第二百九十五話 制空権を奪え(前編)
---三人称視点--
魔大陸の最南端のハドレス半島。
そのハドレス半島の上空に無数の飛竜やグリフォン、
コカトリスが両翼を羽ばたかせて舞っていた。
オーヴァーマインド作戦と後に呼ばれるこの戦いは、
まずは連合軍と魔王軍の飛行部隊による衝突から始まった。
レフ・ラヴィン率いる竜騎士団は中央に主力部隊100名を置いて、
左翼に副団長ロムスが率いる第二陣に40人、右翼にカチュア率いる女性の竜騎士部隊15名と男性の竜騎士部隊25名を配置した。 そして第三陣となる後衛には竜騎士部隊20名に、猫族の魔法戦士や回復役を相乗りさせた部隊が控えていた。
基本戦術はレフ率いる主力部隊が全力で敵の空戦部隊と戦い、切り込み隊長のカチュアが女性の竜騎士部隊15名を率いて敵のサキュバス部隊を食い止める。 主力部隊が疲れてきたら、後退して左翼のロムスが率いる第二陣が前線に躍り出る。 そして魔力や体力を消費した主力部隊に、猫族の魔法戦士や回復役を相乗りさせた後衛部隊が近づき、「魔力パサー」や回復魔法で魔力を補充して、傷を癒やす。 これが基本戦術である。
また各部隊の指揮官及び主力部隊は、サキュバスの魅了をはじめとした状態異常に強い耐性を持つレディスの首飾りを装着して、戦いに挑んでいた。
「とにかく一匹でも多くの敵を倒すんだ!
敵の幹部相手には複数人で対応しろ! 接近戦は避けて魔法攻撃で動きを封じるんだ!」
レフの言葉に周囲の竜騎士達は「了解」と答えて頷いた。
するとレフは左手を軽く上げて「突撃だ!」と号令を下した。
そして敵との距離が狭まなり、先手必勝と云わんばかりに魔法攻撃を仕掛けた。
「まずは魔法攻撃で攻めろ! 我は汝、汝は我。 我が名はレフ。
竜神ガルガチェアよ、我に力を与えたまえ! ……『サンダーボルト』!!
「――俺達も続くぜ! 『ワール・ウインド』!」
「おお! 『ワール・ウインド』!」
騎士団長レフに続くように、他の竜騎士達も風属性の攻撃魔法を唱えた。
旋風が巻き起こり、風の刃が前方の魔王軍の飛行部隊に目掛けて放たれる。
すると虚を突かれたグリフォンやコカトリスに騎乗した獣人達は、
魔法攻撃をまともに受けて、騎乗する魔獣の鞍から落ちて地上へ落下して行った。
「くっ……怯むな! 慌てず耐魔結界を張るんだ!」
と、後衛に陣取る獣魔王グリファムがそう叫ぶ。
だが不意を突かれたことで、魔王軍の空戦部隊の動きは少し鈍かった。
そしてレフ率いる竜騎士団はその隙を見逃さなかった。
「――我は汝、汝は我。 我が名はレフ。
竜神ガルガチェアよ、我に力を与えたまえ! ……『トニトゥルス』!!
レフがそう呪文を紡ぐなり、前方に雷鳴が響き渡った。
そして次の瞬間、敵の頭上に雷光が発生して、凄まじい轟音と閃光が敵の空戦部隊に衝撃を与えた。
「あ、あ、あああぁっ……あああああっ!!」
「……電撃魔法だ! 全員、警戒しろ!!」
と、グリファムが叫ぶが周囲の空戦部隊は驚き戸惑っていた。
そしてそこから間を置かず、レフは畳みかけるように次の手を打った。
レフは頭上に左手をかざし、掌を大きく開きながら呪文を唱え始める。
「我は汝、汝は我。 我が名は竜人族レフ。 我は力を求める。 偉大なる水の精霊よ、我が願いを叶えたまえ! 嗚呼、雲よ! 全てを押し流し、あらゆるものを包み込め!」
するとレフの頭上の雲が突如曇り、その直後に暴風が吹き荒れ始めた。
そしてレフは眉間に皺を寄せながら、更に呪文を唱える。
「天の覇者雷帝よ! 我が名は竜人族レフ! 我が身を雷帝に捧ぐ!
偉大なる雷帝よ。 我に力を与えたまえ!」
すると黒い雨雲が、急速に縮まり一点に集約されていく。
そして圧縮された雲が、激しい稲光を放った。
それから雲が急激に縮小していく。
それと同時にレフは右手に膨大な魔力を蓄積させて、鋭利な声で砲声する。
「――雷光!!」
レフの砲声と共に、圧縮された雲から雷光が迸り、前方の魔王軍の空戦部隊に命中した。
「ぎ、ぎゃあああああ……あああっ!?」
「こ、これはヤバいっ!? 皆、逃げろ……うぎゃあああ……あああっ!!」
放たれた雷光は一瞬で、前方の空戦部隊の周囲一帯を焼き尽くした。
レフの放った雷光は一瞬で、敵の飛行部隊を二十人近く戦闘不能に追いやった。
そして黒焦げになった肉塊が次々と地上へ落下して行く。
「……クッ、これでは部下達が萎縮するのも無理はない。
ならばここはオレ自らが前線に立って敵を迎え討つ!!」
グリファムはそう云って、愛獣のグリフォンに前へ進むように命じた。
だがそうはさせまいと、レフが再び電撃魔法を詠唱する。
「――させるかァっ! 我は汝、汝は我。 我が名はレフ。
竜神ガルガチェアよ、我に力を与えたまえ! 『サンダーボルト』!!」
「――甘いわっ!!」
グリファムはそう叫んで素早く両手で印を結んだ。
すると強力な風属性の対魔結界が前方に張られて、迫り来る雷撃を綺麗に防いだ。
だがそれと同時にレフが左手を高く上げて、素早く号令を出す。
「奴は魔王軍の幹部だ。 だから奴を相手する場合は複数人で戦え!
それと基本的に接近戦は避けろ! さあ、今のうちに奴に魔法を打ち込むんだっ!」
「了解です! 『ワール・ウインド』!!」
「全員で集中砲火だっ! 『ワール・ウインド』!!」
「――俺達も続くぜ! 『ウインド・ブレード』!」
竜騎士達は騎士団長の号令に従い、次々と風属性の攻撃魔法を唱えた。
旋風が巻き起こり、風の刃が前方のグリファム目掛けて放たれる。
だがグリファムは風魔法を得意としていた。
故にこの程度の攻撃なら耐魔結界で防げる。
しかし十数人に及ぶ竜騎士達は、風属性の攻撃魔法でグリファムを更に狙い撃った。
「くっ……こう立て続けに攻められたら、身動きが取れん!」
「よし、奴を食い止めているうちに他の空戦部隊を倒すぞ!」
「了解です!」
そしてレフを先頭にして、竜騎士達が敵の空戦部隊目掛けて突撃する。
竜騎士達は手にした斧槍を振るい、払う、刺すという
一連の動きを駆使して、次々と敵の空戦部隊を切り捨てて行く。
するとその後方で待機していたサキュバス部隊の頭目エンドラが咄嗟に指示を出した。
「あ~、こりゃマズいわね。 敵も何ふり構わずって感じだわ。
というわけでアタシ達サキュバス部隊の出番よっ!!」
「了解です~、女王様ぁっ!!」
黒いチューブトップ、下半身は黒いショートパンツ、
その両足にヒールの高い黒のブーツ姿を履いたサキュバス達が
背中からはえた漆黒の両翼を羽ばたかせて、レフ達に迫ろうとしたが――
「――させるかっ!!」
と、右翼からカチュア率いる女性の竜騎士15名がサキュバス達の前に立ち塞がった。
「はいはい、そんなにムキにならないでよん! リラックスしようよ、リラックス! じゃあアタシの魅力で皆を魅了しちゃうぞ! 『ラブリー・ファシネーション!!』
サキュバス・クイーンのエンドラは得意とする魔人級の魅了攻撃を放った。
この魅了攻撃はかなり強力で常人ならば、ほぼ魅了状態にされる。
だが効果の対象はあくまで異性――男性、雄に限られていた。
そして女性のみで構成されたカチュアの部隊にはまるで効果なかった。
「効かないわよ! さあ、皆一斉攻撃するのよ! ――ブラスト・ジャベリンッ!!」
「了解です! ――ブラスト・ジャベリン!」
「せいっ! ブラスト・ジャベリン!」
そう叫びながら、女性の竜騎士達は、手にした斧槍に光の闘気を宿らせて投擲。
投擲された斧槍が前方のサキュバス部隊の胸部に突き刺さった。
急所に加えて、肺を潰されたら、呪文や技を詠唱する事は出来ない。
「今よ! ――リバース!」
カチュアがそう叫ぶなり、サキュバスの胸部に突き刺さった斧槍が念動力によって、傷口を抉りながら、カチュアの手元に手繰り寄せられた。 それに習うように他の女性の竜騎士達も眉間に力を篭めて、念動力を発動する。
「了解です! ――リバース!」
「リバースッ!」
投擲された斧槍を再び手にする女性の竜騎士達。
そして動揺したサキュバス達の間隙を突いて、左手で飛竜の手綱を操りながら、
前方に加速した女性の竜騎士達が上級槍術スキルを一斉に放った。
「喰らいなさい! ――ヴォーパル・スラスト!」
「えいっ! ――ヴォーパル・スラスト!」
「――ヴォーパル・スラストッ!」
「き、きゃあああっ!」
「う、うぐぅ……うわああぁっ!?」
流れるような動きで華麗にサキュバスを仕留める女性の竜騎士達。
するとサキュバスの女王であるエンドラが腰のベルトから、
赤竜の皮で出来た緋色の鞭を引き抜き、右手に持った。
「やれやれ、少しはやるようね。 仕方ないからこのアタシ自らが相手してあげるよ」
エンドラはそう云って、背中の黒い両翼を羽ばたかせて、カチュアに近づく。
するとカチュアも左手で手綱を握り、群青色の斧槍を右手に持ちながら、身構える。
「……アンタ、魔王軍の幹部?」
「そうよ? 幹部の一人よん、名前はエンドラ~。 よろしくねん~!」
エンドラはカチュアの問いに明るく答えた。
カチュアはその態度が敵ながら妙に軽かったので、微笑みを浮かべた。
「そういうノリ嫌いじゃないわ。 私は竜騎士団の切り込み隊長カチュア・アルグランスよ!」
「了解、了解、じゃあカチュアちゃん! お姉さんと遊ぼうか?」
「いや遊びじゃないわ。 本気で行かせてもらうわ!」
「そう、そういうのも嫌いじゃないわよ!」
そして互いに距離を詰めて、武器を構えながらこう言った。
「では行くわよ! ――アクセル・ドライブッ!」
「――かかって来なさい、カチュアちゃんっ!!」
次回の更新は2021年10月9日(土)の予定です。
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