第七百二十一話 頂上会談(中編)
---三人称視点---
ガブリエルの発言で、室内の空気が重くなったところで、
ティータイムが挟まれた。
通常バイオロイド達がトレイに紅茶や珈琲の入ったマグカップを乗せて、
丁寧な仕草で会議の参加者達の前に置いていく。
今のところ、発言をしてないラサミスは、
珈琲の入ったマグカップに口をつけて、
周囲の様子を注意深く観察する。
魔王レクサーは、いつものように堂々としているが、
巫女ミリアム、族長アルガス辺りは神妙な表情をしていた。
尚、アーベル国王はポーカーフェイス。
マリウス王弟に至っては、
ミルクの入ったマグカップを舌でチロチロと舐めていた。
――皆、緊張しているな。
――無理もない。
――ガブリエルの言葉を安易に従えないよな。
――だが恐らくガブリエルの要求に従うしかないだろう。
――天使達はオレ達を遙かに凌駕する技術力の持ち主。
――このメルカバーのような船を複数持ってる可能性もある。
――その複数の船でもう一度ウェルガリアを攻められたら――
――オレ達はお手上げだ。
――だからここは素直にガブリエルの要求を呑む、べきだが……
ラサミスがそう思う中、
ティータイムと休憩時間が終わり、会議が再び始まる。
「少しは落ち着いて考えられたかしら?」
「嗚呼、お陰様でな」
と、魔王レクサー。
「では魔王レクサー、アナタの意見を聞かせて頂戴」
「熾天使ガブリエル、ならば応えよう。
貴公の要求に乗るのも良いが、
ここで貴公を亡き者にして、
この船を乗っ取る、という選択肢はどうかな?」
「なっ!?」
レクサーの言葉に、ラサミスは思わず言葉を詰まらせた。
いやラサミスだけじゃない。
巫女ミリアムもアーベル国王、族長アルガスも明らかに驚いていた。
だが当のガブリエルは、動揺する事なく異様に落ち着いていた。
「成る程、そういう手段もあるわね。
でもね、その選択肢を選んだらアナタ達はお終いよ?
それに私も黙って殺られるつもりはないわ。
少なくとも魔王レクサー、アナタだけは必ず始末するわよ。
何なら今すぐこの湖の底へ送ってあげましょうか?」
「それは困るな。
でもそれを実行したら、貴公も終わりだ」
「ええ、今の私の記憶と肉体は失われるでしょう。
でも我々、大天使は時間さえおけばいつでも復活出来る。
それに私がその気になれば、
この世界を破壊する事も可能なのよ?」
「……あのエルフ領を破壊した超兵器でも使うのか?」
レクサーはあくまで強気な姿勢を崩さない。
だがレクサーは短絡的な男ではない。
このような話題を振って、
ガブリエルと天使側の情報を引き出している。
という側面は少なからずあった。
「メギドの炎ね、でもアレだけじゃないわ。
その気になれば、一発で数十万人を一瞬で消せる爆弾もあるわ」
核爆弾の事である。
この話は事実だが、
ガブリエルは実戦での核爆弾の使用には反対している。
だがレクサーの言いように、
彼女も頭にきており、このような言い方になっていた。
「……一発で数十万人を一瞬で消せる爆弾か。
それが本当なら心底恐ろしいな」
レクサーもこの話には少しばかり動揺した。
するとガブリエルがすました顔で言葉を紡ぐ。
「残念ながら事実よ」
「そうか……。
どうやら貴公等を侮っていたようだ。
先程の発言と振る舞いに関しては詫びよう。
少しばかり無神経な物言いであった……」
そう言って、レクサーは頭を下げた。
するとガブリエルも溜飲が下がったのか、
「分かれば良いのよ」と言って、怒りの矛を収めた。
「要するにガブリエルの身の安全を確保した上で、
お互いに歩み寄る姿勢を見せるべき、という話か。
どのみち真っ向から戦っても勝ち目はなさそうだ。
ならばここは大人しくガブリエルの言葉に従おうぜ」
と、ラサミスがフォローに回る。
「自分もラサミスくんと同じ意見です」
「私も同じ気持ちです」
剣聖ヨハンとレフ団長もそう相槌を打つ。
するとレクサーもここは我を捨てて、周囲の空気を読んだ。
「分かった、余も貴公等の意見を受け入れる事にしよう。
アーベル国王、巫女ミリアム、アルガス族長もそれで構わんよな?」
レクサーの言葉にアーベル国王達も「はい」や「ええ」と賛同する。
これでウェルガリア軍は、
ガブリエルの提案を受け入れる事にした。
だがそれと同時に新たな問題が起こった。
その辺の要点をまとめて、レクサーがガブリエルに問い掛けた。
「熾天使ガブリエル、では最初の要求通りに、
我々はこのメルカバーに乗艦して、
そなたらの本拠地――天界とやらに飛んでも構わん。
だがそこへ連れて行く人員に関しては、話し合う必要がある。
何せこの世界の命運を分ける戦いだ。
また同行者の質の見極めや条件も聞き届ける必要もある。
だからある程度の時間が欲しい、というのが本音だ」
このレクサーの言い方は、
誠意があり、物事の本質を見据えた意見であったので、
ガブリエルの心にも響き、彼女も軟化した態度を見せた。
「まあそうでしょうね。
確かに一朝一夕で決めれる話じゃないわね。
良いでしょう、出発まで三ヶ月、いえ半年の猶予を与えましょう」
「そんなに時間がもらえるのか?」
と、魔王レクサー。
「ええ、これは一つの惑星の命運を賭けた戦いよ。
アナタ達がそれ相応の誠意を見せれば、
私もそれ相応の対応をする、それだけの話よ」
「そうか、ありがとう……」
「いえいえ……」
こうして話の落とし所は決まった。
だが問題はこれからだ。
天界に連れて行く人員を厳選する必要がある。
レクサー自身も天界へ行くつもりだ。
だがもし自分が死んだ時の事を考えて、
誰かを新たな魔王として任命する必要もある。
無論、その時はウェルガリアも追い込まれた状況だろうが、
最低限の形式は整えておくのが、魔王の役割の一つだ。
「すまん、少し休憩してもいいか?」
「そうね、十分ならいいわよ」
「それで構わん」
こうして二度目の休憩が挟まれた。
次回の更新は2025年12月30日(火)の予定です。
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