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第七百九話 熾天使(してんし)ウリエル(後編)


---三人称視点---



 一対十。

 数字的にはラサミス達が圧倒的に優勢だったが、

 熾天使してんしウリエルは、この状況でも互角以上に渡り合った。


 剣聖ヨハンは、ウリエルの強烈な魔法攻撃を撃ってきたら、

 得意の「魔封陣まふうじん」を使って、

 十八番おはこの「ゾディアック・スティンガー」で迎撃するつもりであったが、

 ウリエルはこの然程、

 広くない空間で強力な魔法攻撃を使用する愚行は行わなかった。


 以上の理由から、

 お互いに上級以上の魔法攻撃を打ち合いする事はなく、

 ウリエルが時折、初級から上級の魔法攻撃を無詠唱で放ってきた。


 だがラサミス達も慌てずスキルや対魔結界、障壁バリアを駆使して、

 殆どの魔法攻撃を防いだ。


 熾天使してんしウリエルは、確かに強かった。

 今のラサミスや剣聖ヨハン、ミネルバの三人を相手にしても、

 互角以上に渡り合い、中衛のジュリーやバルデロン、クロエの支援攻撃も

 完璧に防ぎ、後衛のメイリン、カリン、マリベーレの遠距離攻撃も

 ほぼ完封して一対十の状況でも苦としなかった。


 だが予想外の強さではなかった。

 少なくとも戦い方や使用するスキルや魔法も

 この世界で普通に使われるもの類いであって、

 人知を超えたような力ではなかった。


 要するに想定内の強さなのだ。

 これならばいつかは隙を見せて、勝機も出てくる筈だ。


 この十数間における戦闘で、

 ラサミスと剣聖ヨハンはその事実に気付いた。

 ならばそろそろこちらも攻勢を掛けるべきだ。


 そう思いながら、ラサミスと剣聖ヨハンが視線を交わす。

 それでお互いの思っている事を理解した。


「ラサミスくん」


「はい、ヨハン団長」


「これ以上、無駄に敵のペースに合わす事もなかろう。

 ここはキミの攻勢を掛けてもらいたい。

 使えるだけスキル能力アビリティを使って、

 その後は切り札の「黄金時間ゴールデン・タイム」を使いたまえ。

 そうすれば振り出しに戻った状態で、

 疲弊したウリエルと戦える」


「そうですね、とりあえずやってみますよ」


「嗚呼」


「ほう、特異点が私と戦うというのか。

 それも良かろう」


 そう言って、ウリエルが一歩前へ出た。

 それに合せてラサミスは咄嗟に左手を前にかざして、

 職業能力ジョブ・アビリティ零の波動(ウェイブオブゼロ)」を発動させる。


「――零の波動(ウェイブオブゼロ)!!」


 次の瞬間、ラサミスの左手から白い波動が迸り、

 熾天使してんしウリエルの身体に見事に命中した。


「な、なっ、これはぁっ!?」


 ウリエルは、咄嗟に力や魔力が下がった事を理解した。

 ウリエルにかかっていた支援魔法や強化能力きょうかアビリティが強制解除された。


「――おのれっ! ディバイン・ブレードッ!!」


 危機を察知したウリエルは、

 熾天使してんし共有シェアする固有剣技ユニーク・ソード・スキルを放った。

 固有剣技ユニーク・ソード・スキルに加えて神剣しんけんのコンボ。

 まともに喰らえば、即死してもおかしくなかった。


「――喰らうかよっ!」


 ラサミスはそう叫びながら、右手の聖刀を素早く納刀して、

 身を低くしながら、この運動場の床をスライディングする。

 ラサミスのこの咄嗟の行動にウリエルも一瞬身を硬直させた。


 そして右手でウリエルの右足を掴んで、

 弧を描いて身体を反転させて、その背後を取った。


「ちっ! 小細工を労して――」


「――サマーソルトキックッ!!」


 ラサミスはそう叫ぶなり、反り返るように反転した。

 そこから右足を大きく蹴り上げた。

 ラサミスの右足が綺麗な軌道を描いて、ウリエルの顎の先端を捉えた。


「ぐ、ぐはぁぁぁっ!!」


 ウリエルが左手で顎を押さえて、

 口から唾液と血液を吐き出して、喘いだ。

 だがラサミスの攻撃はこれで止まらない。

 そして右足に魔力を注いだ闇の闘気オーラを宿らせる。


「――空中回転後ろ蹴り(ローリング・ソバット)っ!!」


 ラサミスは身体を反転させて、

 今度は空中回転後ろ蹴り(ローリング・ソバット)をウリエルの顎の先端に喰らわせた。


「がはあぁぁッ……ああぁぁッ!」


 強烈な衝撃がラサミスの右足に伝わる。

 眼前の熾天使してんしは左手で顎を押さえながら、激しく喘いだ。

 これで顎は完全に砕いた。

 この状態では口述詠唱は出来ない。


 と思った矢先、異変が起きた。

 ウリエルが後ろに下がりながら、

 左手を顎に当ててると、急に目映い光が生じた。


 それと同時に蹴り砕かれたウリエルの顎が修復していく。

 どうやらウリエルは、無詠唱で中級回復魔法を使ったようだ。


 これまでの敵で無詠唱で回復魔法を使った者は居なかった。

 どうやら熾天使してんしの名は伊達じゃなさそうだ。


「――アーク・ヒールッ!!!」


 今度は上級回復魔法を唱えるウリエル。

 これで彼の傷は癒やされたが完治には至らない。

 だが肉体的と同等に精神的なダメージを与えた筈だ。


 ラサミスがそう思っていると、

 ウリエルは自分の懐に左手を入れた。

 するとウリエルの左手に宝石のように輝いた深紅の石が握られていた。


 大きさは掌と同じくらいで球状。

 ラサミス達も一目見て並のアイテムでない事を悟った。


「……まさかこの俺をここまで追い詰めるとはな。

 だがこうなれば俺も本気を出さざるえない。

 熾天使してんしの誇りを傷つけた事を後悔するが良い。

 行くぞおぉぉぉっ……「神化しんか」っ!!!」


 ウリエルが「神化しんか」という言葉を発するなり、

 彼の左手に握られた輝いた深紅の石――ディバイン・ストーンが発光して、

 尋常ではない魔力がウリエルの周囲に渦巻いた。


 そしてウリエルの周辺でも異変が起きた。

 尋常でない魔力と共に彼が装着していた紫と銀を基調にした鎧が

 突如、変形してウリエルの全身を保護するように覆い始めた。


「こ、これは……」


「ラサミスくん、気を引き締めるんだぁっ!

 恐らく奴は何らかの力を解放した筈。

 ここから先は先ほどまでとは一味違うと思えっ!」


 剣聖ヨハンがそう檄を飛ばすが、

 ラサミス、そして周囲の仲間達は、

 変形した鎧を装着したウリエルの姿を見て固唾を呑んでいた。


次回の更新は2025年12月2日(火)の予定です。


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― 新着の感想 ―
凄まじい手汗握る激闘。とてもそんな熱戦の雰囲気が伝わります。 ラサミスへの脚光の当て方然り、描写に力をすごく入れているなと。 キャラクター1人1人をすごく大事にされているのが素敵ですね。ウェルガリ…
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