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第六百九十九話 一死報国(前編)


---三人称視点---


 メルカバー内に突入したウェルガリア軍の兵数は約250人。

 対するメルカバー内の天使軍の防衛部隊は、

 天使兵てんしへい約300体、戦闘バイオロイドは約800体という数であったが、

 慣れない艦内戦で天使兵と機械兵きかいへいの動きは統率力が欠けていた。


 一方のウェルガリア軍の突撃部隊は、

 ラサミス達「暁の大地」と剣聖ヨハン率いる「ヴァンキッシュ」の面々が

 意気揚々と最前線に立ち、艦内の敵兵を次々と蹴散らせていった。


 ラサミス達が居る場所はメルカバー内の後部分にあたる。

 艦長室、ミーティングルーム、発令所、動力炉。

 機関室、居住区やレストルームなどがこの後部分にあった。


 前部分は、小型及び中型戦闘艇などの格納庫。

 ミサイルやビーム、レーザー兵器の発射装置。

 各種の武具や兵器を揃えた武器弾薬庫。

 また時空転移装置やワープ装置制御室もあった。


 前部分は主に戦闘機能の役割が強かったが、

 このように前部分と後部分に分けていたので、

 艦内を完全掌握するには、かなりの労力が必要とされていた。


「ラサミスくん、闇雲に戦っていても埒があかないぞ。

 目的を一本化しないと、いずれは数で押されて負けるぞ」


「ヨハン団長、ではどうすべきでしょうか?

 オレとしては、敵の親玉であるボス格の天使を捕縛したいところですが、

 確かにこう広いと艦内を制圧するにも時間がかかりそうですね」


「とりあえずこの船の中の地図が欲しいところだが、

 まずはこのまま真っ直ぐ進んで、敵の様子を探ろう。

 敵の守りが非常に堅い所は恐らく重要拠点であろう。

 それを何度も探っていけば、

 いずれは艦全体を掌握する艦橋や司令室にも辿り着く筈だ」


「成る程、それは良い考えですね。

 しかしこちらの頭数が少々心許こころもたないのも事実。

 新たな増援が来る事を願いたいが……」


「ラサミスくん、増援は期待しない方がいいぞ」


 断定口調でそう言う剣聖ヨハン。

 ラサミスとしては、その理由が聞きたいので、

 端的に「何でですか?」と問い掛けた。


「まあ後、数台の強襲揚陸艇があるから、

 増えても百人前後といったところだろう。

 それと君の疑問にも答えよう。

 それは端的に言えば、

 敵がこの船を自爆させる可能性があるからだ」


「な、なっ!?」


 予想外の言葉に大きな声を上げるラサミス。

 だが言われたところで、色々と思い当たる節があった。


 この黒い船――メルカバーは、

 この時代では有り得ない高度な技術で作られたある種のオーパーツである。


 この技術などが敵に漏洩するくらいならば、

 艦ごと自爆させる、というのは敵の立場になれば、

 選択肢として充分あり得る。


「……成る程、傭兵や冒険者ならば、

 いざとなれば切り捨てても痛くないという訳ね」


 ミネルバが淡々とした口調でそう言う。


「まあそういう部分があるのも事実だろうが、

 オレは魔王陛下が簡単にオレ達を切り捨てるとは思わんな」


「ジウくん、その理由を聞かせてくれるかしら?」


「メイリン……さん、勿論いいぜ。

 その理由は幾つかあるが、

 魔王陛下はそこのラサミス団長と懇意の仲だ。

 その大事な盟友を見捨てて、

 自己の利益を優先する程の魔族の王は狭量じゃない」


「そうだな、オレもレクサーがオレ達を簡単に見捨てるとは思わん。

 だがこの艦内の戦いだけじゃない。

 この猫族領ニャーマンの周辺でオレ達は、

 天使軍と死闘を繰り広げている。

 言うならば、この戦いはオレ達の存亡をかけた戦いだ。

 だから何処で戦おうが、それ相応のリスクは生じる」


「……そうですな、私もラサミス団長と同じ考えです」


「私もそう思うわ」


 バルデロンとジュリーが相槌を打つ。


「だからオレ達は与えられた任務を全うする。

 味方を疑うより、信じるべきさ。

 そしてやる事をやった後で考えればいいさ」


「その考え嫌いじゃないわね」


 と、女侍おんなざむらいのアーリアが賛成の意を示した。


「そうね、どのみち楽には勝てない戦い。

 ならばやれるだけの事をやるしかないわ」


「あたしもクロエねえさんと同じ意見よ」


 と、カリン。


「という事だ、ラサミスくん。

 ここはまず否定的な意見や考えより、

 前向きに目の前の任務を遂行する事にしよう。

 ……他の皆もそれで構わないよね?」


 剣聖ヨハンがここまで言ったのであれば、

 周囲の傭兵や冒険者達も異論をはさむ余地はなかった。


「良し、ではこのまま先に進もう」


 剣聖ヨハンの提案に周囲の者達も無言で頷いた。

 ラサミス達は艦橋や司令室を目指して、前進したが、

 間を置かずして、天使軍の強固な防御陣につきあたった。


「来たぞ! 敵の防衛部隊だ!」


「全員、戦闘態勢に入れっ!」


 敵の多くは機械兵で、数体の天使兵が指揮を執っていた。

 敵の数は軽く見て五十体以上。

 ここは小細工を労さず、力業で敵をねじ伏せる。

 剣聖ヨハンはそう胸に深く刻み込んで、大声で周囲に命じる。


「良し、ここは力業で相手を屈服させるぞ。

 基本陣形は攻撃役フォワード防御役タンクを前線において、

 中衛に支援職と回復役ヒーラーを配置する。

 艦内はそこまで広くないから、

 火炎属性と電撃属性のスキルや魔法の使用は禁じる。

 さあ、皆!力を合わせて戦うぞ!」


 剣聖ヨハンが大体は言いたい事を言ったので、

 ラサミスの喋る言葉はなくなったが、

 それを気にする事なく、彼も剣帯から聖刀を抜刀して、

 腰を深く落として、臨戦態勢を取った。


「ミネルバ、ジュリー、ジウバルトは前衛に!

 バルデロンとマリベーレ、メイリンは中衛だ!

 さあ、オレ達の力で天使軍を蹴散らせるぞっ!」



次回の更新は2025年11月9日(日)の予定です。


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