第七百二十八話 自己研鑽(中編)
---ラサミス視点---
待つ事、十五分余り。
奥の事務所からバルバーンが出てきた。
「おー、ラサミス。 とりあえず一通りの情報は手に入れたぞ。
今から説明していいか?」
「嗚呼」
「まずは職業能力に関してだ。
黄金の手が最後に習得出来るのが、
「森羅万象」という能力だ。
この能力は基本的に明鏡止水と同じだ。
能力を発動すれば、
能力値が十分間、倍加される。
それでいて明鏡止水とも重ね掛けが可能だ」
「えっ? じゃあ能力値が四倍になるという事か?」
オレの問いにバルバーンが「そうだ」と頷く。
マジかよ、これはとんでもねえ能力じゃねえか。
仮に基本の能力値の力が4000だとすると、
16000まで上がるという事か。
この数値は伝説級のドラゴン並だ。
目新しさはない能力だが単純に強い。
これならばミカエル達とも渡り合えそうだ。
「ただこれだけ強力な能力だからな。
要求されるスキルポイントも生半可じゃねえ。
今のお前さんだと後、100ポイント振る必要がある」
「100ポイントか、なら今回覚えるのは無理そうだな」
「嗚呼、とりあえず50ポイントだけ、
パッシブ・スキルに振って後はスキルとかを覚えた方がいいだろう」
「なんか良い武器スキルとかあったかな?」
「一通り調べたが、ラサミスは何のスキルを上げたいんだ?」
「そうだなあ、刀術スキルは前に上げたしな。
それにちょっと三番目の独創的技の目星もついてるから、
体術スキルで何か良い技を覚えたいかも……」
「ああ、あるにはあるぞ」
「本当かいっ!?」
流石はバルバーンの旦那。
オレの要望に見事に応えてくれるぜ。
「体術スキルに後、30ポイントを振れば、
帝王級の体術スキル「ローリング・ナックル」が覚えられる」
「ローリング・ナックル? どんな技だい?」
「論より証拠だ。 まずは右構えでファイティング・ポーズを取ってみろ!」
「あ、ああ……」
オレは言われるまま、
右構えでファイティング・ポーズを取ってみた。
「じゃあ俺がミットを構えるから、
お前はまずは普通の右ストレートを打ってみろ」
バルバーンはパンチングミットを構えて、そう言う。
……技名からしても何らかのパンチのようだな。
とりあえず言われたまま右ストレートを打ってみるか。
オレは両手にバンテージを巻いてから、
パンチング・グローブをはめた。
「んじゃ行くぜっ!!!」
オレは言われた通りにミット目掛けて右ストレートを打った。
すると「パアン!」という小気味いい音が響いた。
「……相変わらず良い右を打つな。 そして今回はその右の威力を
更に増す方法を教えてやるよ。 よく聞いておけよ?」
「嗚呼……」
「まず普通の右ストレートは腰の回転を生かして打つよな?
ストレートだけでなく、フックも腰の回転が重要だ。
でも必ずしも回転させて、パンチを打つことが重要なわけじゃない。
回転を利かして強いパンチを相手に打つ。 これが主目的だ。
だから強いパンチを相手に打てるなら、必ずしも腰を回転
させる必要はない。 ここまでは理解出来るか?」
「うん、それは分るよ」
「では右ストレートを腰の回転を使わず、
前に出る力を利用して打ってみろ!」
「え?」
いや腰の回転を使わない右ストレートなんか
打ったことねえぞ? どうするんだ?
まあとりあえずやってみよう。
とりあえずオレは言われるまま、右ストレートを打ってみた。
しかし自分でも分かるくらいにぎこちない打ち方で、
グローブはバルバーンのミットの中でぱすんという鈍い音を立てた。
「左ジャブを打つように前に出る力を利用して打て!」
「は、はい!」
ん? 前に出る力を利用して打つのか?
オレは左ジャブを打つような感じで、
押し出すように右拳を前へ突き出した。
するとミットを叩く音がさっきより大きくなった。
「いい感じだ! それだよ、それ!」
……なんとなく要領は理解した。
でもこのパンチってアレだろ?
「バルバーン、これってジョルトブロウだよな?」
するとバルバーンは感心したように「ほう」と双眸を細めた。
「お? よく分かったな」
「まあオレもそれなりに鍛錬してるんでね」
「このパンチの良いところは、腰の回転がないかわりに
通常の右ストレートより早くパンチを出せれることだ。
前に出る力を利用しているから、威力もある。
但しパンチを当てる際には、ちゃんとナックルの部分を当てろ!」
ふむふむ、なる程なんとなくは理解した。
確かにこのパンチはなかなか使えそうだ。
だがこれで終わりではなかった。
「そして仕上げはこのパンチにコーク・スクリュー回転を加える。
今教えたジョルトブロウは、
高等技術だが、そこにコークスクリュー回転を加えたら
鬼に金棒、虎に翼だ、だがこのパンチは溜めが大きいので、
使いどころが難しいのが難点だ。
工夫をしないと強い奴にはまず当たらないぞ?
強い奴ってのは、得てして防御力が高いからな。
だからただ単に強いパンチを打つだけでなく、
そのパンチを当てる為の工夫が必要になるんだよ」
「あ、その工夫なら少し心当たりがあるよ」
「へえ~、それはちょっと興味あるな。 言ってみろよ?」
「え~とこれは秘中の秘なんで他言無用で! 実は――」
オレはそう言ってから、バルバーンに近づき耳元でそのアイデアを告げた。
するとバルバーンは少し驚いた表情でこう言った。
「あ!? それ案外面白い手かもしれねえな。
少なくとも一回は使える手だ。 でも二回は駄目だ。
強い奴相手に同じ手は何度も通用しねえからな。
それにたった一回使うにしても、相当の練習が必要だぞ?
それは分かっているのか?」
「嗚呼、もちろんさ!」
「そうか、じゃあ善は急げだ。
今すぐ体術スキルに30ポイント振ってみろ」
オレは言われるがまま体術スキルに、
スキルポイント30を割り振った。
すると帝王級の技『ローリング・ナックル』を習得。
そして何度か覚えたてのローリング・ナックルを試し打ちした。
とりあえず先程のように右手にグローブをつけて、
職業ギルド内にあるサンドバックを何度か殴打した。
体重を乗せた状態で右腕を捻るから、
少々腕の筋が痛むが、何度か使うと要領を得た。
良し、これでまた持ち技が増えたぜ。
でもまだこれで終わりじゃない。
そしてオレはバルバーンに再び助言を請うた。
「ありがとう、色々と助かったよ。
でもオレはまだまだ強くなりたい。
だから第三番目の独創的技に関して、
バルバーン、もう一度アンタのアドバイスが欲しい」
次回の更新は2026年1月15日(木)の予定です。
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