第七百三十九話 妥協点
---三人称視点---
もう少しでまた五大種族で重要会議がある。
その前に魔族の幹部に伝えておく事があるな。
明日に魔族の幹部を集めて、重大発表を行おう。
と思いながら寝室で皇后マリアローリアと共に寝入った魔王レクサー。
そして気がつけば、黒い場所に居た。
周囲には真っ黒い空間が広がっていた。
真っ黒い空間、まるで深淵の闇のような世界。
「またここに来たのか」
レクサーはそう独りごちた。
だがこれはこれで悪くない。
天界へ行く前に奴の意見を聞いておくのも悪くない。
と思っている脳裏に野太い声が響いた。
『よぉ』
言うまでも無い。
先代魔王ムルガペーラの声だ。
確か前に話したのは、天使軍と戦う前。
ならばこのタイミングで先代魔王が何を言うのか。
レクサーは少なからずの興味を抱いて、先代魔王に問うた。
「どうした? 俺に何か用か?」
『用という程の用じゃねえよ。
ただ予想に反して天使軍相手に勝利をおさめたからな。
だからちょっとばかし祝いの言葉でも言おうとおもってな』
「そんなものは無用だ。
だがそれ以外に何か言いたい事でもあるのではないか?」
『そうだな、あると言えばある』
「ならばハッキリと言うが良い」
『分かったよ、じゃあ言うぜ。
レクサー、この後、天界へ行くそうだが、
お前は仮に勝てたとしたら、
どの辺りまで相手を追い詰めるつもりだ?』
唐突な質問だが、確かに重大な要項だ。
レクサー自身、言われるまで、然して考えてなかったが、
これを機に少し考えてみる事にした。
するとレクサーも先代魔王の問いの重要性を理解した。
「……成る程、いざ考えてみたら、
どういう風に事をおさめるか、悩む問題だな」
『でも群れを統べる頭目としては、
決して無視出来ない問題だろ?』
「確かにな、とりあえず今、思いついた事だが、
相手の戦力を無力化する、これが理想的だが、
よくよく考えたら、相手は大天使の軍団。
魔法力はそこまで差はないが、
科学力では圧倒的に相手が上回る状況。
そんな相手に大勝利を収める。
という状況を容易に作り出せられる筈もないな」
『……そこに気付いたか』
「嗚呼、となると現実的路線としては、
ある程度、相手に勝った状態で、
適当に和平を結んで、その後、和平会談。
のようなものを行い、相手に譲歩する。
というのが一番無難な落とし所かもしれんな」
『……お前自身はどう思っているんだ?
大天使や神に対してさ』
「大天使は良いとして、
もし向こうに神という存在が控えているならば、
それはそれで非常に厄介な事になるだろうな。
何せ神だ、オレ達の人智を超えた存在である可能性が高い。
だがオレは神相手と言えど、無条件で跪くつもりはない。
むしろ神相手に文句を言ってやりたい気分だ」
『ほう~、どんな文句を言うつもりだ?』
「何故、我々ウェルガリアが天使に侵攻されないといけないのか。
また天使共に大量破壊兵器を使用させて、
多くのウェルガリアの民の命を奪った。
オレも五大種族の頭目として、
この辺に関しては、神相手と言えど退くつもりはない」
レクサーのこの考えはある意味、ラサミスが出した結論と似ていた。
実際に天使軍は、メギドの炎を持って、
罪のないエルフ族や猫族を大虐殺した。
仮にウェルガリアという惑星が大天使や神の定めた掟に、
背いたとしても、この仕打ちはあまりにも酷い。
だがそこでレクサーは、ある事に気付いた。
魔族にも魔神信仰など神を崇める文化はあるが、
神そのものが直接、魔王や民草に対話する事はほぼ皆無。
魔族は暗黒神ドルガネスを信仰しているが、
その暗黒神は魔族における契約システムや成長システムには、
少なからず関与しているが、
魔王レクサーと言えど、暗黒神の直の声を聞いた事は一度もない。
本音を言えばレクサーは、然して信心深くなかった。
暗黒神ドルガネスを崇めるのも、
それが魔族の文化や風習であるからだ。
レクサーは安易に神にすがる。
といった考えは個人的には嫌いであった。
神にすがる前に自分自身でやれるだけの事をやる。
それが彼がこの世で生きて行くスタンスだった。
『そうか、でも程ほどにした方がいいぜ。
神とはいえ間違いはあるだろうからな。
だから無難な落とし所、妥協点を上手く見つけるんだな』
「そうだな、そうさせてもらおう」
『おお、じゃあな。 レクサー。
次会えるか、どうかは分からんが、
お前やお前の仲間の武運を祈らせてもらうぜ』
「……好きにしろ」
そしてレクサーの意識が薄れていく、目が覚めた。
「……」
レクサーの目が覚めると、視界の端に、ランプの光が揺らいで見えた。
明かり取り用の小窓から外を見ると、朝日が見えた。
音は特に聞こえなかった。
精々、皇后の寝息が聞こえるくらいだ。
「どうにも最近の奴は以前程の覇気はないな。
だがなんだかんで良い助言をしてくれるのも事実。
大天使相手の妥協点か、それについて真剣に考えるべきだな」
ベッドの近くの置き時計に目を向けると、
時刻はまだ朝の五時十六分だった。
まだ起きるには少々、早い時間だ。
だからレクサーは二度寝をすべく瞼をゆっくり閉じた。
次回の更新は2026年2月12日(木)の予定です。
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