第七百二十四話 帰還(後編)
---ラサミス視点---
オレは要点をかいつまんで、
分かりやすく今回の一連の騒動に関して、ドラガンに説明した。
するとドラガンは真顔になり「そうか……」と言って暫し黙り込んだ。
まあそう簡単に結論が出せる問題じゃないからな。
他の団員達も神妙な顔をして、ドラガンの言葉を待っていた。
するとドラガンも考えがまとまったのか、
ゆっくりとした口調でオレに問い掛けてきた。
「ラサミス、端的に聞くぞ。
お前は天界遠征軍に加わるつもりか?」
「嗚呼、そのつもりだ。
だがオレは他の団員にそれを強制するつもりはない。
遠征に参加するか、どうかはこの半年の間によく考えて欲しい。
決してオレに対して妙な義理立てはしないように。
あくまで自分の意思や気持ちを最優先して決めてくれ」
「……」
オレがそう言うと、周囲の仲間達は再び沈黙した。
まあでもこれは最初に言っておかないとな。
この天界遠征はこれまでの戦いとは違う。
それこそウェルガリアの命運を掛けた戦いになるだろう。
でも正直生きて帰れる保証は何処にもない。
そんな戦いに仲間を強制参加させる。
なんて真似はオレには出来やしない。
「そうか、まあ拙者もお前と同じ意見だよ。
こればかりは強制出来るものじゃないからニャ。
皆もよくよく考えて答えを出すがいいさ」
「嗚呼、オレもそう思うよ。
まあまだ半年の猶予があるさ。
無理に答えを出そうとせず、
自分の本音を大事にしてくれ、以上が団長としての言葉だ」
「……アタシは参加してもいいわ」
と、決意した表情でそう言うミネルバ。
すると他の団員も自分の意見を述べ始めた。
「あたしは正直悩んでいるわ。
気持ち的には参加したいけど、正直怖いと思う気持ちも強い」
「メイリン、それが普通さ」
「オレは多分参加すると思うよ。
魔王陛下の力にもなりたいからね」
「そうか、ジウバルト。
お前の気持ちはよく分かったよ。
だが今すぐ結論を出す必要もない。
兎に角、よく考えてから結論を出せ」
「嗚呼、分かったよ……」
「他の皆も結論を急ぐなよ。
焦らずよく考えろ、これは団長命令だ」
するとジュリー、バルデロン、マリベーレが「はい」とか「うん」とか返事した。
まあ多分、多くの者が遠征に参加する事になるだろうが、
現時点で結論を急ぐ必要もないからな。
「じゃあしばらく皆に休暇を与えるよ。
オレも久しぶりに自宅へ帰るわ。
何かあったら気兼ねなく連絡してくれよ」
「うむ、久しぶりの一家団欒を楽しめ」
「嗚呼、じゃあ皆、またな」
そう言ってオレは拠点を後にした。
そしてその後で自宅へと向かった。
「妻子に会うのも久しぶりだな。
ラミレスももう大きくなったのかな?」
ラミレスももう一歳半だからな。
もう少しでちゃんとした言葉も喋るだろう。
……。
こうして家族の事を考えると、やはり胸が痛むぜ。
ラミレスはまだまだ手間がかかるし、
その負担はエリスやドリス義母さんにかかっている。
その上で未知なる世界――天界へ行くのだ。
これは一人の父親としては、少々無責任かもしれない。
……でもやはりオレは行かなくちゃならない。
ここまで首を突っ込んでおいて、
今更、素知らぬふりを決め込む事は出来ない。
などと思っていると自宅についた。
……なんだか庭の手入れが行き届いてるな。
綺麗に刈られた芝と手入れが行き届いた花壇。
恐らくエリスが子育ての合間に手入れしてくれたのだろう。
彼女には本当に頭が下がる。
まさに良妻賢母だ。
「おっと……感傷に浸りすぎたな。
とりあえず玄関のドアをノックしよう」
オレは自宅の玄関の赤い扉を左手で数回ノックした。
「オレだ、ラサミスだ」
すると赤い扉が開いて、
オレの愛妻――エリスの姿が視界に入った。
「あ、ラサミス。 おかえりなさい」
「嗚呼、エリス、ただいま」
「とりあえず中へ入ったら?」
「……そうだな」
オレはエリスと横に並んで、一階のリビングまで移動した。
そのリビングには、ドリス義母さんがラミレスを抱えて、
ソファに腰掛けていた。
「ラサミスくん、無事で何よりだわ」
「はい、お義母さん、無事に帰って来ました」
「色々と疲れたでしょう。
夕食の準備をするから、
アナタはソファでゆっくり休んでいて頂戴」
「はいっ……」
「あ、お母さん。 ラミレスの世話を変わるね」
そう言って、今度はエリスがラミレスを抱き抱えた。
赤子を抱く姿が妙に絵になる。
まさに育児する母親という感じだ。
「ちょっと食材が足りないわね。
アナタ達の拠点に行って食材を分けてもらいに行くわ。
ラサミスくんはエリスと一緒にラミレスちゃんの世話をしてて」
「あ、はいっ!」
「お母さん、いってらっしゃい」
しばらくするとドリス義母さんは家の外へ出た。
必然的に家の中には、オレ達夫婦と息子だけが残された。
オレとエリスは無言で見つめ合っていた。
何だろう、色々と喋りたい事があるが言葉が出てこない。
でもまずはこの一言を言わなくちゃならない。
「エリス、ラミレス、ただいま」
「うん、おかえりなさい」
こうしてオレは死線を乗り越えて、我が家に帰って来た。
……帰るべき家がある、という事は幸せかもしれない。
そう噛みしめながら、
オレは今この瞬間に言い表せない幸福を感じていた。
次回の更新は2026年1月6日(火)の予定です。
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