第六百八十五話 劣勢挽回(前編)
第九十八章 劣勢挽回
---三人称視点---
三時間後の9月23日の午後十五時過ぎ。
ウェルガリア軍による天使軍の残敵掃討は完了した。
これによってウェルガリア軍は、
地上戦を制して、
地上部隊の余剰戦力を空戦部隊の支援部隊として送り込んだ。
まずは魔将軍グリファム率いる三万の兵。
その配下のレストマイヤーとアグネシャールも後退させて、
空戦部隊の補助と支援として配置した。
地上部隊にはシモーヌ副隊長率いるエルフ軍の残党。
そして五千名ほどの傭兵及び冒険者部隊を配置。
それ以外の戦力は、次なる戦いに向けて、
レスシーバ平原に集結させた。
本陣に魔王レクサーが率いる魔王軍の本隊八万の兵士。
参謀役として大賢者シーネンレムス。
呼び戻した魔将軍グリファムの約三万の兵力。
レストマイヤーとアグネシャールの各一万の兵力。
そして先の戦いでは、傍観していたレフ団長率いる竜騎士団。
またシャルク団長率いる約八千人の竜人軍。
ニャラード団長が指揮する猫族軍が約一万匹。
ラサミス達や剣聖ヨハン率いる「ヴァンキッシュ」の面々は、
捕獲した強襲揚陸艇に一台につき五十人を搭乗させて、
合計十台の強襲揚陸艇に五百人近くの兵士を詰め込んだ。
レクサーの展望としては、
まずはメルカバーを自陣に引き入れて、
時限式の封印結界を発動して、その動きを封じる。
それから全力で空戦を挑み、
制空権を押さえたら、空戦部隊や合計十台の強襲揚陸艇を
メルカバーに近接させて、敵艦に乗り込み、
敵を無力化して、艦を丸々強奪する。
という計画を立てていたが、
正直多くの者が不安を抱いていた。
だがどのみち天使軍と戦わずはいられない。
よって各兵士も覚悟を決めて、次なる戦いに身を投じた。
魔王レクサーは、まずは空戦部隊として、
先の戦いと同じくサキュバス・クイーンのエンドラがサキュバス部隊を四百人。
若手幹部のバーナックとキャスパーにも、
新たに戦力を補充した五千の兵がそれぞれ与えられた。
そこにレフ団長率いる竜騎士団の三百名の竜騎士。
またここまで温存していたニャラード団長率いる魔導猫騎士団に、
「猫天使の鎧」を装着させた五百匹を空戦部隊に配置。
残った九千匹以上の猫騎士達は、
竜騎士団の飛竜に相乗り、あるいは飛行魔法で支援。
また地上部隊として配置される事となった。
これで地上部隊だけで十三万以上の大軍。
空戦部隊に関しても一万以上の兵力が集められた。
だが先の戦いでは、
座天使ソロネに苦杯をなめたので、
ソロネの相手は、ニャラード団長に任せる事となった。
『ニャラード団長、聞こえるか?』
『魔王陛下、聞こえていますよ』
『敵艦を時限式の封印結界まで引き込む為に、
あの銀色の円盤に乗った大天使を食い止めて欲しい』
『初見で大天使を食い止めるのは難しい部分もありますが、
私の全力と全知を持って、魔王陛下のご期待に応えてみせましょう』
『それは心強い。
敵艦を時限式の封印結界に引き込んだら、
この「耳錠の魔道具」で指示を出すから、
敵の空戦部隊と結界発動後のフォローを頼む』
『ええ、任せてください』
『ニャラード団長、君には期待しているよ。
ではまた後ほどに……』
『はい』
そこで通話は切られた。
そしてニャラード団長は、ツシマンをはじめとした周囲の猫騎士に――
「これより敵空戦部隊と交戦に入る。
大天使と思われる敵は、私が食い止めるので、
それ以外の敵の駆除と食い止めを君達に願う」
「了解ですニャーン」
やや緊張感に欠ける返事が飛ぶ中、
ニャラード団長は、装着した「猫天使の鎧」の両翼に魔力を篭めて、
華麗に空を飛び前方の敵集団を捉えた。
「さあ、戦いの時間だよ。
とりあえずやれるだけの事はやろう。
それさえやれば無理する事はニャい。
命あっての物種だからニャ」
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「猫風情にしてはやるわね。
その鎧は魔道具の類いのようね。
空飛ぶ猫は嫌いじゃないけど、
私も熾天使から任務を授かってる身なのよ。
だから悪いけど、死んでもらうわ」
「……」
銀の円盤に乗った座天使ソロネがそう言うが、
ニャラード団長は、相手をする事なく無言を貫いた。
既に両者が交戦して五分以上経つが、
銀の円盤の機動力は想像以上に高くて、
ニャラード団長もその動きに必死についていった。
おまけにソロネは、中級から上級までの風属性魔法を得意とし、
無詠唱で何発もそれらの魔法で連続攻撃を仕掛けてきた。
だがニャラード団長も百戦錬磨の大魔導師。
ソロネの無詠唱の連続魔法攻撃に対して、
同様に自分も無詠唱の連続魔法攻撃で対抗した。
四大種族の魔導師の中で、
無詠唱で魔法を発動出来る者は希有であったが、
ニャラード団長は、その数少ない一匹であった。
まずは定石通りに風属性魔法に対して、
土属性魔法を無詠唱で連発して、
レジストを起こして、ソロネの攻撃を凌いだ。
魔法の威力や総魔力では、ニャラード団長がソロネを上回っていた。
ただ無詠唱の魔法攻撃の早さは、ソロネが一枚上手であった。
だからニャラード団長は、
攻撃より防御に重きを置いて、
自由自在に空を飛びながら、
無詠唱で風属性魔法を連発するソロネに対して、
的確に土魔法で応戦して、
流れが変わるのも辛抱強く待った。
「……驚いたわ、この私と互角上に戦えている。
正直、猫族なんて種族は、
只の猫畜生と思っていたけど、
その考えはどうやら改めた方が良いみたいね」
「……」
「あら? 相変わらずだんまりを決め込んでいるわね。
余計な事を喋って、墓穴を掘りたくないのかしら?
いずれにせよ、猫らしくなくて可愛げがないわね」
「……可愛げがなくて結構。
猫は別として、我々、猫族は愛玩動物じゃない」
憮然とした表情でそう返すニャラード団長。
「あら~? 言うじゃない。
でも少し生意気ね。 そういう猫ちゃんにはお仕置きが必要ね。
良いでしょう、私ももう少し自分の力を解放してみるわ。
ハアアアァ……アアアァァァッ!」
ソロネの魔力が解放されて、
彼女の周囲の魔力が鋭さを増していく。
――もう一段階ギアを上げる気だな。
――良かろう、ならばこちらも真正面から迎え撃つ。
そう胸に刻み込みながら、
ニャラード団長は、呼吸を整えてソロネの次の攻撃を待った。
次回の更新は2025年10月7日(火)の予定です。
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