第七百三十三話 多士済々(後編)
---三人称視点---
「……」
天使長ミカエルの発言で、
この生命の間をしばしの間、沈黙が支配した。
しかしいくら天使長の命令といえど、
安易に受け入れる事が出来ない命令内容。
そこでまずは大天使サリエルが反論に投じた。
「ちょっとお待ち頂きたい。
よりにもよって地上の民をこの天界に招き入れる?
いくら天使長の命令といえど、
安易に受け入れられる話ではありませんな」
勿論、ミカエルとてこの手の反論は想定内。
だから彼は落ち着いた口調で応じる。
「貴公等が不平を抱くのは当然だ。
だが今回のウェルガリアの遠征にあたって、
不測の事態が何度も起きた。
幾人もの大天使が戦死。
更には空中要塞も撃破された。
これはもう我等、天使族の沽券に関わる問題だ。
だから私は連中をこの天界に迎え入れて、
完膚なきまで叩き潰すつもりだ」
そう言うミカエルの声は強い意志がはらんでいた。
どうやら天使長の決意は固いようだ。
これは安易に口を挟める空気ではない。
と、この場に居る大天使が誰もが思ったが、
無条件でこの命令を受け入れる気にもなれなかった。
「成る程、仰る意味は理解しました。
ですが地上の民をこの天界に招き入れるのは、
やはり反対です、連中が厄介ならば、
ここは核爆弾の使用を解禁すべきかと」
サリエルの主張は、
他の大天使も似たような感情を持っていたので、
彼等は発言や同調こそしないが、
心の中ではサリエルを支持していた。
だがミカエルも譲らない。
自身の主張を変えず、真っ向からサリエルの提案を撥ねつける。
「核爆弾の使用は固く禁じる。
これは天使長命令に加えて、
熾天使ガブリエルと結んだ盟約でもある。
それ故に貴公等にもこの盟約は護ってもらう」
「何故ですか? それ程、手に余る存在ならば、
ここは科学力の差を生かして、
連中を一掃すべきでしょう!」
「……自分も同士サリエルと同じ考えですな。
無論、安易に核爆弾を使用すべきではないと思うが、
それらの過程を飛ばして、地上人を天界に招く。
という事柄を看過する気にはなれないですな」
今度はサンダルフォンが反対の姿勢を示した。
彼の考えは至ってまともである。
という事をミカエルも理解していた。
実際、先程の神託でミカエルは、
神から気になる言葉を聞かせられたばかりだ。
これ以上、自身の考えに固執するのは、
ややスタンダートプレイが過ぎる、という事も理解していた。
だが彼はあえて自我を、エゴを貫いた。
「同士サリエル、同士サンダルフォン。
貴公等の意見もよく分かる。
だが既に多くの大天使が打ち破られて、
我等の切り札である天空の方舟も連中に抑えられた。
ここまでされた以上は、
私も天使長としての意地がある。
それに我々、天使も少し考えを改める時期に来てるのかもしれない」
「……それはどういう意味ですかな?」
周囲に機械的な音声が響いた。
どうやら力天使メルキセデクが発言した模様。
「同士メルキセデク、それに他の同志諸君。
私は今回のウェルガリア遠征に踏み切った理由は、
連中が他天体や他の世界に侵略する可能性を危惧して、
この手で連中に制裁を加えるつもりであった。
だがそれ自体が我等、天使の思い上がりだったかもしれん」
「……」
ミカエルの心情を知って、
メルキセデクやサリエル達も思わず黙り込んだ。
ウェルガリア侵攻の経緯は、
受肉した際に簡単に説明されていたが、
天使長ミカエルがここまで拘る理由の一端が窺えた気もする。
天使は他天体や異世界に特定の種族が進出する事を嫌う。
自身の世界だけでならば、
どんなに残酷や冷酷な所業をしても、
天使が関与する問題ではないとしている。
だが各惑星間などのバランスを崩す侵略行為は、
頃合いを見て天使が関与する事は稀にある。
しかしその結果、今回は大きな痛手を負ったようだ。
大天使を何体も撃破された上に、
空中要塞を破壊、メルカバーも拿捕された。
このような事態は天界では滅多に起きない。
そう言う意味じゃミカエルがここまでウェルガリアの民に
拘る気持ちも分からなくはない。
「……成る程、どうやら我々が思っていた以上の緊急事態のようですな。
ある意味、我等天使族の存在意義を掛けた戦い。
になりつつあると言う事でしょうか?」
「同士サリエル、まさにその通りだ。
だから私も天使長の命令に従う事にした」
熾天使ラファエルがここで初めて発言した。
彼の言葉からも決意の固さが感じ取られた。
――これは無駄に反論しない方が良いな。
サリエルだけでなく、
メルキセデクとサンダルフォンも似たような感情を抱いた。
その結果、彼等も天使長の命令に従う事にした。
「分かりました、色々と思うところもありますが、
ここは天使長の顔を立てて、従う事にします」
「自分も同士サリエルと同じ気持ちです」
「私も二人に賛成するよ」
メルキセデクとサンダルフォンも折れた。
これによってミカエルの命令が実行される事となった。
するとミカエルも満足そうに頷いて――
「同志諸君、私の我が儘を聞き入れてくれて感謝する。
だがもう我等だけの問題ではないのだ。
我等、天使族の沽券と存在意義を掛けて、
奴等と――ウェルガリアの民と戦う。
勝てば我々が正しく、負ければ奴等が正しい。
そういうシンプルな形で決着をつけて、
その結果次第で我々も考えを改めて、
今後の方針を決める必要があると思う」
こうして受肉した大天使達も天使長の命令に従う事にした。
天使軍も退けないが、ウェルガリア軍も退けない。
悪対正義ではなく、正義対正義の戦い。
だからこそお互い引くに引けず、
自らの存亡を掛けた戦いに挑もうとしていた。
次回の更新は2026年1月29日(木)の予定です。
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