序章(プロローグ)
序章
第三部【天界】編
天界エリシオン。
その神託の広間の祭壇の前にて、
天使長ミカエルは、跪いて祈りを捧げていた。
天使長ミカエル、そして熾天使ラファエルとガブリエル。
そして極一部の大天使は、この神託の間で、
祈りを捧げる事によって、
神――創造神グノーシアの声を聞く事が可能であった。
だが天使長や熾天使といえど、
安易に神の声を聞くことは赦されてなかった。
しかし今回は例外中の例外。
天使長ミカエルの命令により、
大天使達は惑星ウェルガリアに侵攻したが、
当初思い描いていたような成果を上げる事は叶わなかった。
そして天使長ミカエルの独断によって、
熾天使ガブリエルを仲介人として、
地上の民――ウェルガリアの住人を天空の方舟メルカバーを使用して、
この天界エリシオンに招く事となった。
ミカエル自身は自分のこの判断は正しいと思っていた。
だが神の視点から見て、どうなのか。
という理由から彼は久しぶりにこの神託の広間に顔を出して、
神の声を直接聞こうとしていた。
そして祈りを捧げる事、十分余り。
ミカエルの頭に神々しさに満ちた声が響いた。
(ミカエル)
(ミカエル)
(天使長ミカエル)
(私の声が聞こえますか?)
女性とも男性ともとれる中性的な美声。
だが神々しさに加えて慈悲に満ちた優しい声音であった。
「創造神グノーシア、そのお声は私にきちんと伝わってます」
ミカエルはそう言って、
相変わらず祭壇の前で跪いて両手を握り祈りを捧げていた。
彼は天使達を束ねる天使長であったが、
彼もまた神に仕える神徒の一人であった。
天使長といえど、
神に対する畏敬や情愛の念は、
一時も忘れず、神の前では何処までも従順であった。
(天使長ミカエル、私に何を求めるのでしょうか?)
(アナタの意思を述べなさい)
「私は貴方――神の言葉が聞きたいのであります。
我々は少し前から、この世界の理に反したとある惑星に、
神罰を加えるべく、侵攻致しましたが、
予想に反して、苦戦しております」
(成る程)
(それで)
(アナタは)
(私に何を、どのような助言を求めるのですか?)
神の声を聞き、
ミカエルは言い知れぬ悦びを覚えた。
だが同時にある種の罪悪感にさいなやまれた。
天使長の権限で今回は独断に過ぎた。
という自覚はあるので、ミカエルは己の気持ちを神に打ち明けた。
「私はその惑星の住人と真っ正面から、
向かい合うべく、熾天使ガブリエルを仲介人として、
この天界に招いて、決着をつけるべく戦うつもりであります。
私自身はこの判断に間違いはないと思ってますが、
ここは神の声が聞きたい、という思いもあります」
するとしばらくこの広間が静寂に包まれた。
ミカエルからすれば、重い沈黙であったが、
彼は神が再び声を発するまで辛抱強く待った。
そして神はゆっくりと語り出した。
(天使長ミカエル)
「はい」
(アナタがそう思うならば、そうしなさい)
(ただ……)
「ただ、何でしょうか?」
(もしそうする事によって、この世界の理)
(この世界、宇宙に大きな影響を与えて)
(この世界、宇宙を構成する法則が崩壊して)
(この世界、宇宙が滅びても)
(アナタは自分の考えを突き通しますか?)
「……」
唐突な神の言葉にミカエルも思わず押し黙った。
彼は今の肉体と精神を受肉して、
人の時で言えば数千年近く生きてきたが、
これまで何度も神と対話してきた。
しかし彼の記憶がある限り、
神がこのような発言をした事は初めてであった。
だからミカエルも神の言葉に少なからずの動揺を覚えた。
「……そのような事態が訪れる、というのですか?
端的にそう問うミカエル。
(例えばの話です)
(ですがこの天界が特定の世界の住人と深く関わると……)
(事象レベルで様々な現象が起こります)
(その結果、アナタ方――天使)
(そして私こと神の想像外の現象が起こる危険性はあります)
「……そうなのですか?」
(ええ、そうです)
(それでもアナタは自分の信念を貫きますか?)
(その結果や世界や宇宙が滅びても)
(アナタは後悔しませんか?)
「……」
あまりにも重すぎる選択肢。
ミカエルにも天使長としての誇りと責任感はある。
だからあえてウェルガリアの民を、
この天界に招き入れて、戦う。
という選択肢を選んだ。
だがその結果、天界でなく数多の世界。
あるいは宇宙そのものが滅んでも、
自分の信念を貫き通す。
という選択肢を選ぶほど、
彼は傲慢でもなく、愚かでもなかった。
「……正直、今の私には答えを出せません。
私は天使長としての誇りと責任感はありますが、
私もまた神の神徒であり、
この広い宇宙においては、一つの生命体に過ぎない。
という自覚はあります」
(そうですか)
(それを聞いて少し安心しました)
(その事を決して忘れないでください)
(アナタも、天使もまたこの宇宙における一つの生命体)
(アナタ方はこの宇宙におけるある種の管理者ですが)
(広い宇宙、あるいはそれ以上の事象においては)
(アナタ方もまた一つの役割を担った存在に過ぎない)
(という事を心の何処かで覚えておいてください)
(それさえ忘れなければ)
(きっと異世界の住人とも)
(分かりあえるでしょう)
「この言葉、よく覚えておきます」
(……)
だがここで神の声は聞こえなくなった。
ミカエルはしばらくは祈りを捧げたまま、
神の声を再び待ったが、
五分経っても何も起きなかったので、
祈りを中断して、この広間の床から立ち上がった。
そして祭壇をジッと眺めて、こう言った。
「神のこのような声は初めて聞いた。
これは何かと危険な予兆かもしれない。
やはり特異点をこの天界に招き入れるのは危険か。
だが何もせず、退くなどという真似は出来ん。
……しかし常に何かを警戒しておく必要はありそうだな」
次回の更新は2026年1月22日(木)の予定です。
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