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陶片追放

キモンって子供にラケダイモニスって名前を付けるくらいにスパルタびいきな人でしたが・・・ここまで都合よくいくとは・・・

クレイステネスって調べた限りでは陶片追放オストラシズムで追放になった形跡がないんですよね?不思議です。

作中では15年前に追放され、5年前に戻ってきた設定になっています。

 「で、アーシアちゃんはあと誰に会うんでぇ?」

 完全に打ち解けた風でクレイステネスさんが聞いてきた。

 「アイオス神官長の紹介でミルティアデス殿に会えればと、思っています」

 「ミルティアデス?」

 クレイステネスさんがちょっと首をひねった。

 「確か、あいつは今日、エルトリアに行ったはずだぞ」

 「エルトリアですか?」

  エルトリアは山を越え、海峡を挟んだ向こう側のポリス、普通は海路を使う。

 「ああ、なんでもイオニアの反乱に応援に行った艦隊が戻ってきたんで、船で迎えに行ったそうだ」

  ……すごく嫌な予感がしてきた。

 「イオニアの反乱ってペルシア相手ですか?」

 「ああ、ぼろ負けだったらしいが。」

 やっぱ、あれだミレトスのアリスタゴラスが首謀したイオニア地方の反乱、やっちゃたのか。

 これに援軍を出したアテナイを怒ってペルシアが戦争ふっかけてくるんだよな……俺の記憶だと。


 「まあ、いっつものことさ、よそに首を突っ込んでは痛い目を見る。アテナイは変わらないねー」

 のんびり言ってますけど、これってペルシア戦争の開始ですから、結構大事おおごとなんですけど。

 「んなわけで、たぶん今日はミルティアデスはこねぇ。ただ息子がおめぇと同じくらいだったから代わりに来ると思う」

 ミルティアデスの息子?

 「名前はキモンだ。あったら紹介してやる」

 キモン……どこかで聞いたような?

 とにかくミルティアデスに連絡つけて、マラトンの戦いの準備させないと。


 「で、アーシアはアテナイに何しにきたんでぃ?」

 「簡単に言えば商売です」

 「商売!?・・ラケダイモンがかい?」

 「ええ、まあ理由がありまして……」


 それからあとクレイステネスさんにデルフォイの神殿の新しい料理の開発について、それに遺跡の調査費用、鉄貨の市場価値付加を含む計画を歩きながらした。

 「へー、いろいろ考えてるねー、おっちゃん驚いたよ」

 クレイステネスはちょっとおどけた風に答えたが、一転して目を光らせると

 「ただスパルタ本国はどう考えてるんだい?」

 真剣な顔で切り込んできた。


 頬に冷や汗が流れる、すごいプレッシャー。

 「たぶんですけど、なにも考えてないと思います。伝えてもそれを理解できる人間がいるとは思えません」

 「いや、あそこにはリュクルゴスがある。あのメンバーが経済活動拡大を容認するとは思えん」

 さすが政治家、さっきまでの態度が嘘のようにシリアスな表情で追及してくる。

 しかもリュクルゴスのことまで大分知ってるみたいだ。へたするとスパルタ本国人より知ってるんじゃないか?


 俺は声を潜めてささやいた。

 (リュクルゴスは今回こちらに協力してくれます。現指導者はアレティナ巫女長です)

クレイステネスさんにはこう話していいとアレティナ姫様から指示があったのだが……ここまで読んでたのか、あの姫。


 「おぉそっかー、おいちゃん一本取られたね」

 またいきなり豹変した。すごいぞ、この人。明らかに、どでかい猫かぶってる。

 「うーん、そういうことなら、おいちゃん、アーシアちゃんに使ってもらおうかな」

 使ってもらう?

 怪訝そうな顔が出ていたのだろう。クレイステネスさんは言葉をつづけた。

 「おいちゃんのお金、アーシアちゃんの役に建てるなら出さしてもらうよ」

 あっさり協力を得られた?なんで?

 横からピュロスが小声でささやく。

 (訳はあとで、とりあえずクレイステネス様に合わせて偉そうに指図してください)

 え・偉そうになんですか?


 戸惑いながらも、ピュロスの指示通り振る舞うことにした。

 「ではクレイステネス、資金援助しっかりたのむぞ」

 「了解、ガッテン承知の介でさぁ」

 のりのりでクレイステネスさんが答える。

 なんか、道の真ん中で演劇やってる気分になってきた。

 あ……演劇か、なるほど……わかってきた。

 クレイステネスさん、やっぱ怖いわ。

 これって陶片追放に自分がひっからないようにするための小芝居だ。


 普段から僭主(王様)っぽくならないように、芝居をしていて、自分が小物に見える機会があればいつでも利用する。

 その相手をできる人間には代償は払い、ギブアンドテイクの関係を作る。

 使えるかどうか確認してたのが、あの真剣な顔の時だったのか。


 わかったのでとりあえず演技をつづける。

 「よろしく頼む」

 (演技経験……特殊技能(演劇)ランクF取得)

 「ははぁー、なんてね。」

 そういうとクレイステネスさんはわらいながら神殿の門の方を指さした。

 「アーシアちゃん、あっちにキモンがいるよ。」

 指さす先には山羊を連れた12・3才くらいの少年がいた。


 あれ、いつのまにかゼウス神殿のすぐ前まで来ていた。

 背中には嫌な汗が流れている。ものすごい緊張させられていたんだ。

 キモンを見た瞬間に緊張が解けたらしい、というか解かせてくれたらしい。

 この人ぐらいになると他人の緊張すらコントロールするんだ、勉強になった。


 「おーい、キモン!」

 「ああ、クレイステネス様。こんにちわ。ずいぶん盛大な行列に入ってますね」


 クレイステネスさんが大声をだしてキモンを呼び止めた。これも少年と同等の感じを強く出して自分を低く見させる行為だと思う。


 「いやー、噂のアポロ神殿の巫女の団体がいたんで、お願いして一緒させてもらったのよ。アーシアさん、彼がミルティアデス将軍のご子息のキモン君です。キモン君、こちらが巫女のアーシア様」

 「初めまして、アーシア様」

 「初めまして、キモン様。それと「様」はやめていただけるとありがたいのですが」

 よこめでクレイステネスさんを睨む。

 

 「ではアーシアさん。私はキモンでいいです。まだ15才ですので」

 「わかりましたキモン。よろしくお願いします」


 そのあとはなんとなく一緒に山羊を奉納する形になった。

 さすがにこれだけの数の山羊が一緒にはいるのは、壮観らしく神殿の門では大きな歓声に迎えられた。

 

 クレイステネスさんが先触れで俺の名前を呼んでいる。

 「デルフォイのアポロ神殿の予言巫女アーシア様一団より山羊23頭奉納ーー」

 あ、ちゃっかりキモンの分まで俺の分にかぞえてる。

 キモンを見るとニコニコとこっちを見ている。

 まあ、本人が気を悪くしていないようなので、気にしないでおこう。


 神殿の門をくぐり、さて今晩どこに泊まるか決めないと、そう思った瞬間だった。


 「アーシアちゃん。しばらく、うちに泊まってけよ。明後日にはミルティアデスも帰ってくるだろうから、その時に連れていくわ」


 絶妙の間である。

 やっぱクレイステネスさんに弟子入りしたいなー。人間関係の作り方、達人級だと思うぞ。


=アーシアのスキル一覧表=

汎用知識(ギリシャ地域)

一般技能(鑑定)

一般知識(公衆衛生)

特殊技能(尋問)ランクD

特殊技能(神学)ランクF

特殊技能(神聖文字)ランクF

特殊技能(法学)ランクF

特殊技能(料理)ランクD

特殊技能(詐欺)ランクF

特殊技能(薬草学)ランクE

特殊技能(弁論)ランクF

特殊技能(取引)ランクE

特殊技能(魔術)ランクC

特殊技能(乗馬)ランクF

特殊技能(演劇)ランクF

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