第二百九十六話 制空権を奪え(後編)
---三人称視点--
「えいやぁっ!」
「させるかぁ!」
そう叫びながら、両者は激しい攻防を繰り返す。
カチュアの身長が175セレチ(約175センチ)に対して、
エンドラは154セレチ(約154センチ)という小柄な身体。
単純な体格差は約20セレチ(約20センチ)近くあるが、
エンドラは俊敏な動きで、カチュア相手に互角以上に戦っていた。
それは軽量級のプロの拳士のように華麗な動きであった。
「――アクセル・ドライブ!!」
カチュアは中級風魔法を詠唱。
それと同時に飛竜の飛行速度が加速される。
瞬く間にエンドラとの距離が詰まった。
そしてカチュアは手にした群青色の斧槍に光の闘気を宿らせた。
そこから飛竜の鞍から腰を浮かせて、手にした群青色の斧槍を両手で持ち――
「――トリプル・スラストッ!!」
風斬り音と共に凄まじい速度で、怒濤の三連撃が繰り出された。
だがエンドラは上下左右に素早く動いて、カチュアの三連撃を華麗に回避。
そして後方に宙返りして、「下手っぴ!」と叫んだ。
「……やるじゃない!」
「いやカチュアちゃんがショボいだけよ。 それで本気なの?」
「……腐っても魔王軍の幹部ね。 他の奴とは違うわ!」
「そりゃそうよ。 あんまし幹部を舐めないでね!」
「……行くわよ! アクセル・ドライブッ」
「おっと! 今度はアタシの番よ。 ――サンダーウィップッ!!」
エンドラはそう叫んで高速で緋色の鞭を素早く振るった。
するとの緋色の鞭がカチュアの左腕に絡みついた。
それと同時に激しい電流が流された。
「う、うわあっ……あああっ!!」
電流を受けて思わず喘ぐカチュア。
「まだよ! まだ終わらないわよ!
それじゃちょっとキツいの行くよん! ――百烈打」
エンドラはそう技名を叫んで、緋色の鞭を高速で振い続けた。
一撃、二撃……鞭はびゅんびゅんと音を立てながら、カチュアを上下左右から打った。
しかも一撃、一撃に闇属性の闘気が篭められていた。
一撃、一撃はそれ程の威力ではないが、
ピンポイントで鎧で保護されてない箇所を狙って来るので、
ジワジワとダメージが蓄積されて行く。
だがカチュアも竜騎士団の切り込み隊長を任された竜騎士。
次第にエンドラの振るう鞭を斧槍の斧刃で払い、態勢を立て直した。
「やるわね! ならば……スパイラル・ウィップッ!!」
「そうそう好きにはさせないわ! ――アクセル・ターンッ!!」
エンドラが放った鞭が螺旋状に円を描いて迫って来たが、
カチュアは咄嗟に上級風魔法『アクセル・ターン』を唱えた。
すると彼女が騎乗した青い飛竜は、高速でターン旋回しながら、
迫り来る緋色の鞭を華麗に回避して、逆に相手の背後を奪った。
ピンチからチャンス。
カチュアはその絶好の機会を逃すまいと、
右手に持った群青色の斧槍に光の闘気を全力で宿らせた。
「――ヴォーパル・スラスト!」
「き、きゃあっ!?」
カチュアの放った渾身の突きがエンドラの白い柔肌を綺麗に切り裂いた。
まともに喰らえば、致命傷となった一撃であったが、
エンドラも右にサイドステップしながら、ターンして身体の向きを変えた。
だがその左腕の二の腕から、赤い鮮血が流れていた。
致命傷ではないが、軽傷でもなかった。
するとエンドラは珍しく真面目な表情となり、両翼を羽ばたかせて後ろに下がった。
そして右手で印を結んで、右手の平を開いて砲声する。
「――空圧弾ッ!!」
「なっ!?」
カチュアは条件反射的に飛竜の手綱を取って、右側に回避行動を取った。
エンドラの右掌から放たれた空気を圧縮させた空圧弾は、
閃光のような速度でカチュアの青い鎧の左肩部分に命中した。
「あ、あっ……ああっ!?」
堪らず悲鳴を上げるカチュア。
だが幸福な事にエンドラの空圧弾は、
カチュアの鎧の左肩部分を掠っただけで済んだ。
もしまともに命中していれば、今の一撃で左腕が使えなくなっていただろう。
カチュアも若干二十二歳で切り込み隊長を務める女傑だが、相手は魔王軍の幹部。 自力では相手が上だ。 それを悟ったカチュアは青い飛竜を後退させて、次のように叫んだ。
「あのサキュバスの空圧弾には要注意よ!
とりあえず数人がかりであの女を動きを封じるわよ!」
「了解です、隊長! 『ウインド・ブレード』!」
「はい、では行きます! ――『ワール・ウインド』!!」
「あら、一騎打ちはもう終わり?
でもカチュアちゃん、なかなか良い判断よ、偉い、偉い~。
だけどそう簡単にやられるアタシじゃないわよっ!!」
エンドラは早口でそうまくし立てながら、風属性の耐魔結界を張った。
するとカチュアを初めとした女性の竜騎士達が放った初級、中級の風魔法が見事に防がれた。
だがその間に手の空いてる者が他のサキュバスを狙い撃った。
すると次第にエンドラ率いるサキュバス部隊の陣形が崩れ始めた。
それによって敵の空戦部隊の陣形も徐々に崩れた。
「――今だ! 主力部隊は一旦後退するんだ!
そして副団長の部隊と入れ替わるんだぁっ!!」
「――了解です!」
「皆、後退するんだぁっ!」
レフがそう云うなり主翼部隊は俊敏に後退する。
そして後方に控えていた副団長ロムス率いる第二陣が前へ出て、綺麗に陣形を組み替えた。
「とりあえず我々は時間稼ぎに徹するぞ!
団長達に休む時間を与えるんだ。 それと敵の幹部には魔法攻撃で対抗するんだぁっ!」
「了解!」
「皆、慌てず自分の仕事に徹するんだ!」
「おう!」
そしてロムス率いる第二陣は風属性の攻撃魔法を中心に相手を攻め立てた。
その間にレフ率いる主力部隊は、後方に待機していた猫族を相乗りさせた部隊と合流。 それから相乗りした猫族の回復役や魔法戦士が竜騎士達の体力や魔力を補充する。
体力と魔力を充分に補充した主力部隊は、
副団長ロムス率いる第二陣と共に風属性の攻撃魔法を中心に敵の空戦部隊と戦い続けた。
地味な消耗戦が続くなか、敵将であるグリファムが何度か最前線に出て来たが、
レフは一騎打ちには応じずに、電撃魔法を中心に中距離でグリファムの動きを封じ込めた。
次第に流れは竜騎士部隊に傾き始めた。
グリファム個人としては、この状況で後退する事に躊躇いを感じていたが、
魔王レクサーの「相手を引きつけながら後退せよ!」という命令に従う事にした。
とは云え易々と敵に制空権を奪われるのも癪だったので、
時折は自身が強力な風属性の攻撃魔法を放って、飛竜ごと竜騎士を撃墜した。
だがそれでも竜騎士団は怯まず、果敢に魔王軍の空戦部隊を攻め立てた。
『――グリファム、そろそろ潮時じゃない?」
エンドラが念話でグリファムに語りかけてきた。
『――そうだな、少々悔いは残るがここは魔王陛下の命令に従おう」
グリファムはやや不服そうに念話でエンドラにそう告げた。
『まあまあ、戦いはこれで終わりじゃないわ。
次の機会を待ちましょう、必ず名誉挽回のチャンスは来るわ!』
『……嗚呼』
グリファムは渋々ながら承知した。
そして全軍に後退命令を出して、敵の追撃を振り切り本陣へと戻った。
こうして連合軍が制空権を握る事となった。
そして作戦は第二段階へと移る。
ハドレス半島の沖合いに既に多くの連合軍の艦隊が集結しつつあった。
「よし、次の作戦に移る。 我々、主力部隊は海上の艦隊の甲板上に着艦するぞ。 そして猫族の魔導師、魔法使いを飛竜に相乗りさせるんだ。 それから高度と速度を保って、猫族の魔導師部隊の魔法攻撃をサポートするんだ。 いいか、これは騎士団長として命令だぁっ!!」
騎士団長レフは高らかにそう宣言する。
そして彼を初めとした竜騎士達が海上の味方艦隊の甲板上に着艦。
それを待ちわびていたと云わんばかりに、猫族の魔導師達が飛竜に騎乗する。
竜騎士の機動性と猫族の高火力を生かす戦術。
この戦術の発案者は猫族の第二王子のマリウス王子であった。
そしてこの戦術が『大君主作戦』の明暗を分ける事となった。
『よし、全員準備はいいか? 準備が出来次第、上昇するぞ!』
レフは耳錠の魔道具越しにそう命令を下した。
そして部下達はその命令に従いながら、猫族を相乗りさせた飛竜を上昇させた。 空には飛竜の群れ、海上には連合艦隊、そして戦いの第二幕が始まろうとしていた。
次回の更新は2021年10月10日(日)の予定です。
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