには、フラシオンの同意が必要になる。それも早急に。

 ブリルーノは、タオルで赤子を包むと、フラシオンの腕に抱かせた。そうしてから問いかけた。


「フラシオン。その赤子は、このままだと死ぬ。現に今、母乳を吸い取る力もないだろ」


 ブリルーノが言ったように、フラシオンの腕に抱かれている子供は、フラシオンの乳房から初乳を飲もうとしている。そして吸い付く力が弱すぎて、母乳が乳首から出て来ない状態になっていた。


「ダンナ。なんとかしてくれるんだろ?」

「方法はある。しかし一か八かだ。上手くすれば健康に生きられる。下手すると、魔法を使った直後に死ぬ。決断にも時間制限がある。その赤子は小さすぎるから、へその緒で繋がっている状態でないと魔法はかけられない」

「それはどういう?」

「家畜を肥育する魔法を使う。本来の使用法は、エサを大量に食わせた後に使うことで、家畜の体を成長させるものだ。その魔法を使い、へその緒を通してフラシオンの体にある栄養を、赤子に吸収させて体を無理のでない程度に、そして健全に生きられる程度に成長させる。どうする?」

「その話だけだと、どうして一か八かなんだい?」

「急激な成長に赤子が耐えられない可能性がある。正直言って、この魔法は人間の赤子に使うべきものではないからな。だが、この魔法を使わずに育てようとすれば、その赤子は死ぬだろう。その実感は、フラシオンにもあるはずだ」


 ブリルーノが事実だけを並べて語ると、フラシオンは迷いを見せた。

 しかしその迷いは、一瞬だけのものだった。


「……やっておくれ。このままじゃ死んでしまうってのなら、少しでも生きる可能性がある方に賭けたい」

「許可が出たからには、早速やる。先の三人の赤子の胎盤は既に外に出てしまっている。その赤子のへその緒も、いつまでフラシオンと繋がっているかは分からないからな」


 ブリルーノは、精神を集中させて、家畜を素早く肥育させる魔法を行使する。


「育成促進」


 発動した魔法を、ブリルーノは最新の注意を払って操作して極小の効果に留まるよう苦心する。

 すぐに魔法効果が表れ、タオルにくるまれた赤子の体が、少しずつふくよかに、そして微かにではあるが体躯も大きくなっていく。

 このままいけば危険な状態は脱することができる――そうブリルーノが思った瞬間に、問題が発生した。

 フラシオンが眩暈を起こして、赤子を抱いた状態のままベッドマットに倒れ込んだのだ。


「おい、平気か?」


 ブリルーノが心配から声をかけると、フラシオンが覚悟を固めた目を向けてきていた。


「そのまま続行しておくれ。大丈夫、ちょっとおお腹が空き過ぎて、頭がくらっとしただけだからね」


 気丈な言葉を口にするフラシオンだが、その顔色は真っ青だ。

 肥育の魔法の効果で、赤子が急速に成長する。その成長分の栄養が、フラシオンから強制的に奪われている証拠だった。

 ブリルーノは、ここで魔法の行使をどこまで行うかに迷いを感じた。


(先の三人の赤子ぐらいまで育てるのは、フラシオンの体調を考えると無理だ。しかしフラシオンのことを考えて早めに切り上げ過ぎれば、みすみす赤子を死なせる未来しかない)


 フラシオンの体調が立ち戻れなくなる地点より前で、それでいて赤子が今後も健全に成長できるまでの肥育が完了する地点より後で、魔法を止めなければいけない。

 時間に猶予があるのであれば、魔法行使を分割して様子を見ることができるのだが、今回は赤子とフラシオンがへその緒でつながっている状態でないといけないという時間制限がある。

 ブリルーノは考えに考え、赤子の様子のみを注視することに決めた。


(この赤子が自発的に母乳を飲めるようになった時点で、魔法を止める)


 魔法効果で徐々に成長し続けている赤子の口は、フラシオンの乳首についたまま。そして成長を経るに従って、吸い付く力の強さも上がってきている。

 だが、まだ母乳を吸い取るには、力が弱い。


(まだか。まだか)


 ブリルーノは、魔法効果を高めようという誘惑を感じるが、それを強く押し留めて、じりじりとした気持ちで成長を待つ。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 苦しげなフラシオンの息が聞こえるが、それでもブリルーノは赤子の様子を見ることだけに集中する。

 時の進みが遅くなっている感覚を得ながら待ち続け、そして、とうとう、赤子がフラシオンの乳房から母乳を吸い取って飲み下した瞬間を見た。


「もういいな」


 ブリルーノは魔法の行使を止めた。

 魔法効果による急速な成長が止まったものの、赤子はフラシオンの乳房から母乳を飲んでいる。

 先の三人に比べれば、まだまだ吸い付きは弱い様子だが、それでも母乳で栄養は取れるだろうと確信することが出来る程度には良い飲みっぷりだ。


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― 新着の感想 ―
魔法スゲー。 とは言え、産後の肥立ちと言う言葉も有るくらいだし、まだまだ油断大敵。 と言うかこのまま此処に置いておいたら高い確率で母子共に碌な事にならなそう。
ドキドキする。あー。 出産に立ち合ったから、いろいろ思い出すわ。
それ以外に手はなかったとはいえ結構危険な賭けでしたねー 晴れて出産で友好的な魔法となりましたが家畜に使ってる魔法は他にも有用だったりするんだろか
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