第三百四十四話 七擒七縦(中編)
---三人称視点---
「グオォォォォォォッ!!」
「ギャアアァッ……ニャァンッ!!」
迫り来る龍化した龍族、ドラゴンと化した竜魔部隊の猛攻に
連合軍の兵士達は、勇猛果敢に迎え討ったが、やはり戦闘力の差は大きかった。
竜魔のドラゴン部隊は息吹攻撃、尻尾攻撃、咆哮で、連合軍の兵士達を次々と戦闘不能にしていく。 また龍化した龍族部隊も手にした武器を振るい、あるいは両手の鉤爪を振るって、眼前の連合軍の兵士達を切り裂いた。
連合軍も右翼にラサミス率いる「暁の大地」、剣聖ヨハンの「ヴァンキッシュ」、ナース隊長率いるネイティブ・ガーディアン。 左翼にアイザック率いる傭兵部隊、山猫騎士団の猫騎士達。 という具合に両翼を固めていたが、敵の猛攻の前に陣形が崩れて行く。
特に左翼部隊が押され気味であった。
傭兵隊長アイザックと狂戦士ボバンは魔剣を片手に奮闘していたが、
体格で大きく劣る猫騎士達が敵の格好の的となった。
「死ね、死ね、死ねェッ! 一人残らず死んでしまえぇっ!!」
「ギャアアァッ……アアァ……アニャァンッ!!」
龍化した魔元帥アルバンネイルは、自ら最前線に立って
魔剣や鉤爪を振るって、猫騎士達の命を次々と奪い続けた。
アルバンネイルは、両眼を見開き、
口元に嗜虐的な笑みを浮かべ、心の底から戦いを愉しんでいた。
標的が血を吹いて、倒れた瞬間に歪な笑みを浮かべる。
それはまさに殺戮に喜びを感じているといった表情であった。
体長60~80セレチ(約60~80センチ)の猫騎士では、
龍化した魔元帥と戦うのは、至難の業であった。
「くっ……我々じゃ奴の相手は厳しい!」
レビン団長が苦々しげにそう云った。
「とはいえ逃げる訳にはいかない。
我々、猫騎士でもやれる事をやりましょう」
と、マヌルネコの聖騎士ロブソンがそう進言する。
「オレ様の射撃で奴等の両眼や急所を撃ち抜く!
というのはどうだい? オレ様達じゃ奴等に勝つのは難しいが、
弱体化させるという戦術に絞れば、まだ打つ手があると思うぜ!」
陽気なカラカルの銃士ラモンが珍しく真面目な表情でそう云った。
「私はラモンの案に賛成するわ!
このまま逃げるのは、山猫騎士団の沽券に関わるわ!」
オセロットの戦乙女ジュリー・シュナイダーがラモンに同調する。 レビン団長とて、彼等の云う事は理解出来た。 だがこの戦いにおいては、相手との体格差があまりにも大きかった。
とはいえこのまま何もしないわけにはいかない。
だからこの場はあえて危険を承知で戦う。
レビン団長はそう胸で念じながら、部下達に指示を出した。
『ではまずはロブソンが職業能力『鉄壁』を発動させて、敵の侵攻を食い止める。 そしてラモンが前へ出て近距離射撃で攻撃。 そして敵が何らかのリアクションをして、隙あれば私とジュリーが攻める。 副団長はサポート役を頼む! 但し相手に間を与えては絶対駄目だ。 とにかく連続攻撃で敵の動きを止めるんだァッ!』
レビン団長の提案した戦術は単純だが、理にかなった戦術であった。
故に副団長ケビンは「はい」と答え、ラモンも「悪くねえ戦術だ」と小さく頷いた。
『では行きますぞ、ハアァッ……『鉄壁』ッ!!』
ロブソンが白銀の戦鎚と盾を構えながら、職業能力を発動させて素早く前進する。 するとアルバンネイルは腰を据わらせて、右手に持った黒刃の大剣を構えた。 そして手にした黒刃の大剣を縦横に振るう。
だがロブソンは左手に持った大盾でアルバンネイルの一撃を防御する。
大盾越しにも伝わる重い衝撃。
まともに食らえば、一溜まりもない。
しかし数発程度なら受け止められそうだ。
ロブソンがそう思案していると、銃士ラモンが前線に躍り出た。
「これでも喰らいなァッ! ――スナイパーショットォォォ!!」」
ラモンはそう叫びながら、右手に持った黒い拳銃の引き金を引いた。
それと同時にアルバンネイルは、左側にサイドステップ。
惜しくもラモンの銃弾が外れる。
ラモンは更に引き金を引いた。
今度はアルバンネイルの左眼を狙った。
しかしアルバンネイルは、今度は右側にサイドステップ。
ラモンの銃弾が立て続けに外れた。
「――消えろっ!」
龍化した魔元帥はそう叫ぶなり、左手を前に突き出した。
するとアルバンネイルの左手の平から闇の炎が放射される。
隙の無い無詠唱魔法攻撃。
ラモンの反応が一瞬遅れた。
だがそんなラモンを庇うべく、ロブソンが大盾を構えながら前へ出た。
どごおおおん!
闇の炎が着弾して爆音を産んだ。
その爆音と共に爆風が出される。
「くっ……二人をフォローするん……なっ!?」
「――遅いわァッ!!」
気が付けばアルバンネイルがレビン団長の目の前に立っていた。
そしてアルバンネイルは、左手の鉤爪でレビン団長を攻撃。
レビン団長は「ぐあッ!」と悲鳴を上げて、後方に吹っ飛んだ。
「れ、レビン団長っ!?」
「――次は貴様だァッ!!」
「き、きゃあああっ……ああっ!」
アルバンネイルは驚き戸惑うジュリーを右足で蹴り上げた。
するとジュリーは蹴られたボールのように、
後方に吹っ飛び、背中から近く家屋の壁面に衝突。
それと同時にジュリーは「ごはっ」と嘔吐いて、
口から血の混じった泡を吹き出した。
今の一撃で骨が何本も折られて、たちまち戦闘不能となった、
この僅かの間に猫騎士の主力である二匹がやられた。
これは子供と大人、いや赤子と大人ぐらいの力量差がある。
ケビン副団長もロブソンも、そしてラモンも同時に同じ事を考えた。
「シットォッ!! 只じゃ殺られないぜえぇっ!!」
そう叫ぶなり、ラモンは躊躇いなく拳銃の引き金を引いた。
パン、パン、パン、パアン。
乾いた音が周囲に鳴り響く。
だが次の瞬間、キン、キン、キインという耳障りな音が響いた。
「う、嘘だろっ!?」
両眼を見開き驚くラモン。
なんとアルバンネイルは手にした魔剣で銃弾を弾き返したのだ。
神業と云っても過言はない芸当だ。
「ぐっ……今のはまぐれだァッ!!」
ラモンは再び左手の拳銃の銃口を眼前の魔元帥に向けて引き金を引いた。
乾いた音と共に銃弾がアルバンネイルを襲う。
しかしアルバンネイルは、慌てる事なく、手にした黒刃の魔剣で「バッ、バシッ!!」と鮮やかな火花を散らして、銃弾を弾き返した。
「ま、マジかよっ……」
これにはラモンも心底驚いた。
このような芸当をされるのは、初めての経験だ。
だが眼前の魔元帥はさも当然と云った表情で――
「猫に龍は討てぬ!
それを思い知らせてくれようっ!!」
「ラモン、下がれ! ここはワシに任せろ!」
ロブソンがそう叫びながら、二人の間に割って入る。
大剣を片手に前進するアルバンネイル。
対するロブソンも右手に白銀の戦鎚と左手に大盾を構えながら間合いを詰めた。
この時の両者の身長差は200セレチ(約200センチ)近くあった。
だがロブソンはその身長差を生かして、
アルバンネイルの下半身に攻撃を集中させた。
「はいやぁっ!、猫族の怒りの一撃だ! ――膝砕きっ!!」
軽く跳躍しながら、中級の戦鎚スキルでアルバンネイルの右膝を強打。
猫族らしからぬ荒技が見事に決まった、かのように見えた。
だが膝を直撃されたアルバンネイルは、涼しい顔で――
「何だ、これは?」
と、低い声で問うた。
まるで効いてなかった。
その事実にロブソンは動揺して、しばらく硬直する。
そして魔元帥はその隙を逃さなかった。
「――暗黒大輪斬ッ!!」
アルバンネイルはそう叫ぶなり、
身体を捻って渾身の薙ぎ払いを放った。
その刃がロブソンの喉元を一文字に切り裂いた。
半瞬後、ロブソンの喉元から大量の血が噴水のように飛び散った。
「ぶはあぁっ……ぐはあああっ……」
両手で喉元を押さえながら、全身を痙攣させるロブソン。
「ろ、ロブソン! 我は汝、汝は我。 我が名はケビン。
猫神ニャレスの加護のもとに……『ハイ・ヒール』!!」
レンジャーである副団長ケビンの両手から放たれた癒しの光がロブソンの身体を優しく包んだ。 だがある程度の傷は治せたが、完治するには至らなかった。 そして数秒後、ロブソンの生命活動に終止符が打たれた。
「ろ、ロブソーンッ!」
ロブソンの身体を抱えながらケビン副団長が叫んだ。
仲間を失ったショックでケビンは狼狽えた。
アルバンネイルは、そんなケビンを見据えながら、大股で前へ歩み出た。
このまま猫共を血祭りにしてやる。
そう思った矢先に奇襲を受けた。
「っ!?」
突如、巨大の炎塊が何処からか飛んで来た。
完全に不意を突かれたアルバンネイルは、その巨大な炎塊をまともに受けた。
すると爆音が鳴り響き、アルバンネイルの巨体が後ろに大きく仰け反った。
「猫騎士の方々、大丈夫ですか?」
と、アイザックが魔剣レヴァンガティアを片手に持ちながら現れた。
どうやら猫騎士の危機を察知して、援軍に駆けつけたようだ。
「いやいや、どう見ても大丈夫じゃねえでしょ?」
と、軽口を叩きながら傭兵ボバンも現れた。
「見ての通り大ピンチだぜ。 出来れば助けて欲しいぜ」
と、ラモンがアイザックに視線を向ける。
「勿論、そのつもりですよ。
後は我々にお任せください。 ボバン、戦闘準備に入れ!」
「あい、あい。 って団長、野郎は平気のようだぜっ!」
ボバンにそう云われて、アイザックは前方に視線を向けた。
するとアルバンネイルが鎧から煙を出しながらも、仁王立ちしていた。
多少は効いたようだが、見た感じ大したダメージは受けてないようだ。
「フンッ、今度は竜人か。
誰が来ようが、全員返り討ちにしてくれるわ!」
と、両手で魔剣を構えるアルバンネイル。
「ボバン、ここはあえて二人がかりで攻めるぞ!」
「あいよ!」
そう言葉を交わして、アイザックとボバンは手にした魔剣を構えた。
正直二対一でも心細かった。
だが二人にも傭兵としてのプライドがあった。
下手すれば死ぬ戦いになるだろう。
だがここで引いたら、『竜の雷』の名が廃る。
だから勝ち目がなくても、戦うしかない。
アイザックとボバンは同じような事を考えながら、
手にした魔剣を構えながら、摺り足で間合いを詰める。
傭兵隊長と狂戦士、迎え討つのは魔元帥。
その戦いの幕が切って落とされようとしていた。
次回の更新は2022年1月30日(日)の予定です。
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