第七百十四話 奮闘努力(後編)
---三人称視点---
熾天使ウリエルは、二枚一対の漆黒の両翼を羽ばたかせて、
上空に回避を試みるが、先程のメイリンの氷結魔法で、
両翼は凍結された状態なので、思うように浮上出来なかった。
剣聖ヨハンが放った黄緑色の衝撃波は太いビーム状になり、
四メーレル(約四メートル)ほど浮上したウリエルに照準を合わせて、
ホップする軌道を描いて、暴力的に渦巻きながらウリエルに差し迫った。
「くっ! ――ルミナス・ウォールッ!!!」
ウリエルは咄嗟にで神帝級の障壁を張った。
そして黄緑色の衝撃波が目映く輝いた障壁に衝突すると、
耳をつんざく衝撃音と共に、爆音が生じて、強烈な爆発が巻き起こった。
「……やったか!!」
「ラサミスくん、油断するな。
相手は熾天使、死亡が確定するまで油断は禁物だ」
「ヨハン団長、そうですね」
ヨハンとラサミスがそう言葉を交わすしているうちに、
爆煙はおさまり、右手で腹部を押さえたウリエルの姿が露わになった。
装甲が打ち抜かれて、腹部の辺りに大穴が空いて、
大量の血が流れ落ちる中、ウリエルは右手で呪文を唱えた。
「わ、我は汝、汝は我。 我が名は熾天使ウリエル。
そ、創造神グノーシアよ。
わ、我に力を与えたまえ! 『女神の息吹』!ッ」
ウリエルがそう呪文を唱えると、
彼の身体が白い光に包まれた。
するとウリエルの肉体が物凄い速度で治癒されていく。
「な、舐めた真似をしてくれたな。
もうこうなれば許さん、必ず殺して……アレッ?」
そう言ってウリエルは、酩酊したように身体を左右に揺らした。
聖人の回復魔法で傷は癒えたが、
失った血液を補充する事はままならず、重度の貧血状態に陥ったのだ。
「好機! ――疾走っ!!」
ウリエルがよろめく中、
ラサミスは加速魔法を掛けて、聖刀を鞘に納刀するなり、
全力で床を蹴って、一気に間合いを詰めた。
ウリエルも反撃を試みるが、
左腕は以前切断された状態で、
残った右手から神剣を手放して、
右手の自由を確保するが――
「させねえよっ! ――徹しっ!」
そう言うなり、ラサミスの瞳がぎらりと光った。
ラサミスは一気に間合いを詰めて、ウリエルの懐に入り込んだ。
そして「ハアァッ」と声を上げて、
右手を開いたまま大きく前へと突き出した。
その右手がウリエルのむき出しになった腹部を捉えた。
次の瞬間、凄まじい衝撃がウリエルの体内で爆発する。
「う……うおおおおお――」
野獣のような呻き声をあげてウリエルが後方にぶっ飛んだ。
そして五メーレル(約五メートル)程、
吹っ飛んで背中から後方の隔壁にぶつかると、
「ごほっ」とうめき声を漏らし、口から胃液と血液を吐き出した。
今の一撃で肋骨が数本折られたが、
不幸中の幸いで肺は潰されずに済んだ。
だが結果的に更なる攻撃を受ける事となった。
「まだ終わらねえよっ! ――乱火風光剣っ!!」
ここでラサミスは、独創的技を繰り出した。
まずは聖刀の刀身に風の闘気を宿らせて、袈裟斬りを放つ。
「ぐ、ぐ、ぐはァァァッ……」
袈裟斬りが見事に決まり、
ウリエルは、右肩口を斬りつけられて、低い声で呻く。
今度は刀身に炎の闘気を宿らせた。
そこから逆袈裟を放ち、
ウリエルの身体に×の字を刻み込んだ。
風と炎が混じり合い、魔力反応『熱風』が発生。
するとウリエルが「ごはっ!」と口から新たに鮮血を吐いた。
だがこれで終わらない。
ラサミスは右手に持った聖刀の刀身に闇の闘気を宿らせる。
今度はその腹部目掛けて、渾身の突きを繰り出した。
ずぶっ、という感触と共に聖刀がウリエルの腹部に突き刺さり、
ラサミスの手元にも確かな感触が伝わる。
そして魔力反応が『熱風』から『闇熱風』に変化する。
だが眼前のウリエルは、魔力反応『闇熱風』に身を焦がしながらも、両足で踏ん張り、床に倒れ伏せる事を全力で拒否した。
この心意気は立派である。
流石は熾天使というべきであろう。
だが結果的に更なる悲劇を生む土壌となった。
ラサミスは再度、聖刀を鞘に納刀する。
そして軸足を右足から左足に切り替えた。
つまりは左構えから右構えにスイッチしたのである。
「今度は肺を潰してくれるわっ! ――徹しっ!!」
ラサミスは今度は右手に風の闇の闘気を宿らせる。
それからまたウリエルの懐に入り、
右手を開いてウリエルの胸部を強打した。
「げ、げ、げはあああぁぁぁっ……」
ラサミスの右手に凄まじい衝撃が再び伝わる。
するとウリエルは口から、
またしても胃液と血液を吐き、両膝を地につけた。
両眼を見開き、気力を振り絞るが、既に肉体は限界であった。
今の一撃で折れた肋骨が内臓に突き刺さり、
肺も右肺が破壊されて、事実上の戦闘不能状態となった。
魔力反応が『闇熱風』から『超闇熱風』に変わり、
ウリエルは何度も口から血を吐きながら、
右手で腹部を押さえて、ずるずると床に倒れ落ちた。
「ふうぅっ……流石は熾天使だ。
今までのどの大天使よりも強いかったぜ。
だがオレは魔王レクサーや魔元帥とも戦った。
そしてお前も強いが、魔王の方がお前より強い。
だからオレはこうしてお前に勝つ事が出来たのさ」
そう言う言いながらも、
ラサミスは八割近くの魔力を浪費していた。
呼吸を乱しながら、床に倒れ込んだウリエルを見据えた。
するとウリエルはふるふると身体を震わせて、
それと同時に全身を覆った漆黒の装甲が一気に縮んだ。
数秒もすると元通りのサイズになり、
その両目から急速に輝きを失ったウリエルが地面に倒れ伏せていた。
よく見るとウリエルの近くに輝きを失った深紅の石が転がっていたが、
今のラサミスは勝利宣言する余裕もなかった。
ラサミスは身体を微動させて、腰帯のポーチに右手を突っ込んで、
万能薬の入った瓶を取り出して、栓を抜き、
その中身を一気に口に流し込んで体力と魔力の回復を最優先していた。
「疲れた、マジ、疲れた。 もうしばらく戦いたくねえ」
それは嘘偽りのない本音であった。
次回の更新は2025年12月14日(日)の予定です。
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