第二百九十四話 嵐の前の静けさ
---ラサミス視点---
結局、会議は一週間近く続いた。
と云っても会議の七割は不毛な論争であった。
後にハイネダルク会談と呼ばれるこの会談は、大半の参加者からすれば不毛な会議の場であった。 例の如くヒューマンの第三王子ナッシュバインと猫族のマリウス王子が正面から、激しい舌戦を繰り広げていたが、周囲の者は白け気味であった。
大半はナッシュバインとその側近が煽る形であったが、
猫族側もその挑発に簡単に乗り過ぎだったと思う。
まあ猫族は精神年齢は比較的幼い方だからな。
ドラガンみたいな猫族は異例の存在と云えるだろう。
まあそんな中でも一応、作戦会議が進んで行った。
今回の上陸作戦の戦費や物資調達に関しては、
ニャルレオーネ商会を初めとした商会やマフィア組織が捻出してくれたようだ。
とは云っても彼等にはそれなりの見返りがある。
まあ要するに国の上層部が彼等のような商会やマフィアの非合法に近いビジネスに目を瞑ったり、恩赦という形でマフィアの幹部を牢獄から釈放したりと、裏で手を回していた。
オレ個人としては、あんまり褒める気にならない政策だが、
魔族相手の戦いだからな。 綺麗事ばかり云っても戦いには勝てない。
だからこういう部分も含めて、仕方ない事だと思う。
まあそんな感じで会議が進み、この上陸作戦の細かい作戦内容も決まっていくが、冒険者や傭兵部隊であるオレ達「暁の大地」や「ヴァンキッシュ」、それとアイザック率いる傭兵部隊の傭兵隊長達も上層部の論争を静観していた。
むしろこれらの会議では、殆ど自己主張せず、
ヒューマン側にも猫族側にも中立の立場を貫いた。
そして夜になると城下町ハイネガルに繰り出して、酒場で憂さ晴らしの宴会を開いていた。
というか気が付けば、オレの実家の『龍之亭』に「ヴァンキッシュ」の団員やアイザック率いる傭兵部隊の傭兵達が集まって、宴会を開いていた。
何でもリアーナで有名なカーマイン兄弟の実家、という触れ込みで、冷やかし半分で来た客が店のサービスや料理の質の高さに魅了されて気が付けば、連日店へ来る常連客と化していた。
まあこの辺は少し複雑だけどな。
でも想像以上に店が繁盛したので、両親は――
「もっと客を呼んで来い!」
「来る者拒まず去る者追わずよ、兎に角じゃんじゃんお客さん呼んで来て!」
と、逞しすぎる商売根性を全快で店を切り盛りしていた。
気が付けば、クロエ達だけでなく、団長ヨハンやマンクスの猫族のジョルディー、アイザックやボバンとその仲間の竜人族の傭兵達も連れだって、店に押しかけてきた。そして元から居た常連客ともすぐに打ち解け、オレと兄貴の酒の肴として盛り上がった。
またカリンとエリス、メイリン達もすっかり打ち解けたようだ。
まあ最初の出会いは最悪だったけど、この場合は結果的には良かったのかな?
そして会談も無事に終わり、オレ達はリアーナに帰還する事となった。
「いつでも帰って来いよ」
「兎に角、生き残る事を最優先にしなさい。 命あっての物種だからね!」
と、親父とお袋はそう云ってオレ達を送り出した。
まあ今回の会談は少し疲れたが、少しは親孝行出来て良かったな。
そしてオレ達はハイネガルの瞬間移動場からリアーナへ瞬間移動した。
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リアーナへ戻ってからは、上陸作戦に向けて各自それぞれの準備を始めていた。
回復薬や魔力回復薬の補充は当然として、方位磁石、保温用の魔石、酔い止め用の丸薬、冒険者ギルドから暗黒大陸の地図を取り寄せた。
まあ最悪船酔いは治療魔法で治せるが、今回は船での長時間の移動となるので、その都度、治療魔法をかけるのは魔力と時間の無駄だ。 だから上級から聖人級回復及び治癒魔法に該当する魔法スクロールをいくつか持った。 この魔術スクロールを使えば、上級及び聖人級回復及び治癒魔法とほぼ同等の効果が得られる。
これで酔い止めでだけでなく、万が一の緊急事態の時も大丈夫だ。
そしてオレ達だけでなく、この上陸作戦の参加者はその辺の対策をしっかり打っていた。
また地図に関しては、第一次ウェルガリア大戦前の物になるが、最低限の地形や位置の把握は出来るので、この一週間余りで冒険者ギルドは大量の地図を発行する事となった。
それと暗黒大陸は基本的に冷帯なので、防寒対策にも万全の準備を期した。
寝袋や野営用のテントは戦いに参加する荷物持ち達が運んでくれる。
食料や飲料水は各自で持つ形だが、多くの食料や飲料水は補給部隊が管理する。
なので補給部隊を敵の攻撃から守る必要もある。
まあその辺は護衛艦や護衛部隊の仕事となるが、
オレ達も出来る限りの事をして、自軍の補給ラインは保つ必要がある。
飢えた軍隊の行き先は暗いからな。
そんな感じでこの五日ほど、準備に時間を費やした。
だが各国の軍艦や武装商船、商船、輸送船がまだ完全には集結していなかったので、船が出揃うまで、リアーナの拠点でしばらく待機する事となった。
オレはその間、剣術道場やフィスティングジムや道場で鍛錬に励んだ。
まあこんな短期間で刀術や格闘能力が対して上がるとは思わないが、
何もしないよりかは良いだろう。
他の団員達は各自、それぞれ自由行動を取っていた。
兄貴やミネルバはオレと同様に、職業ギルドや道場で鍛錬に励んだ。
エリス、メイリン、マリベーレは最後の休暇を満喫するかのように、
連日、劇場に出向いて、演劇やサーカスを観て大いに愉しんでたようだ。
オレは独創的技を中心に技を繰り出した。
「フィギュア・オブ・エイト」と「乱火風光剣」を中心に模擬戦をひたすら繰り返した。 格闘戦に関しては、正直どんな奴が相手でも互角以上に渡り合えた。
だから格闘戦は控えめにして、刀術中心の模擬戦にチェンジする。
だが刀術に関しては、まだまだ改善の余地があった。
なので師範や師範代に指導を仰いで、基本を中心に練習を繰り返し続けた。
そんなこんなで十日間が経過。
そして迎えたウェルガリア歴1602年4月5日。
オレ達やアイザック達、それと「ヴァンキッシュ」のメンバーは猫族領・港町クルレーベの船着き場から、上陸作戦の連合軍の総旗艦となる戦闘型ガレオン船・ニャローシップ号に乗り込んだ。
翌日、大猫島に到着。
大猫島の港には様々な種類の船が停まっていた。
正規海軍の軍艦から、武装商船、輸送船、海賊船など多種多様の船の姿が見えた。そしてオレ達や「ヴァンキッシュ」のメンバーは、この大猫島で猫族海賊のキャプテン・ガラバーンと再会した。
「『暁の大地』及び『ヴァンキッシュ』の皆さん、お久しぶりです。 あなた方にはこれからワタシのネオ・ブラックサーベル号に乗艦して頂きます。 この船に乗船した以上は、ワタシが責任を持って、皆さんを戦地までお連れします」
「……キャプテン・ガラバーン、ありがとうございます!」
オレはそう云って、眼前のキャプテン・ガラバーンと握手を交わした。
そしてガラバーンに案内されて、彼等の旗艦・ネオ・ブラックサーベル号へと乗り込んだ。
ネオ・ブラックサーベル号は端的に云えば、横帆と縦帆が組み合わせられた4本のマストを持った戦闘型ガレオン船だ。
キャプテン・ガラバーンは大猫島の大海戦で連合軍を勝利に導いた事によって、
連合軍から進呈された戦闘型ガレオン船を海賊仕様向けに少し改造したらしい。
そして彼等の象徴とも云える可愛らしい猫を丸で囲んで十字紋が記された黒い海賊旗を掲げていた。
オレ達や「ヴァンキッシュ」のメンバーを含めた第一軍、
それとアイザック率いる傭兵部隊や山猫騎士団を主力とする第二軍、
ネイティブ・ガーディアンを中心としたエルフ族の第三軍は、
猫族海賊が指揮する旗艦や海賊艦に乗艦する事となっていた。
ヒューマンを中心とした第四軍と第五軍はハイネダルク王国海軍の戦闘型ガレオン船・総旗艦エステンバークに、本陣である最高司令官マリウス王子率いる第六軍は、総旗艦ニャローシップ号に乗艦する事となった。 そして各艦隊と商船、武装商船、輸送船が大猫島から出港した。
オレ達が乗るネオ・ブラックサーベル号と総旗艦ニャローシップ号は、中央海のガビー島へ、ナッシュバイン王子とその配下である第四軍と第五軍が乗る王国海軍の総旗艦エステンバーク号はロンゾ島へ、そして第二軍と第三軍はエグゼル島へ寄港した。
それから数日経つと、中央海は連合軍所属の軍艦や海賊船、商船、武装商船、輸送船、病院船で埋め尽くされた。 そしてここからそれぞれの島から船を出航させて、暗黒大陸の最南端の半島へ向かった。 まずは騎士団長レフが率いる竜騎士団が先陣を切り、制空権を制圧して戦いの主導権を確保するという目論みである。
だが敵も必死だろう。
敵としても連合軍の本土上陸は避けたいであろう。
となればこの制空権を握る戦いは最初の山場になるのは明白であった。
だがとにかくここはレフ達を信じるしかない。
そしてオレ達が安全な航海している最中、
竜騎士団は暗黒大陸の最南端の半島へ向かって飛び立った。
ここから数時間、あるいは数日の戦いが連合軍の今後の命運を決めるかもな。 オレ達はネオ・ブラックサーベル号の甲板上からレフ率いる竜騎士団を見送った。 だが嵐の前の静けさと云うべきか、海はとても穏やかで、波の音も静かであった。
---三人称視点---
そして迎えたウェルガリア歴1602年4月10日早朝五時半。
レフ・ラヴィン率いる竜騎士団が暗黒大陸の最南端の半島――ハドレス半島に到達。 それを待ち受けていたかのように、グリファム率いる獣魔団とエンドラ率いるサキュバス部隊がハドレス半島の上空で竜騎士団を迎え討とうとしていていた。
「――では全員戦闘態勢に入れ! まずは制空権を握るぞ!
敵の幹部には数人がかりで戦え! とにかく一体でも多く敵を倒すんだ!」
騎士団長レフがそう云うなり、部下達は「おおっ!」と叫んだ。
そして飛竜を操りながら、片手で斧槍を構えて、ゆっくりと前進する。
後に『大君主作戦』と呼ばれるこの大激戦は、
まずは両軍の空戦部隊による激しい空中戦から始まろうのであった。
次回の更新は2021年10月6日(水)の予定です。
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