第七百三十七話 一燈照隅(前編)
第百八章 一燈照隅
---ラサミス視点---
拠点に到着後、小休止を挟んで、
オレ達は二階の談話室に集まっていた。
オレ達八人以外にもドラガンがこの場に居合わせていた。
まあオレ達の人生の分岐点になる話し合いだからな。
だからドラガンの意見も聞いておきたいところだ。
皆はそれぞれ立ったまま。
あるいはソファに腰掛けて、オレに視線を向けていた。
さあて、ここはオレが進行役を務めるしかないな。
とりあえず皆の本音をちゃんと聞き出しておこう。
「皆、よく集まってくれた。
今から16日後の3月21日にニャンドランド城で、
天界遠征に関して大掛かりの会議がある。
そこでの話し合いが終われば、
オレ達の天界遠征は正式に決定する。
だから今のうちに皆の本心を聞いておきたい。
もし心変わりした者が居るなら、遠慮無く言ってくれ。
オレは皆に無理強いする気はない。
嫌なら嫌とハッキリ言ってくれ」
「……」
オレがこういうと一瞬、皆が押し黙った。
だがしばらくするとジウバルトがムスッとした表情で、
やや強い口調で発言した。
「団長、今更それはねえぜ。
オレ達は皆、覚悟を決めて天界遠征を望んだんだ。
それを今更、水をさすような事は言わんで欲しいぜ」
まあジウバルトの気持ちもよく分かる。
だがここは団長としてあらゆる可能性を模索する必要がある。
「無論、無粋は百も承知だ。
だがこういう流れだと中には断れない。
という者が出てもおかしくないだろう。
だから最後に確認の意思を取っておきたいんだ」
「団長、まあアンタの立場ならそう言う必要もあるかもしれんが、
団長のアンタが妻であるエリス……さんと共に遠征に参加するんだぜ?
それを何もせず見守る、なんて真似はオレには出来ないね」
「ジウ、お前の気持ちは凄く嬉しい。
だからお前の参加は認めるが、
団長としては、他の者の意見を聞いておく必要があるのさ」
「そうだね、その辺はアンタの判断に任せるよ」
うむ。
とりあえずジウバルトの気持ちはよく分かった。
後は残り六人の――
「アタシも参加するわ。
でも一つだけ言いたい事があるわ」
「……メイリン、なんだ?」
「本当にエリスも同伴させるの?
赤ちゃんは、ラミレスちゃんはどうするつもりなの?」
成る程、そう来たか。
まあ当然の疑問と言えば当然だよな。
でも確かにちゃんと答えておく必要があるな。
オレはそこでエリスに目配せした。
するとエリスが眼で頷いて、メイリンの疑問に応じた。
「メイリン、ラミレスはライル兄様夫妻に預けるわ。
わたしも散々悩んだけど、
この世界の危機に夫の帰りだけを待つ。
という事はわたしもしたくないのよ。
夫が死地に行くなら、わたしもついて行くわ。
でもね、わたしとラサミスも必ず生きて帰って来るわ。
可愛いラミレスに寂しい思いをさせたくないからね」
「え、エリス……」
いつになく真剣なエリスにメイリンも思わず黙り込んだ。
するとミネルバがやんわりとフォローしてくれた。
「メイリン、これは夫婦間の問題よ。
独身のアタシ達が口を出す問題じゃないわ。
大丈夫、あたしが必ず二人を護ってみせるわ」
「ミネルバ、ありがとうな。
そういう君も参加の意思は固いのか?」
「ええ、どうせあたしの帰る場所はこの拠点だからね。
エリス同様に遠くから仲間を見守る。
なんて真似をするくらいなら、
天界へ行って大天使の一人や二人くらい倒してみせるわ」
……ミネルバらしいな。
彼女のこういうところは本当に素晴らしいと思う。
「ウム、これで年長組はほぼ参加決定だな。
では次は年少組の意見を聞いた方が良いニャ」
ドラガンが良い感じに話をまとめてくれた。
なんだかんだでこういう時は頼りになるな。
「そうだな、じゃあマリベーレ。
お前さんの素直な気持ちを聞かせて欲しい」
とりあえずまずはマリベーレを指名してみた。
年少組だが彼女は古参のメンバーだしな。
するとマリベーレは、やや固い表情で喋りだした。
「アタシは正直悩んでいるよ。
天使軍に壊滅させられた旧エルフ領の復興も気になる。
でも皆が行くなら、アタシだけ行かない。
という選択肢を選ぶ程、アタシは臆病じゃないわ」
「その辺は気にするな。
本当に嫌なら拒否しても構わんよ」
だがマリベーレは首を左右に振って――
「ここでアタシを連れてかない方が残酷だよ。
もしそうなったら、アタシは一生負い目を背負う事になる」
「それもそうだな」
「うん、だからアタシも天界へ行くよ」
「……分かった」
これで八人中六人は天界へ行く事となったが、
残されたジュリーとバルデロンが何を言うかが、
少し見当もつかないな。
まずは話しやすい空気を作ろう。
話しやすい空気をな。
次回の更新は2026年2月8日(日)の予定です。
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