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第七百十七話 虚心坦懐(後編)


---三人称視点---



 熾天使してんしガブリエルとの対話。

 これは只の敵との交渉ではない。

 場合によっては、ウェルガリアの今後の命運を変える事になる。

 その事を自覚しながら、ラサミスは慎重に口を開いた。


「ではまずは熾天使してんしガブリエル。

 アンタの要求が何か教えて欲しい」


 するとガブリエルの美声が周囲に響き渡った。


「私の要求は簡単だわ。

 アナタ達と天使長ミカエル達の間を取り持つ仲介人になる事よ。

 但し話の主導権はこちらにあると思って欲しい。

 私がその気になれば、ここに居る全員を外に放り出せるし、

 地上に居るアナタ達の味方を全滅させる事が出来る。

 でもそれは私の本意ではない。

 だからアナタ達も私、天使に対して誠意を見せて欲しい」


「無論、オレとしてもアンタをこれ以上、怒らせるつもりはない。

 それでアンタはオレ達と天使長の仲を取り持ってくれるのか?

 それ自体は有り難いが、

 オレ達も無条件でアンタ等――天使に服従するつもりはない」


 相手の要求を受け入れつつも、

 自身の主張と要求はしっかりする。

 ラサミスのこの交渉術は、この場においては正しかった。


「無論よ、私もアナタ達に対して、

 一方的な服従を強いるつもりはないわ。

 だけど譲れない部分も当然ある。

 だからこの話し合いでその辺のすり合わせをしましょう」


「嗚呼、分かったよ」


 とりあえず交渉のテーブルにつく事は成功した。

 だがここから先は一つの発言の間違いも赦されない。

 そこでラサミスは剣聖ヨハンに目配せして――


「ヨハン団長、ここから先はオレと貴方だけが発言しましょう。

 ここで迂闊な事を言うわけにもいきませんしね。

 周囲の皆もそれで納得してくれ」


 ラサミスの提案に彼の仲間達も素直に従った。

 「暁の大地」や「ヴァンキッシュ」の団員達も

 戦闘力だけでなく、知能も高く、会話術もそれなりに優れていたが、

 このような世界の運命を変える交渉をする気にもなれず、

 この場は各々(おのおの)の団長に交渉権を無条件で譲った。


「それでは早速だが聞かせてもらいたい。

 熾天使してんしガブリエル、アンタは個人の意思で、

 オレ達と天使の仲介役を務めるつもりかい?」


「ええ、でも天使長ミカエルから承諾は得たわ。

 アナタ達が望むのであれば、

 彼も平和的な解決を所望している。

 但しそれには言葉でなく、行動で示せ。

 その為には直に天界まで来て、

 自分を納得させてみろ、それが彼の主張よ」


「天界へ行く?

 そんな方法があるのか?」


 当然の疑問を抱くラサミス。

 ガブリエルはその疑問に真摯に答えた。


「ええ、この私を納得させて、

 お互いが納得出来たのであれば、

 私がこのメルカバーを時空転移させて、

 私達の世界――天界エリシオンまで案内してみせるわ」


「天界エリシオン……それがアンタ達の世界か?」


「そうよ」


「そこで天使長達と戦って、

 彼等を納得させてみろ。

 そうすれば彼等もオレ達に歩み寄る。

 分かりやすく言うとこういう事だな?」


「そうよ、理解が早くて助かるわ」


「……」


 ガブリエルが嘘を言っているようには見えなかったが、

 俄には信じがたい話だったのも事実。

 だからラサミスはヨハンに視線を向けて、彼の意見を待った。

 その空気を察したヨハンがゆっくりと言葉を紡ぐ。


「こちらとしても言いたい事は色々とあるが、

 アナタがたが歩み寄る、というのであれば、

 我々としてもアナタの言葉を信じたいと思う。

 だが……」


「だが……何かしら?」


「そんな事をして、アナタに。

 そして天使長ミカエルに何か利点があるのか?

 わざわざ自分達の本拠地に敵を招く。

 なんて真似をして何か意味があるのかい?」


「意味はあるわ、天使長も今回のウェルガリア侵攻が

 時期尚早かつ間違いがあった事も認めているのよ。

 でもそれを言葉だけで詫びる気もなければ、

 言葉だけでアナタ達を許容する気はない。

 平たく言えば、力を持って自分を説き伏せてみよ。

 それが彼――天使長ミカエルの意思よ」


「成る程……」


 そこでヨハンは口を閉じた。

 ガブリエルの提案は決して悪い話ではない。

 ヨハンとてこのメルカバーのような超テクノロジーを

 有する集団相手に無条件で勝てるとは思っていない。


 だがヨハンやラサミスの意思だけで、

 これらの話を決定する事はとても出来なかった。


「とりあえず我々には交戦の意思はない。

 その事を地上に居る魔王陛下や他の首脳部に伝えた上で、

 彼等の許可を得たら、

 アナタとウェルガリアの首脳部を交えた会議の席を設けたい。

 という事を上層部に伝えたいと思う」


「そうね、それが良いでしょう。

 でもアナタ達の上層部が約束を反故する可能性があるから、

 悪いけどアナタ達には、このメルカバーに残ってもらうわ。

 ちょっとした人質ね」


「その条件は呑ませてもらうよ。

 アナタも身の安全を護る保障は欲しいでしょうから」


「ええ、本当に理解が早くて助かるわ。

 じゃあこの後に私、そしてアナタか。

 そこの特異点――ラサミス・カーマインに艦内の兵士達に

 戦闘の中止を呼びかけてもらうわ」


「そうだな、それは快く承諾するよ。

 ラサミスくんもそれでいいよね?」


「……はい」


「では交渉成立ね」


「嗚呼、悪いが艦全体に停戦を呼びかけたいので、

 手頃な道具を貸してもらえないか?」


「いいわよ、この部屋にある音声マイクで、

 全艦に停戦を伝えて頂戴」


「嗚呼、悪いが使い方を教えてくれ」


 そしてヨハンはガブリエルから、

 音声マイクの使い方を教えてもらい、

 凜とした声で艦全体に呼びかけた。


「私は剣聖ヨハン・デューグラーフである。

 我々は熾天使してんしガブリエルとの話し合いに応じる事にした。

 これ以上の戦闘は無駄でしかない。

 全兵士に告ぐ、今すぐ戦闘を中止せよ」


 だが全ての兵士が停戦に応じる事はなく、

 結局、ヨハンは後二回も停戦を呼びかける事となった。


 そしてウェルガリア軍がメルカバー内に突入して、

 三時間十分後、ここで両軍が停戦に応じる事となった。


次回の更新は2025年12月21日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
お疲れ様です。最新話まで読まさせて頂きました。 いやぁ~天使軍編、熱いですね。ウリエルのくだりは泣きマークなしでは読めませんでしたよ(*´;ω;`)b それだけキサトンさんは登場キャラの一人一人に…
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