第六百三十七話 堅忍不抜(後編)
---三人称視点---
「あっ、あっ、あっ……な、なによこれっ!?」
リリアは汗をダラダラとかいて、歯をガチガチと鳴らす。
非情なまでの現実に彼女の精神は大きな傷を負った。
「リ、リリアくん! 無事なのかっ!!」
「えっ、えっ? シモーヌ副隊長?」
放心状態のリリアに、
額から少し血を流したシモーヌ副隊長が駆け寄った。
彼女は偶然にも一時的に後退していた為、
メルカバーの低周波ミサイル攻撃の被害も
それほど受けずに済んでいた。
だがこの惨状には気丈な彼女も呆然としていた。
たった三分余りで1500人以上の仲間が焼き殺されたのだ。
その事実に動揺しない者など存在しない。
「ひ、酷い有り様だ。
し、周囲を見渡せば、まさに死屍累々。
リリアくん、ナース隊長は?」
「……敵の超兵器により焼死したようです。
ベルローム卿も同じく戦死しました」
「そうか……」
ナース隊長に加えて、賢者ベルロームも戦死。
この非情な現実にシモーヌ副隊長もある種の絶望感を抱いた。
だが彼女はぎゅっと唇を歯で噛みしめて、正気を保った。
「とりあえずまだ生きている者には、
回復魔法をかけるか。
回復薬の類いを飲ませるんだっ!」
「は、はい? ええっと……」
「リリアくん、しっかりするんだ!
ここで心まで折れたら、それこそ終わりだ。
生き残った私達には、生存者を撤退させる義務があるっ!」
「えっ……?」
シモーヌ副隊長がそう檄を飛ばすが、
リリアはまだ精神状態が安定してないようだ。
無理もない。
現に周囲の生き残った者達もぼーと虚空を見澄まして、
この辛すぎる現実から逃避していた。
「シモーヌ副隊長の云う通りニャンッ!!」
その時にシモーヌ副隊長の背後から、
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
条件反射的に後ろを振り向くと、
ニャラード団長、そしてニャーランとツシマンの姿があった。
「ニャラード団長! 援軍に来てくれたのですか!?」
「シモーヌ副隊長、そうだニャン。
だが想像していた以上に酷い有り様だニャ。
でもこの状態で敵の追撃が来れば、
今度こそお終いだニャン、だから私は心を鬼にする!」
そう言って、一旦言葉を切るニャラード団長。
そして彼は大きく息を吸ってから、腹から大声を出した。
「シモーヌ副隊長は、残存兵力を率いて撤退せよっ!
リリア殿! 私の声が聞こえているかっ!」
「は、はいっ!」
「君はまだ戦えるかニャ?」
「えっ……」
唐突な言葉に一瞬黙るリリア。
本音を云えば、今すぐここから逃げたい。
リリアとして歴戦の魔導師。
だがメルカバーのミサイル攻撃によって、
彼女の闘志と勇気といった感情は、無残にも打ち砕かれた。
しかしこの状況で逃げるのか。
そうなれば自分は完全な負け犬だ。
そう自問自答するリリア。
だから彼女は耐えた、闘志を奮い立たせた。
「……激しい魔法戦は厳しいでしょうが、
対魔結界や障壁くらいなら張れます」
「そうか、ならば我々と共に前線に残るが良い。
他の魔導師はどうだ!?
まだ戦える者は、我々と共に戦えるか!?」
ニャラード団長の言葉に、
周囲のエルフ軍の魔導師部隊は、
即答は避けたが、しばらくすると三十名ほどの者達が名乗りを上げた。
「……自分はやれます」
「自分もですっ!」
「そうか、ニャら我々と共に戦うが良い。
まずは私とニャーランとツシマンが巨大化して、
限界高度まで飛行した後、魔法攻撃を仕掛けるから、
君達はそのフォローを頼むっ!」
「はいっ!」
「ニャーラン、ツシマン」
「はいっ!」「はいでニャんす!」
「今から我々は「猫天使の鎧」をパージして、
衣服を脱ぎ捨てて、巨大化するぞっ!」
「了解ニャン」「了解でニャんすっ!」
「では行くニャンッ!!!
ハアァア……アァァァ……」
そううなり声を上げると、
ニャラード団長の白銀の「猫天使の鎧」がパージされた。
それから上着の赤いコートを脱いで、地面に放り投げた。
更に赤いズボンを脱いで、全裸となった。
「ボクも続くニャン」
「おいどんもっ!」
ニャーランとツシマンも「猫天使の鎧」をパージする。
そしてニャーランは、焦げ茶色のコートとズボンを、
ツシマンは唐草模様の着流しを脱ぎ捨てた。
「「「――独創的魔法「巨大猫族」っ!!」」」
ニャラード団長達は、声揃えてそう叫ぶ。
すると彼等の周囲に膨大な魔力が充満して、
その身体が異様な速度で大きくなっていく。
ぐんぐんと身体が大きくなり、
気が付けば10メーレル(約10メートル)に達していた。
10メーレル(約10メートル)を超える三匹の巨大猫。
それは一見すれば、なかなかシュールな光景だが、
近くでその姿を目の当たりにしたリリアは眼を瞬かせた。
「我々、猫族の限界高度は人間と同じく7000メーレル(約7000メートル)が限界。対するあの空飛ぶ黒い船は、高度10000メーレル(10000メートル)以上の上空に居る。だから我々は限界高度ギリギリまで上昇して、そこで三位一体で魔法攻撃を放つぞっ!」
「はいっ!」「はいでニャんす!」
「正直厳しい作戦になるだろう。
だが我々がやるしかニャいのだっ!
あの空飛ぶ黒い船に我々の魔法攻撃が効くか、
どうかで我々の今後の運命が決まる。
じゃあ二匹とも助走をつけて、ハイジャンプするぞ。
そこからフライ・ハイを使って限界高度を目指せっ!」
そこからニャラード団長達は助走をつけて、ハイジャンプした。
巨大猫が助走をつけてジャンプするという構図は、
非情に珍しかったが、彼等は至って本気だった。
そして巨大猫三匹は、ハイジャンプで
上空五十メーレル(五十メートル)まで跳躍して――
「――フライ・ハイッ!!」
ニャラード団長達は、上級の飛行魔法を発動させた。
三匹の巨大猫は、横一列になって、
メルカバーに接近すべく、そのままぐんぐんと高度を上げていった。
次回の更新は2025年6月17日(火)の予定です。
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