第三百二十一話 勇往邁進(後編)
---ラサミス視点---
「ハアッアアァッ!!」
「くっ……」
ヤベえな。
どうやら龍族の魔元帥さんが本気を出して来たようだ。
やたら滅多に強引に大剣を振り回して来た。
こういう風に力任せに攻められるとこちらが不利だ。
全部を刀で防ぐ事は難しかったので、
盾での防御、ステップワークを駆使して何とか敵の猛攻を凌いだ。
「まだだ! まだ終わりじゃない!!」
くっ……。
眼前の魔元帥が更に大剣を振り回す。
一撃一撃が異様に重い。
とてもじゃないが全てを防御するのは無理だ。
だが奴も悟ったのであろう。
この力任せな攻めが奴にとっての最適解という事を。
そう、オレ達ヒューマンと猫族とでは圧倒的な体格差があり、
力勝負では基本的に猫族が不利なのだ。
そしてそれは俺と此奴との戦いでも共通する問題だ。
兎に角、根本的なパワーが違うのだ。
まあ何せ七十以上も身長差があるんだ。
まさに大人と子供の戦いくらいの差がある。
しかしそれでもオレは諦めない。
オレは素早い斬撃を受けながら、反撃の機会を待った。
だが奴は疲れをまるで見せず、ひたすら強引な攻めを更に続けた。
このままではいずれヤられる。
ならばこちらから罠を仕掛けるしかない。
これが上手く行くか、行かないかはオレ次第。
だが何もしないより、何かをやって朽ち果てる方が良い。
よし、覚悟を決めるぜ!
「喰らえっ!! ――暗黒大輪斬ッ!!」
眼前の魔元帥はそう叫ぶなり、
身体を捻って渾身の薙ぎ払いを放った。
ヤベえ、これはとんでもねえ一撃だ。
オレは咄嗟に後ろに飛んで、薙ぎ払いの回避を試みた。
だが完全に回避する事は出来ず、
オレは奴の薙ぎ払いを左手に盾、右手に刀を構えて防いだ。
しかし防御した瞬間、物凄い衝撃が全身に走った。
気が付いた時には、オレは後ろに五メーレル(約五メートル)程、
吹っ飛んで、地面に強烈な尻餅をついた。
痛っ……、クソッ……何という馬鹿力。
防御したのに、この衝撃はあり得ないレベルだ。
……っ。
しまった、今の衝撃で思わず左手に持った吸収の盾を手放してしまった。
ま、マズいっ!!
オレがそう思った時には、眼前の魔元帥が左手を前に突き出していた。
「――これで終わりだッ!! ノアール・フラムッ!!」
すると奴は短縮詠唱で、左手から闇色の炎を放射した。
放たれた闇色の炎が急速度でこちらに迫って来た。
慌てるな! まだ何とかなるっ!?
「――『黄金の壁』」
オレは咄嗟にそう叫んだ。
するとオレの周囲に黄金に輝く闘気が渦巻いた。
オレはその黄金に輝く闘気を全身に纏った。
そして前方に黄金に輝いた障壁を張った。
次の瞬間、闇色の炎が黄金の障壁に着弾。
乾いた爆発音が鳴り響いたが、
幸いな事にオレの身体は完全に無傷であった。
ふう、咄嗟に発動したが、何とか上手くいったようだ。
「ば、馬鹿なっ!?」
すると龍族の魔元帥は両眼を見開いて驚きの声を上げた。
まあ此奴がこう思うのも無理はない。
だがこの瞬間こそ、まさに絶好の反撃の機会。
これを逃せば完全に勝機を失う!
そう思うと同時にオレは全力で地を蹴っていた。
そこから両手に持った刀を鞘に収めた。
それと同時に奴が身構えた。
恐らく居合斬りが来ると思ったのだろう。
だが残念。
これはあくまでフェイントだ。
そしてオレはそこから、動きが一瞬硬直した眼前の龍族の腹部に、
たっぷり助走をつけた飛び膝蹴りを食らわせた。
「がはっ!?」
眼前の龍族は飛び膝蹴りを食らうなり、両膝を曲げて身を屈めた。
よし、これが最初で最後のチャンスだっ!!
「ハアアアッ……『黄金の息吹』!!」
オレは魔力を解放して、『黄金の息吹』を発動させた。
そして右足に全魔力の半分程の魔力を注いだ光の闘気を宿らせる。
そこから素早く踏み込んで、相手の懐に入り込んだ。
「キエエエェッ! サマーソルトキックゥッ!!」
そこからオレは反り返るように後転しながら、右足を大きく蹴り上げた。
するとオレの右足が魔元帥の顎を綺麗に打ち抜いた。
それと同時にオレの右足に確かな感触が伝わった。
「ぐ、ぐはァァァ……アァッ!!」
顎を蹴り抜かれた魔元帥は声にならない声を上げた。
この感触、どうやら奴の顎を砕くことに成功したようだ。
そう、足技なら多少身長差があっても当てる事が可能だからな。
とはいえ我ながら上手くいったものだ。
これで最低限の面目は保てただろう。
さあて、ついでだからもう少し痛めつけておくか。
この手のタイプはボコれる時にボコッとくべきだ!
---三人称視点---
「これで止めだぁっ!!」
ラサミスはそう叫びながら身体を捻って右足で回し蹴りを放った。
狙う箇所はアルバンネイルの砕けた顎。
これが命中すればアルバンネイルと云えど堪えたであろう。
だがアルバンネイルにも意地があった。
「アアァッ……アアァ!!」
アルバンネイルは顎が砕けた状態でも、
闘志を奮い立たせて、渾身の力を篭めた右拳でラサミスの顔面を殴りつけた。
すると「うっ」という悲鳴を上げて、ラサミスは後方に吹っ飛んだ。
「ま、マジかよ! 顎が砕けた状態で反撃するとはっ!?」
ラサミスは眦を吊り上げて驚いた。
「誰か早く魔元帥閣下に回復魔法をかけるんだ!」
「りょ、了解! アーク・ヒールッ!!」
「閣下の砕けた顎を治療せよっ! ――アーク・ヒールッ!」
後方で観客と化していた白魔導師の魔導師達が、
一斉に上級回復魔法でアルバンネイルの砕かれた顎を治療する。
このままではアルバンネイルの顎は綺麗に治療されるであろう。
そうなればまたこの龍族の魔元帥と戦わなくてはならない。
それは避けたい事態だ。
そして同じく観客と化していた傭兵隊長アイザックは、
右手に持った魔剣レヴァンガティアを頭上に振り上げて、大声で叫んだ。
「聖剣と魔剣を持つ者は、今から俺のやることを真似しろ!」
アイザックは次の瞬間、魔力を篭めて全力で魔剣を振り下ろした。
すると漆黒の魔剣の切っ先から巨大な炎塊が吐き出されて、
アルバンネイルに命中した。
すると周囲に居たヨハンやライル達も――
「皆、アイザック殿に続け!」
「ミネルバ! 君もやるんだ!」
「了解っ!!」
と、周囲に指示を出しながら、同じのように右手に持った聖剣や魔剣を
魔力を篭めて、全力で振った。
すると放出された炎塊や光弾が時間差を置いて、前方で一際強い爆発が巻き起こした。
どごおおおん!
爆発音が周囲に響き渡り、爆風で視界が遮られた。
「――もっとだ! 力押しで攻めるぞ!」
「はいっ!」
「――させないわぁっ! 我は汝、汝は我。 我が名はアゲネシャール。 暗黒神ドルガネスよ! 我に力を与えたまえ! 『シャドウ・ウォール』ッ!」
そこからは激しい攻防戦が続いた。
連合軍側は聖剣や魔剣を振って魔王軍側を攻め立てたが、
魔王軍側も幹部候補生の一人である女魔導師アグネシャールが
強力な対魔結界を張って、聖剣や魔剣による魔力放出攻撃を懸命に防いだ。
しばらくすると連合軍側は聖剣や魔剣による遠隔攻撃を中止した。
そしてそこからは敵味方を入り交えた白兵戦を繰り広げたが、魔元帥アルバンネイルやリッチ・マスターのカルネス率いる不死生物部隊による執拗な攻撃、また幹部候補生のデュークハルトも前線に出て激しく暴れ回った為、連合軍側はその勢いに呑まれて徐々に劣勢になっていった。
突進、そして後退。
それを交互に繰り返して連合軍軍と魔王軍が激突を繰り返す。
先ほどの勝利で士気が向上していた連合軍も魔王軍の予想外の破壊力に押し返されて、なかなか前進することができなかった。
そして一時間後。
連合軍の総司令官であるマリウス王子はようやく撤退命令を出した。
勢いでは魔王軍に押されていたが、剣聖ヨハンの「ヴァンキッシュ」とアイザック率いる傭兵部隊が殿をつとめて、敵の執拗な追撃を防いでいる間に、連合軍の本隊は穀倉地帯の東部へと逃げ込んだ。
穀倉地帯レスカパールで行われたこの一連の戦いは、
「レスカパールの戦い」と呼称される事となり、
連合軍の全面的な敗退によって決着がついた。
連合軍の死者数は、魔王軍の約2000人に対して、
約二倍強の4123人という惨状であった。
ウェルガリア暦1602年5月4日。
魔王軍は魔大陸における戦いで、連合軍に初めて勝利を収めた。
これによって魔大陸における戦局が変わろうとしていた。
だが当の連合軍の兵士達は、
そんな事を気にかける余裕もなく、
この雨の中、ひたすら徹底――逃げ続ける事で精一杯であった。
次回の更新は2021年12月8日(水)の予定です。
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