第七百二十二話 頂上会談(後編)
---三人称視点---
十分の休憩が挟まれて、場の空気は少し和んだ。
ガブリエルとの関係も少し改善したので、
魔王レクサーも威厳を取り戻して、凜とした声で言葉を発した。
「熾天使ガブリエル、貴公の提案を素直に受け入れようと思う。
とりあえず天界へ行くことは決定事項とするが、
その遠征する人員については、
この半年の間によく話し合って決めようと思う」
「そう、それが良いでしょうね。
私も半年ぐらいならこのウェルガリアに居ても構わないわ」
「そういう事だ、貴公等の意見が聞きたい」
レクサーはそう言って、アーベル国王達に視線を向ける。
するとアーベル国王達も自身の主張を述べだした。
「我等、猫族も当然人材を派遣しようと思ってます。
我が種族最強の魔導師であるニャラード団長は当然として、
ここに居るマリウスも派遣する事になるでしょう」
と、アーベル国王が淡々と答える。
「良いのか? マリウス王弟は王族であろう?」
「構いませんよ、魔王陛下。
国政に関しては、このように兄上――国王陛下がいらっしゃる。
ならばボクは実戦部隊を率いる司令官となりますニャ」
「まあ貴公が良いのであれば、余もそれ以上は何も言わんさ」
「我がエルフ族は、首領であるこの私――巫女ミリアムは、
ウェルガリアに残り、弱体化した穏健派エルフ族を立て直したいと思いますが、
最低限の人員は派遣するので、その辺はご安心ください」
「そうか」
と、魔王レクサー。
「我が竜人族も族長のわたしはこの地に残りましょう。
その代わりにレフ団長達や他の傭兵を実戦部隊として派遣しましょう」
「うむ、それが無難な落とし所であろうな」
レクサーはそう言って、
視線をラサミスやヨハンに向けた。
こうなるとラサミスも無視を決め込む訳にもいかず、
とりあえずは自身の考えを述べる事にした。
「オレ個人は天界へ行っても構わないさ。
でも他の団員の意見も聞く必要があるので、
もう少し時間をくれないか?」
「我がヴァンキッシュも同じです。
もう少し時間をください」
流石に即答は出来ない問題だったので、
レクサーも「うむ、構わん」と言ってそれ以上言級しなかった。
だがこれで最低限の話し合いが終わったが、
ラサミスが気になった点をガブリエルに問い質した。
「天界へはこの船――メルカバーを使うらしいが、
帰りはどうするんだい?」
当然の疑問であったが、
ガブリエルは落ち着いた表情でゆっくりと返答する。
「まあ当然メルカバーを使う事になるでしょうね。
でもそれを考えるのは時期尚早よ。
アナタ達が天界で私達大天使や天使長を倒して、
お互いが納得する協議を行う。
という可能性は現時点では限りなく低いわ」
「なっ……」
突き放した言いように、ラサミスも言葉を詰まらせる。
だがここで逆上せず、それ以外にも気になる点について尋ねた。
「天界というのがどれほどの広さか分からんが、
こちらはどれぐらいの人員を連れて行けば良いんだ?
水や食料の問題もあるだろうしさ」
「いえ天界に来たら、水や食料の心配。
後、トイレ問題なども考える必要ないわ。
それというのも天界という世界は、
非常に特殊な空間である種の時の流れがない世界なのよ。
無論、世界を最低限構成する為の時の流れは存在するけど、
食料や水を飲まなくても飢餓や喉が渇く事もない世界よ。
この辺は実際に来てもらえば分かるでしょう」
「へえ、そりゃスゲえや。
流石は大天使様の本拠地という感じだな。
で現地に着いたら、アンタが案内役をしてくれるのか?」
「いえ、しないわ」
「……そうなのか?」
予想外の返答にラサミスも少し狼狽するが、
ガブリエルは毅然とした表情で理由を述べる。
「私がするのはあくまで現地までの案内よ。
それから先はアナタ達の独力で天界を進みなさい。
そして数々の大天使を撃破して、
熾天使ラファエルとミカエルを
倒して彼等を説き伏せなさい。
それがアナタ達に与えられた使命よ」
「成る程な、まあ現地まで案内してくれるだけで、
オレ達としては大助かりだからな。
それ以上、アンタに甘える訳にもいかんな」
「そういう事よ」
「……ての事ですが、
魔王陛下や他の皆様方もこの条件で良いッスか?」
「そうだな、その条件で十分だ」
と、魔王レクサー。
「我々も依存はニャいよ」
「「同じく」」
マリウス王弟。
そして巫女ミリアムと族長アルガスも声をそろえて返事する。
「そうか、ならばこの会議もお開きにしよう。
カーマインや剣聖殿はここで幽閉されて結構経つからな。
お互いの話し合いが済んだ以上、
カーマイン達を人質にする必要ももうなかろう?」
「そうね、この時点で彼等を解放するわ。
次の話し合いは……そうね、三ヶ月後にしましょう。
場所は同じくこのメルカバーで、異論はないわね?」
「嗚呼、貴公等もないよな?」
レクサーにこう言われたら、
ラサミスや巫女ミリアム。
アーベル国王達も「はい」と答えるしかなかった。
その後、ガブリエルは――
「今夜は遅いのでこのメルカバーに泊まってもいいわよ?」
と言ってきたが、そこは丁寧にお断りした。
ラサミスやヨハン達は、魔王レクサーの軍勢に引きつられて、
夜は野営、目が覚めたら馬や馬車で行軍して、
その日のうちに王都ニャンドランドに到着。
「ではカーマインとその一行よ。
今回の戦いでも本当によく健闘してくれた。
褒美などは後日、進呈しよう」
ラサミス達を労う魔王。
それに対してラサミスは――
「そうか、それならば有り難く受け取るよ。
でも今は正直身体も心もヘトヘトだ。
だからオレ達は一刻も早くリアーナへ帰るよ」
「それもそうだな。
では、カーマイン。 また会おう」
「嗚呼、またな」
こうしてラサミス達は、久しぶりに自由の身となった。
だが彼等は文字通り心身共に疲弊していたので、
この日はニャンドランド城の客室で、泥のように眠りについた。
次回の更新は2026年1月1日(木)の予定です。
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