第七百八話 熾天使(してんし)ウリエル(中編)
---三人称視点---
「――雷神剣っ!!」
ラサミスが技名コールをすると、
彼が右手に持った聖刀に雷光が宿った。
「喰らいやがれっ!!!」
ラサミスは気勢を上げて、
雷光が宿った聖刀を前方に突き出した。
次の瞬間、聖刀の切っ先から、稲妻が放たれた。
「――ディバイン・ガードッ!」
熾天使ウリエルがそう技名コールをすると、
ウリエルの前方に眩く輝いた障壁が張り巡らされた。
半瞬後、稲妻が着弾。
爆音が鳴り響き、耳をつんざく衝撃音が周囲に鳴り響く。
だが稲妻は、眩く輝いた障壁を破壊するまでには至らなかった。
「これも計算通りさっ!
次はこれだぁっ! ――雷炎剣っ!」
ラサミスは、続いて神帝級の刀術スキル「雷炎剣」を放った。
ラサミスの聖刀に今度は紅蓮の炎が宿り、
狙いをウリエルに定めて、その聖刀を振った。
それと同時に紅蓮の炎が聖刀から解き放たれた。
「続け様か、だが私には効かんよっ!
――ルミナス・ウォールッ!!!」
ディバイン・ガードは既に使ったので、
蓄積時間が発生して、十五分間の間、使う事は出来ない。
だがウリエルはここで神帝級の障壁を張った。
そして紅蓮の炎が目映く輝いた障壁に衝突すると、
数秒間のタイムラグが生じた後、
爆音が生じて、強烈な爆発が巻き起こった。
「――やったか?」
「いやラサミスくん、これくらいでは奴も死なんだろう」
と、剣聖ヨハン。
「ならばもっと激しい衝撃を与えてやるわっ!
――龍炎波っ!!!」
ここでミネルバが帝王級の槍術スキルの炎属性攻撃「龍炎波」を発動。
すると漆黒の魔槍の穂先から、渦巻く炎塊が放出されて、
目映く輝いた障壁とその周囲に居た天使兵と機械兵に命中した。
「ア、ア、アァァァアァァッ!!!」
「や、ヤバイ……ギ、ギルアアアァァァッ!!!」
間を置かずして、強烈な属性系の技が繰り出されて、
ウリエルも少しばかりに追い込まれた。
目映く輝いた障壁のおかげで彼は無傷だが、
その配下の天使兵と機械兵は一瞬で戦闘不能となり、
気がつけばウリエル一人だけが残された。
「あの障壁、相当な強度ね」
「だがミネルバ、今の攻撃で奴の手下は全滅だ。
これで一対十、数の上では俄然こちらが有利となった」
ラサミスの言うとおり、
数的有利における大きなアドバンテージを得たが、
当のウリエルは、ほぼ無傷の状態で目映く輝いた障壁に身を隠していた。
障壁も無傷という訳にはいかず、
幾つか放射状の罅が入っており、
至るところから爆煙が吐き出されていた。
そんな中、ウリエルは障壁の前へ出て、
右手に持った神剣アストロダームを頭上に掲げた。
「認めよう、貴様等の力は下手な大天使より上かもしれん。
今の三連続攻撃は、正直この俺も肝を冷やしたよ。
だがな、この程度では俺を、熾天使を討つ事は出来ぬ。
俺の力は、熾天使の力はこんなもんじゃないっ!!!」
そう叫んでウリエルは、左手を前方にかざした。
そして無詠唱で中級の光属性魔法「ライトニング・カッター」を連射した。
光の刃が数秒間の間に、数十個近く生み出されて、
前方のラサミス達目掛けて、差し迫った。
「皆、散開するぞっ!
恐らく奴はこの後、無詠唱で魔法攻撃を連発する筈だ!」
「「はいっ!!」
ヨハンの指示に従い、
ラサミスとミネルバもそれぞれ左と右に飛び退いた。
常識的に考えたら、
光の刃は左右に均等に散らす。
と思われたが、数十個に及ぶ全弾がミネルバの後を追った。
「なっ、なっ!」
「ミネルバ、アレだ! 槍を横に旋回させろっ!」
「ラサミス! そうね、アレをやってみせるわっ!
――スピニング・ツイスターッ!」
ミネルバは、両手に持った漆黒の魔槍を風車のように回転させて、
こちらに向かって来た光の刃を確実に弾いたが、
全部を弾き飛ばす事は出来ず、
身体の至るところを光の刃で切り裂かれた。
「ぐ、ぐふっ!?」
「流石に全部は防げなかったか!」
「ラサミス団長、ここは私がミネルバ殿を回復します!
我は汝、汝は我。 我が名はバルデロン。 暗黒神ドルガネスよ。
我に力を与えたまえ! 『アーク・ヒール』!」
バルデロンが上級回復魔法を唱えるなり、
目映い光がミネルバの身体を包み込む。
それによって彼女の負った傷はほぼ全快した。
この状況を見て、ウリエルは「ディバイン・ストーン」を使うか。
どうか一瞬悩んだが、とりあえずこの場で使う事は控えた。
「ディバイン・ストーン」を使えば、
熾天使は「神化」と呼ばれる変身を遂げて、
変身前の状態の何倍もの力と魔力を手に入れる事が可能だ。
尤も「神化」には、それ相応の対価が必要となり、
ある種のデメリットを背負う必要も出てくる。
だからウリエルは現時点での「神化」は思いとどまり、
今ある力でラサミス達を迎え撃つ事にした。
だがこの状態ではそう長く持たないであろう。
最悪の場合は「神化」した状態で、
自爆覚悟でこの連中を道連れにしよう。
そう思いつつも、やはりウリエルも我が身は可愛かった。
以上の理由でウリエルは、現状維持のまま、
ラサミス達を一人でも多く倒す為、全身全霊で戦い続けた。
次回の更新は2025年11月30日(日)の予定です。
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