第七百三十話 黄昏の夕空
---ラサミス視点---
その後、オレ達はリアーナの冒険者ギルドへ行き、
オレは三番目の独創的技「無明三段」を正式に登録した。
それからギルドの職員相手に、
ミネルバやジウバルト達のスキルの割り振りの相談やスキル一覧表を
複写してもらったが、結局全員この場ではスキル調整はしなかった。
「よくよく考えたら、後半年もあるのよね。
だから今、無理に慌てずじっくり考えるわ」
「オレもミネルバさんと同意見だよ。
この休養期間の間にも迷宮に遠征するだろうし、
もう少し自分の技や能力を見直して、
何を習得するか、よく考えてみるよ」
ミネルバとジウがそう言うと、
ジュリーも「私ももう少し考えます」と結論を保留した。
まあこれに関しては各自の意思を尊重すべきだよな。
「分った、分った、まあまだ焦る時期じゃねえからな。
んじゃ拠点へ帰ろうぜ」
「ええ」「ああ」「はい」
十数分後。
オレ達は無事に拠点に到着。
するとドラガン達が俺等を迎えてくれた。
「おお、ラサミス、問題は解決したか?」
「嗚呼、ある程度は解決したよ。
でもまだ半年の猶予があるから、
オレや他の仲間も技や能力の習得には、
細心の注意を払うつもりだよ」
「そうか、じゃあ皆、小休止したら、
拠点に庭へ集合するニャン。
拙者が良い所へ案内してやる」
「ん? 何処かへ行くのか?」
「嗚呼、でもそれはまだ必要ニャン」
「了解、とりあえず皆、小休止するぞ」
そしてオレ達は一度解散して、
拠点内の各自の部屋へ移動した。
オレも武装解除して、身軽な格好に着替えた。
上下に黒のシャツに青いズボンという格好。
そして黒のフーデットローブをその上から羽織った。
一応、念の為に予備の刀・雪風を帯刀しておこう。
十五分後。
着替え終わったオレ達は、拠点の庭に集合した。
エリス、メイリン、ミネルバ、マリベーレにジュリーという女性陣。
そしてドラガン、ジウバルト、バルデロンの男性陣も揃っていた。
「おー、ラサミス来たか。
じゃあ皆でこのリアーナを一望出来る丘へ行くニャン」
ちなみにドラガンは、
冒険者時代の青い羽根付き帽子に青いコートとズボンという格好だった。
ドラガンのこの姿を見るのも久しぶりだな。
だが少し太ったのか、コートがキツそうだ。
「そうだね、たまには皆で街を一望するのも悪くなさそうだ」
「うむ、そういう事だから拙者について来い」
「嗚呼」
それからオレ達は、十五分ほど歩いて、丘の上へやってきた。
そして沈みゆく夕日を全員で丘の上から眺める事にした。
金と朱に染まる空の下、リアーナの街並みが一望できる絶景スポットだ。
「おお、これは絶景だな」
「嗚呼、拙者がこのリアーナで一番気に入っている景色さ」
「確かに素晴らしい景色ね」
「ええ、流石はドラさんね」
エリスとメイリンも相槌を打つ。
確かに素晴らしい景色だ。
このリアーナの街は、
オレ達の第二の故郷であり、心の拠り所である。
そして黄昏時の柔らかな光は、
オレ達の疲れた心を静かに慰めてくれた。
オレ達はオレ、エリス、ドラガン、メイリン、ミネルバ。
ジュバルト、マリベーレ、ジュリー、バルデロンと前後二列に並んで、
この黄昏の夕空を心ゆくまで眺めた。
「ラサミス、覚えているか?
あのマルクス達との戦いの後に観た夕空を……」
忘れるわけがない。
あの日、観た夕空はオレの冒険者人生の原点だ。
「もちろんさ、忘れるわけがない。
あの夕空はオレの冒険者人生の原点さ」
「あら? アンタ、上手い事言うじゃない?」
と、メイリンが微笑を浮かべた。
「ええ、わたしも勿論覚えてますわ」
と、エリス。
「私はちょっと分らないわね」
「あたしも……」
「オレも……」
嗚呼、そうか。
ミネルバやマリベーレ、ジウバルトは、
まだその時は仲間じゃなかったよな。
「あの時、あの夕空を観たメンバーの内、
ライルとアイラが結婚して冒険者家業を引退。
そして拙者も一線から退いたが、
今でも心はお前等と一つだ」
「オレもさ」
「わたしもよ」「あたしもッス!」
オレ、エリス、メイリンも声を揃えて同調する。
するとドラガンは、左手でくいっと青い羽根付き帽子をあげた。
「だからこそ、今の団長のラサミスにあえて問う。
お前はどうしても天使達と戦うつもりか?
可愛い妻子が居るのに、あえて死地に向かうのか?」
成る程、ドラガンの言いたい事は大体分ったぜ。
でもこれに関しては、既に結論が出ている。
だからオレは威風堂々と彼の問いに応じた。
「嗚呼、ドラガンの言いたい事は分るよ。
何もオレが戦う必要はない、と言いたいんだろ?」
「まあな……」
「オレは責任感だけで、奴等と――天使と戦う訳じゃない。
彼奴等とは意思の疎通がとれる。
最初は天使というから、
我々、人間の常軌を逸した神々しい存在かと思いきや、
奴等は奴等で人間臭いところがあるんだよ。
だからお互いに納得がいくまで、
話し合えば……案外通じるものがあるかもしれない」
「でもそれをお前がやる必要があるのか?」
ドラガンの言うことも一理ある。
オレには妻子が居る身。
別にオレでなくても良いのでは?
というドラガンの心遣いも分る。
でもオレもこの半年以上の間に奴等と戦ってきた。
そしてオレは何人かの大天使を倒したし、
奴等とも顔を合せて議論を交わしてきた。
そういうオレが居れば、
今後の天使との話し合いの場で何かと役に立つであろう。
「今だからこそだよ。
後、五年もすればオレも二十後半という年齢。
その時にはオレも妻子を放置して、
天使達との戦いに挑みやしない。 だけど……」
オレはそこでいったん言葉を切り、一呼吸置いた。
ドラガンだけでなく、エリス達もこちらを見ていた。
そしてオレは自分の思いをこの場にさらけ出した。
「今のオレなら奴等とも戦えるし、
魔王レクサーや連合軍の役にも立つ。
自分が出来る仕事を放り出して、
我が身や妻子、仲間の事だけ考えるというのは、
今のオレには少々向いてないんだよ。
でもこの戦いが無事に終われば、
オレも一線から退いて、妻子を優先するよ」
「そうか、ならば拙者ももう何も言わんよ。
でもラサミス、お前がこのリアーナに帰ってきたら、
拙者は身体が動く限り、お前を出迎えるよ」
「ドラガン……」
「じゃあ話は以上だ。
後は皆でもう少し黄昏の夕空を観よう」
「嗚呼……」
オレがそう言うと、皆もまた黄昏の夕空を見据えた。
相変わらずとても美しい景色だ。
この美しい光景が、
この美しい世界がいつまでも続いて欲しい。
恐らくオレだけでなく、
ここに居る皆がそう思っていただろう。
でもこの世界を護る為に、
オレ達は天界へ行って大天使と戦う必要がある。
その為にはこれまで以上に頑張る必要があるし、
オレの出来る事は何でもするつもりだ。
この世界――ウェルガリアを護る為に、
――オレは戦うっ!
だけど今くらいはゆっくりしたいぜ。
そしてオレ達は、日が完全に沈むまで、
この黄昏色の夕空をずっと見据えていた。
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『黄昏のウェルガリア』【天使編】・おわり
これで【天使編】の前半部分は終わりです。
本作をなろうに投稿して、約八年半以上経ちました。
本作をここまで長く続けられたのも、
全ては読者の皆様のおかげです。
次回から第三部【天界編】が始まります。
この【天界編】は、自分の出来る範囲で、
良い物語を書けるように、精進致します。
ここまで長く書いた作品なので、
やはり終わりはちゃんとした形で書きたいと思います。
今後とも【黄昏のウェルガリア】をご愛読していただけると嬉しいです。
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それでは皆様、今後ともよろしくお願いたします!
次回の更新は2026年1月20日(火)の予定です。




