26話
あのビックリ箱魔道具の一件以来、妊婦に害のある食材が入って来たり、新たな害ある魔道具がプレゼントとして送られてくることはなくなった。
このまま出産までこぎ着けたらと、ブリルーノは願っていた。
(だがアイスペクタが言うには、フィエーリア様の出産はいつ始まっても良い段階になっている。それこそ、いっそ例の食材やビックリ箱で、フィエーリア様の出産を早めてしまっても構わないと俺様相手の冗談で口にするほどだ)
つまり、今までと同じ企みは通用しない段階まで来てしまっている。
流産させることが出来ない段階で、フィエーリアの出産を阻止するには、手段が限られる。
そして本気でフィエーリアの出産を阻むのなら、このアミーコジ永代公爵家の屋敷に手勢を送り込むしか確実な方法はない。
そして送り込んでくる手勢の種類は、大きく二つに絞られる。
一つは少数精鋭――腕利きの暗殺者でフィエーリアの命を狙う。
もう一つは、有象無象の手合いを送り込んで、どさくさ紛れにフィエーリアか赤子を狙わせるというもの。
王都にある永代公爵家の屋敷だけあって、夜間の警備も十全ではある。
だが、腕利きの暗殺者なら警備の網を潜ることは造作もないし、警備の人数を上回る人数の有象無象が襲来したら対応しきれない。
そんなどちらの状況でも、ブリルーノであれば対処が可能だ。
暗殺者なら魔法で防衛すればいいし、有象無象どもなら広域魔法で無力化が可能だ。
(どっちが来るにせよ、出産が始まるまで夜に起きて昼に寝る生活をするしかない。フィエーリアの出産が始まるでもいいし、襲撃者が現れるでもいいが、早く事が起こって欲しい)
心の声を聴かれていたら、アミーコジ永代公爵家の面々に怒られそうなことを考えながら、ブリルーノは昼夜逆転の生活を送ることに決めた。
そんなブリルーノの用心は、暗殺者の襲来という形で実を結ぶことになる。
真夜中の暗がりの中を、屋敷の庭を巡回する警備や歩哨の視界から逃れるように進む人物の姿を、ブリルーノの魔力視の魔法をかけた瞳が捉えた。
「貴重な食材と、悪戯目的の魔道具。どちらも高価だから、金のある貴族が下手人だと予想はついていたが」
面倒な相手の登場に、ブリルーノはどう対処したものかと頭を悩ませる。
現在は夜中で、多くの人が寝静まっている。
そんな状況で派手な音を立てたら、寝ている人が驚いて起きるどころの騒ぎじゃなくなってしまう。
「あまりに驚かせては、妊婦の負担になりかねないしな」
ブリルーノは客室から出ると、暗殺者を屋敷の中に引き入れてから倒すことに決めた。
(廊下という視認できる限られた空間なら、結界魔法をかけやすい。結界の中に閉じ込めてしまえば、暗殺者も逃げられない)
決意を込めて廊下を歩いていこうとして、後ろに気配を感じて振り返る。
後ろに居たのは、ブリルーノの世話役につけられた使用人。
どうやら、ここ最近ブリルーノが昼夜逆転の生活をしていたため、この使用人も逆転生活をするようになっていたようだ。
「どちらに行かれるのです?」
職務に忠実な問いかけだが、ブリルーノにとっては邪魔でしかない。
ブリルーノは、魔力視で暗殺者の現在位置を確認してから、使用人に小声で話しかける。
「いいか、黙って聞け。いま、呼ばれていない客が、屋敷の中に入ろうとしている」
ブリルーノの言葉に、使用人は思わずといった風に口を開きかける。
しかしその行動を、ブリルーノはきつく睨みつけることで止めさせた。
「俺様が対処しにいく。お前はフィエーリア様の部屋へ行け。あそこなら、常時人が居る。そして、もし戦闘音が聞こえたら、フィエーリア様以外の人に異常事態を知らせろ。フィエーリア様に知らせないのは、緊張やらなんやらで出産が早まってはいけないからだ」
ブリルーノの説明を、使用人はしっかりと受け止められたようだ。大きく頷くと、一礼してフィエーリアの部屋へと向かっていった。
(これで邪魔者を遠ざけることができた)
ブリルーノは、改めて暗殺者を魔力視で確認する。
どうやら暗殺者は、屋敷の側まで来て、窓の一つを開けて入ろうとしているようだった。
ブリルーノは、相手の居場所を把握すると、暗殺者が屋敷の中を移動する前に補足するべく移動を開始する。
足音を殺して歩くなんて真似は出来ないので、飛行の魔法を使って廊下から浮くことで、物理的に足音を立てずに移動することにした。
これから先、二日に一度の更新に変更いたします。
ご理解いただけますよう、よろしくお願いいたします。




