プロローグ
ブリルーノ・アファーブロは、アファーブロ伯爵家に生まれ、そして齢二十五歳にして『天照堕』という使用する魔法由来の二つ名を与えられ、モナート王国の宮廷魔法師筆頭に上り詰めた人物である。
そんなブリルーノが、宮廷魔法師を表す豪華な刺繍が入ったローブ姿で、謁見の間の玉座にいるラゴレフケトラス国王の前に跪きながら、進退窮まったと心の中で嘆いていた。
「返事はどうした。この役目をお主に担わせること、これは王命である」
宮廷魔法師には、色々な制約が存在する。
貴族家出身者が宮廷魔法師でいる間は、生家における貴族位継承権が停止される。これは国に奉仕する宮廷魔術師を、その者の生家が継承権を交渉材料に操ることができなくするための措置である。
宮廷魔術師は王城にある専用の寮を居住地とせねばならず、各地に出張する際も決まった場所に泊まらねばならなず、そして外出する際には届け出を出さねばならない。国家の一大事が起こったとき、連絡がつかずに解決が遅れる事態が起こらないようにという理由だ。
そして、王の口から『王命』の宣言と共に発せられた命令は、宮廷魔術師の役職を返上する以外に拒否することは出来ないこと。国の大事を前に、宮廷魔術師が役目を放棄させないようにするための方策である。
そう、ブリルーノは宮廷魔術師であるため、王命と告げられた命令を拒否できない。
しかしブリルーノは、この王命を拒否したくてたまらない気持ちでいる。
(くそっ。なんで宮廷魔法師筆頭となった俺様が、こんな事態に陥らねばならないのか!)
ブリルーノは内心で大いに嘆くが、それで現実が変わったりはしない。
受け入れがたい気持ちを押し殺して、王命を受け入れるか。それとも筆頭まで上り詰めた宮廷魔法師の立場を放棄して、王命から逃れるか。
そのどちらしか、ブリルーノが進める道はない。
だからブリルーノは、内心では嫌々と、外面だけは真面目を装った態度で、ラゴレフケトラス国王に頭を下げることにした。
「その王命、受託いたしました。この日より、この宮廷魔法師ブリルーノ・アファーブロは、妊娠されている貴族家の御婦人方の出産の手伝いを魔法にて手伝う役目に就かせていただきます」
「うむっ。大いに励むがいい」
ラゴレフケトラス国王が重々しく頷いてから立ち上がり、王のマントを翻しながら謁見の間から退室していく。
その後に、国王の脇に立っていた女性――第一王妃であるノブローナが続く。
ノブローナは、退室する一瞬前にブリルーノに目配せを送ってから、退室していった。
この目配せを受けて、ブリルーノに貴族の妊婦の出産手伝い――助産師を命じるよう国王に促したのは間違いなくノブローナだと、ブリルーノは確信した。
(あの女。俺様が魔法で体調を整えてやったから、今日ああして立っていられたんだろうに! 酷い裏切りだ!)
ブリルーノは内心の憤りを抱えたまま、外面は風のない水面のように平静な様子で、立ち上がる。そして国王たちが立ち去ったのとは別の扉から、謁見の間を退出した。
王城内にある宮廷魔法師の詰め所へ戻る道を進みながら、ブリルーノは回想する。
(情け心を出さず、見捨てればよかったのだ! 俺様の馬鹿め!)
そう自分の数日前の行いを心の中で罵倒しながら。
私が今まで書いてこなかった類の物語ですので、お楽しみいただけたら幸いです。




