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【天界編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第九十四章 力天使ヴァーチャ

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第七百二十五話 一大決心(前編)


---ラサミス視点---



 この日の夕食のメニューは、

 ビーフステーキ、ポテトサラダ、大盛りのライス。

 それに赤ワインのボトル、赤ワインがつがれたグラス。


 オレは色々と疲れていたので、

 夕食を一気に食べきると、風呂に入った。


 戦場では携帯食に精々水浴びだからな。

 このように自宅で食事、入浴出来る有り難みを痛感した。


 そして軽く世間話をしてから、

 夜の二十二時半には、寝室でエリスといっしょに寝た。


 尚、疲れていたので夜の営みはなしだ。

 普通に身体を寄せ合って、寝る。

 それだけでも言い知れない幸せを感じた。


 翌日の10月4日。

 この日は疲れていたので、

 オレは昼過ぎまで惰眠を貪っていた。


 如何いかんせん、ここの所、連戦続きだったからな。

 戦場の緊張感が消えた今、

 急に本能にかえって睡眠欲も限界まで満たした。


 そして正午過ぎに一階に降りて、

 エリスが作ってくれた昼食を摂った。


 昼食のメニューはサンドイッチにコーンスープという軽食。

 それを軽く平らげて、オレはコーンスープの入ったカップに口をつけた。

 すると一階の食堂で、オレとエリスが横に並び、

 その対面に座ったドリス義母かあさんが急に真剣な面持ちになった。


「じゃあ、ラサミスくん。 戦場での出来事を教えてもらえるかしら?」


「はい」


 そこからオレは要点をかいつまんで、

 これまでの戦いの流れを分かりやすく説明した。

 するとドリス義母かあさんの表情が徐々に曇り始めた。


「成る程、連合軍の精鋭部隊を集めて、

 敵の本拠地――天界へ行く、という訳ね」


「はい、そうです」


「それでアナタも天界へ行くのね」


「……恐らくそうなるでしょう」


「エリスとラミレスちゃんを置いて?」


 胸に刺さる言葉だ。

 だがオレはそれでも自分の主張を続ける。

 と思った矢先にエリスが会話に割り込んできた。


「いえ、お母さん。 私もラサミスと一緒に天界へ行くわ!」


「え、エリス! アナタ、正気なのっ!?」


「ええ、正気ですわ。

 お母さん、前にも言いましたわ。

 最終決戦には私もついて行く、と。

 ただ夫の帰りを待つだけでなく、

 夫のそばに居て、夫婦で助け合う。

 それが私達の夫婦像ですわ」


「でも行き先は天界という未知の世界なのよ?

 それこそ帰ってこられるかも分からない場所よ!」


「大丈夫、きっと帰ってこれるわ」


「……その根拠は何処にあるの?」


 母子による言葉の応酬。

 だがエリスも一歩も引かない。

 凜とした表情でエリスはドリス義母かあさんを見据える。


「ラサミスと一緒ならきっと大丈夫よ。

 彼は今までも、そして今回も無事に帰って来たわ。

 だから例え天界であっても、

 ラサミスと一緒なら生きて帰れるわ」


「……根拠のない言葉。

 ように見えて確かな夫婦の絆はあるわね。

 エリス、アナタは昔から手のかからない良い子だったけど、

 一度言い出したことは、梃子でも動かない頑固な一面もあったわね。

 そして今がその時のようね」


「流石はお母さん、私の事をよく理解してくれてるわ」


「そりゃ私はアンタの母親だからね……」


「そして私もラミレスの母親よ。

 こんな可愛い子を置いて、何処かに消えたりはしないわ。

 でも天界へ行く間は、お母さんやライル兄様夫妻の世話になるわ」


 エリスの意思はとても固い。

 そしてオレも彼女と同じ気持ちだった。


 恐らく次の天界の戦いが、

 オレの、ラサミス・カーマインの最後の戦いになるだろう。


 次の戦いは今までとは一味も二味も違う。

 正真正銘のウェルガリアの命運を掛けた戦いになるであろう。


 だからこそ妻として夫の側に居たい。

 というエリスの気持ちはよく分かる。


 そしてオレとしても妻が側に居れば、

 もっと頑張れるし、何が何でも生き残ろうとするだろう。


「ドリス義母かあさん、オレもエリスと同じ気持ちです。

 オレも妻や子供は可愛い、でも天界の戦いは、

 言わばウェルガリアの命運を掛けた戦いなんですよ。

 そんな戦いに自分が参加せず、

 のうのうと妻子と暮らす、という選択肢をすれば、

 オレはきっと一生後悔するでしょう」


「ラサミスくん、でも生き残れたらそれで良いじゃない。

 何もアナタがそこで無理する必要はないんじゃないかしら?」


 尤もな指摘だ。

 娘夫婦を心配する母親としては完璧な回答だ。


 だがオレはそれでも天界へ行く。

 そうでないと、多分自分が赦せなくなる。


「オレも今では名の知れた冒険者です。

 そしてオレの力を必要としてくれる仲間や盟友が居る。

 ならばオレとしても自分の出来る事をきっちりやりたい。

 大事なのはオレが天界の戦いで自分の役割を果たす事。

 それを無事果たして、無事に生還出来たら、

 オレはもう冒険者を辞めてもいいし、

 それ以上は戦う事もないかもしれない。

 でも次の戦いだけは何としても戦う。

 そして見事にウェルガリアを救い、

 この世界に再び平和をもたらせたいと思います」


 別に自分に酔っている訳ではない。

 オレ自身、玉砕特攻する気はさらさらない。


 でもオレはどうしても天使達と戦い、

 奴等に過ちを認めさせた上で、

 奴等と和解するように持っていきたい。


 それが簡単じゃない事は勿論理解している。

 だけど今、逃げる訳にはいかない。


 今、この時なのだ。

 ラサミス・カーマインという男にとって、

 今、この時が人生の最高到達点なのだ。


 だからオレは逃げずに戦う。

 そして必ず生き残ってみせる。


 そうすればオレはきっと本当の意味で大人になれる。

 オレはそう思いながら、ドリス義母かあさんの顔をジッと見据えた。



次回の更新は2026年1月8日(木)の予定です。


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