第三百七十六話 今後の方針(後編)
---ラサミス視点---
微妙なティータイムが終わり、再び会議が始まった。
会議の議題は云うまでも無い。
どうやって敵の要塞を落とすかだ。
とは云ってもそれが難しい。
今までの話を聞いた限り、
星形要塞には弱点らしい弱点はないようだ。
だがそれでも何か突破口はある筈だ。
「この要塞は見事な外堀、内堀を備えてますね。 これだと要塞に接近したくても、迂闊に接近出来ないですよね」
オレは思ったままそう告げた。
「嗚呼、東西南北の距離も絶妙な距離だ。距離にすれば十キール(約十キロ)を超えている。仮に外縁部を抑えたとしても、要塞自体は外堀、内堀に護られている。 十キール(約十キロ)も距離が離れていたら、大砲も魔法攻撃も射程圏外だ、全く持って憎々しい」
するとニャラード団長が苦々しげにそう語った。
確かに十キール(約十キロ)も離れていたら、
大砲も魔法攻撃も届かないよなあ。
「でも接近したら、したで狙い撃ちされるんですよね?」
「嗚呼、ボクもヒューマン領の東方の国ジャパングの北方の地にある同型の星形要塞・五芒郭で戦闘を経験したが、基本的に攻城側が不利で守備側が有利だったよ」
「ヨハンさん、星形要塞の戦闘経験者なんスか? ちなみにヨハンさんはその戦いでどっちについたんスか?」
ヨハンは星形要塞の戦闘経験者だったのか。
なら最初からそう云えば良いのにね。
と思ってたら、ヨハンは無言になった。
……アレ? 何で?
「う~ん、それはジャパング政府から要請された極秘任務だから、この場で公に明かす事は無理だね。 所謂、守秘義務ってやつさ」
「ああ……成る程」
……なんか裏がありそうだな?
でもここで聞いた所でヨハンは答えないだろう。
だが細かい経緯はどうでもいい。
今、大事なのは星形要塞の攻略情報だ。
「じゃあ経験者のヨハンさんから観て、
星形要塞の弱点とか分かりますか?」
オレがそう云うと、ヨハンは「う~ん」と唸った。
そして考えがまとまったのか、ぽつりぽつりと意見を述べていく。
「強いて云えば、大砲や魔法攻撃の射程距離が五キール(約五百キロ)、いや三キール(約三キロ)くらいあれば、無傷で要塞を攻撃出来ると思う。 簡単に云えば接近し過ぎず、当たるか、当たらないのギリギリのゾーンで要塞を徐々に攻撃する、という手が有効と思う」
ふうむ。
まあ地味だが確かに効果的な戦術と思う。
と言っても接近したくても、外堀や内堀があるからなあ。
あ、でも外堀や内堀を土で埋めたらどうだろうか?
「ニャラード団長、一つ聞いていいでしょうか?」
「ん? ニャンだね?」
「土魔法で土を生成して、外堀や内堀を埋める事は可能でしょうか?」
「……ニャニ?」
「……やはり無理でしたか」
「待て、誰も出来ないとは云ってないニャン。 結論から云おう、やろうと思えばやれなくもない」
「本当ですか?」
「嗚呼、私や王国魔導猫騎士団の魔導猫騎士なら可能だ。 そうか、そうか、外堀や内堀を埋めて、射程圏内のギリギリのゾーンで要塞に集中砲火を浴びせる、という訳か」
おっ?
なんだ、ニャラード団長は乗り気のようだな。
だがニャラード団長は右手を顎に当てて、渋い表情を浮かべた。
「だが口では云うのは簡単だが、実行する際には多大な労力が必要となる。 少なくとも我々が外堀や内堀を土魔法で生成した土で埋めている間は、敵の攻撃を完全にシャットアウトする必要がある」
ニャラード団長はそう云って、周囲を見渡した。
するとヨハンやアイザック、レフ団長、ナース隊長、それと兄貴も表情を引き締める。
「成る程、この作戦やってみる価値はありそうですね」
と、ヨハン。
「嗚呼、だがその間、俺達がニャラード隊長の部隊を護る必要がある」
と、アイザックも同意する。
「我々は空中戦で手一杯なので、この件は地上部隊にお任せします」
レフ団長は無難な意見を述べる。
「……確かに少々手がかかるが、これが一番効果的な戦術かもしれませんな。 ならばその為にも我々でニャラード隊長達を敵の手から護りましょう」
と、ナース隊長もこの作戦を肯定した。
どうやら各部隊のリーダーの了承は取れたようだ。
ならばもう少し作戦内容を細かく決めたいな。
「ニャラード隊長、魔導猫騎士の魔法攻撃の有効射程距離はどれくらいですか?」
「う~ん、二キール(約二キロ)は厳しいな。 だが一キール(約一キロ)、いや1,5キール(約1500メートル)くらいなら何とかなるだニャン」
1,5キール(約1500メートル)かあ。
大砲や狙撃銃、弓の射程距離よりかは長いが、
同じ条件なら敵の魔導師部隊も魔法攻撃で応戦するだろうな。
「ボクはラサミスくんの意見に賛成だニャン。 どのみち楽に勝てる戦いではないだニャン。ならばこちらも多少は骨身を削る必要がある」
マリウス王子が穏やかな口調でそう云う。
まあそうだよなあ。
敵からすれば帝都に、更に魔王城を攻め込まれるんだ。
そりゃ全力で抵抗するよなあ。
でもここで弱気になったら駄目だ。
だから多少危険でもこちらから仕掛けるべきだ。
「まあ1,5キールでの魔法合戦を限界まで続けて、敵の反撃が弱まれば、空から飛竜に相乗りさせた降下兵を降下させる。あるいは羽根つきの靴を装着した地上部隊の主力達が要塞の正門を飛び越えて、中から正門を開ける。 そして空いた正門に地上部隊を突撃させる。 という戦術、作戦が一番無難で有効かもしれないニャン」
マリウス王子は両手を組みながら、一人で「うんうん」と頷く。
確かに一番無難で有効な戦術かもしれない。
だが一時的にせよ、大軍が待ち構える要塞内に入るのは気が引けるなあ。
成る程、ニャラード団長が掘を埋めるというアイデアに難色を示すわけだ。
いざ自分が似たような立場になれば、彼が躊躇う気持ちが理解出来た。
とはいえオレが言い出しっぺでもある。
だから厳しいがこの正門突破の作戦は、オレが、オレ達がやるべきだ。
「まあ要塞内に入ってからは、各部隊のリーダーに携帯石版を渡すから、それで各部隊で連絡を取るだニャン。 各部隊のリーダーと兵士は『耳錠の魔道具』で連絡し合うニャン」
……うむ。
猫王子のこの指示は正しい。
だが広い要塞内で無事に魔王城に辿り着けるか。
いや何としても辿り着く必要はある。
もし万が一、魔王が要塞や魔王城を棄てて、
撤退すれば少々、いやかなり面倒な事になる。
オレはその危険性を周囲の者に訴えた。
「でもこちらが優勢になった状況で、魔王が要塞から逃げて、他の拠点に移る可能性もありますよね?」
「嗚呼、その可能性もあるだニャン。 だが今回攻めるのは敵の中枢部である魔帝都。 魔王もそう簡単には、逃げられないさ。 魔帝都とその民を見捨てたら、魔王の威信は地に落ちるだろう。 だからそうなる前に魔王と話し合う必要があるニャン」
まあこれは猫王子の云うとおりだな。
帝都と帝都の民をそう簡単には見捨てられないだろう。
「まあこの機を逃せば後々、面倒な事になりかねん」
「マリウス王子、それはどういう意味でしょうか?」
オレがそう質問すると、猫王子は左手を左右に振った。
「もし今回の戦いで魔王が死んだら、魔族内で魔王になるべく、他の幹部共が後継者争いをするだろう。 そうなれば奴等が和平に応じる可能性が低くなる」
ん?
そうなる……のか?
「その可能性は高いですね。 そして幹部の誰かが新たな魔王となれば、我々と戦う事になるでしょう。 新魔王の威光を示すため、我々と戦うという選択肢を選ばざる得ない。 魔族の歴史は力の歴史、故に力なき魔王に部下も民も束ねる事は出来ない」
……。
成る程、流石は剣聖ヨハン。
只の戦争屋ではこういう考えには至らない。
オレも猫王子やヨハンの云う通りになる可能性は高いと思う。
魔族は一にも二にも力がものを云う絶対的な縦社会だからな。
となると今の魔王が死ぬと、オレ達も困るというわけか。
「うむ、だが今の魔王が転々と本拠地を変えて、戦い続ける可能性もある。 そうなれば我々が圧倒的に不利だ。 我が軍は行動線や補給線が伸びきった状態だからな。 これ以上、行動線や補給線を伸ばすのは危険だニャン」
「私も王子の意見に賛成ですニャン。 ならば我々はこの戦いで魔王を捕縛、あるいは魔王と話し合う必要がある。 そして有利な条件で停戦条約を結ぶ、というのが理想的でしょうな」
猫王子に同意するニャラード団長。
するとヨハンやアイザック、ナース隊長、兄貴も――
「うむ」
「成る程」
「そうですな」
とか云いながら頷いた。
「自分もマリウス王子の意見に賛同します」
と、オレも周囲の空気を読んで同調する。
こういう時は周囲に合わせるのが無難だ。
「ではとりあえず今回の会議はここまでとする。 この後も何度か話し合うつもりだが、まずは補給線を維持すべく、ラインラック要塞の副司令官に伝書鳩、あるいは伝令兵を送るつもりだ。この大草原に補給基地を作る必要もあるからね。 それでは今日はこれで解散とするニャン」
……。
何とか最低限の意思の疎通と作戦は練れたな。
だが実戦となると、事態がどう急転するか分からない。
……でもやるしかねえよな。
だが今回の戦いの鍵を握るのは魔王になりそうだな。
魔王を捕縛、あるいはこちらが有利な状況で魔王を
交渉のテーブルにつかせる必要がある。
……魔王か。
実際どんな奴なんだろうな。
興味が無いと云えば嘘になる。
……だが只の一冒険者、一団長に過ぎないオレには関係ないか。
と、この時のオレはそう思っていたが、
幸か、不幸か、後日、オレはその魔王と深く関わり合う事になるのであった。
そしてそれによってオレの人生も大きく変わるのであった。
次回の更新は2022年4月16日(土)の予定です。
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