第二百五十六話 猫族(ニャーマン)マフィア(前編)
---ラサミス視点---
「あ~、食事を終えたら冒険者団員の皆は一階の談話室に集まってくれ!」
オレ等若手の団員達が一階の食堂で優勝を取っていると、不意に現れたドラガンがそう告げた。 ん? また何か話でもあるのか?
まあいいや、とりあえず飯を食ったら談話室へ行くか。
そしてオレ達は夕食を取り終えると、食器を片付けて一階の談話室へ向かった。
コン、コン、コン。 オレは談話室の扉を軽くノックする。
すると中から「入れ!」というドラガンの声が聞こえたので、
ドアノブをガチャリと回して、部屋の中へ入った。
「よし、全員来たな。 とりあえずラサミス、エリス、メイリン、ミネルバ、マリベーレ。 オマエ等五人はベランダ側の席に座れ!」
「了解!」
オレ達はドラガンに云われるまま、大きなダイニングテーブルのベランダ側に座った。 その反対側の椅子三脚にドラガン、その右隣に兄貴、アイラが座っている。
「で何の話ッスか?」
オレは単刀直入にそう聞いた。
するとドラガンが「うむ」と小さく頷いてから、ゆっくり喋り出した。
「実は少し困った自体になってな。 大猫島の大決戦の後に拙者がキャプテン・ガラバーンから手紙を受け取ったのは覚えているか? 実は色々あってその手紙を渡してなかったんだが、手紙の送り先の相手が何処かでその話を聞いたのか、今日わざわざ拙者宛てに手紙を送ってきたんだ」
ああ、そういえばそんな事あったなぁ。
でもたかが手紙を渡すのになんでそこまで躊躇してたんだ?
こりゃ何か面倒臭い話になりそうだな。
「まあ本来なら手紙の受け渡しくらいで騒ぐ必要はないんだが、
今回の場合は相手が相手だけにな、少し面倒な話になりそうなんだ」
「……どういう相手なんスか?」
「……ニャルレオーネ・ファミリーだ!」
「なっ!?」
オレは思わず息を呑んだ。
成る程、どうりでドラガンが躊躇う訳だ。
まあ端的に云えば「ニャルレオーネ・ファミリー」はリアーナを根城とする大規模のマフィア組織だ。
ニャルレオーネ・ファミリーという少し間抜けな組織名だが、
ニャルレオーネ・ファミリーはリアーナ内でも絶大な影響力を誇る。
構成員は500名以上、この中立都市リアーナの宿屋、港の運送会社、建設業、
カジノや劇場、サーカス、レストランなどを裏で経営して支配している。
構成員の多くが猫族とも云われているが、
リアーナのマフィアは目立つ事を嫌い、一般市民と見分けのつかない様な格好をしており、表向きの仕事も持ってたりする。 そういうマフィア組織の中でもニャルレオーネ・ファミリーは頭一つ抜けた存在だ。 だからドラガンが二の足を踏むのも無理はなかった。
「そうか、そりゃ確かに厄介ですね」
「ああ、しかもドン・ニャルレオーネ自らが我々に「挨拶に来い!」という手紙が今日届いた。故に我々も出向く必要がある。 但し相手は泣く子も黙るニャルレオーネ・ファミリーだ。 だから拙者と同行する団員も厳選する。 皆、それで構わんな?」
ドラガンの言葉にオレ達は無言で頷いた。
流石のエリスとメイリンも猫族マフィア相手だからいつになく神妙な表情をしている。
「では拙者の独断と偏見で拙者に同行する団員をこの場にて決める。 まず副団長のライル、それとアイラ、それからラサミスとミネルバの五名で行く事にする」
「分かった」
「そうね、その面子がいいでしょう」
兄貴とアイラも納得した表情で肯定した。
「了解ッス」「……はい」
オレとミネルバも団長の決定に同意した。
まあ相手は猫族とは云え、マフィアだ。
エリスやメイリンを連れてって「只の猫族扱い」した日にはどんな状況になるか、皆目見当がつかない。
なのでエリスとメイリン、そして子供のマリベーレを除外したのは妥当な判断だと思う。
「では早速だがこの五人でリアーナの居住区にあるニャルレオーネ邸へ向かう。
相手は只の猫族ではない。 リアーナの影で牛耳る黒幕だ。
くれぐれも無礼を働かないようにな。 では以上を持って解散する。
やれやれ、コレは少し面倒な事になりそうだな。
猫族のドンか。 出来ればあまり会いたくないが、これも仕事だ。
とりあえず今日は早い目に寝て、明日に備えるか。
---------
翌日。
オレ達五人は居住区の高級住宅街へ向かった。
ちなみ今回は完全に丸腰状態だ。
相手はマフィアだからな、これがお互いの為になるだろう。
また実際にこうして高級住宅街へ足を運ぶのはこれが初めてであった。
だが予想していた以上に高級住宅街は活気があり、とても綺麗な町並みであった。
ここ高級住宅街はある程度、選ばれた者しか足を運ぶ事は許されない。
故にオレとミネルバはやや居心地の悪さを感じていた。
住民の顔も様々である。
人間の男女もいれば、エルフや竜人の男女もいる。 冒険者もいれば商人らしき男女もいる。
町の到るところに四大種族がそれぞれ同じくらいの割合で、自警団の警備員が目を光らせていた。
「……やはり少し緊張するか?」
「ああ、兄貴達は妙に堂々としてるよね」
「そうわけでもないぞ。 ただ必要以上に気にしても仕方ないだろ」
「まあそうだね」
それからオレ達はしばらく十分程、ひたすら歩いた。
すると周囲には何故か子猫の猫族の姿が多く見えた。
何やら遊んでいるように見えるが、なにか妙な違和感を感じた。
「ニャ、ニャ、ニャニャニャン!」
「ニャニャニャッ、ニャン、ニャハハ、ニャン!」
ん? なんか妙だな。
ただ鳴いているようには見えないな。
なんか意思の疎通を図っている気がする。
するとドラガンが小声で囁いた。
「アレは猫族言語だ。
只の子猫じゃないな。 監視役も兼ねているんだろう」
「え? そうなの?」
「ああ、マフィアという立場上、敵が多いだろうからな。
だからこうしてなにげない形で街中に網を張ってるのだろう」
そうなのか?
なんというか随分と用心深いな。
でも確かに近くの子猫達が急に黙りだした。
そうこうしているうちに、オレ達は石造りの三階建ての館の前に辿り着いた。
建物の広さは貴族の邸宅くらいの大きさがあり、前庭や裏庭も備わっており、周囲は鉄柵で囲まれていた。
門から入り口へと続く長い石畳の道、道の途中にある噴水、綺麗に刈り揃えられた芝。 そして、その奥に黒い綺麗な館が鎮座している。 正面の玄関口には禿頭の屈強な肉体のヒューマンの男が黒服姿で二人立っていた。
「……何か御用ですかね?」
と、片方のヒューマンの男が露骨に訝しんだ顔でこちらを見る。
するとドラガンが腰のポーチから二枚の手紙を取り出した。
「拙者は連合『暁の大地』の団長ドラガン・ストラットです。
この度はそちらのドン・ニャルレオーネ氏がご招待されたので、
こうして挨拶に伺いました。 これがニャルレオーネ氏から頂いたお手紙です」
そう云ってドラガンは手紙を警護役の禿頭の男に手渡した。
すると禿頭の男は入念に手紙の内容チェックする。 そしてそれが紛い物でない事を悟ると、今度はオレ達のボディチェックを始めた。 一通り身体を触れて、安全が確認されると禿頭の男は、耳に填めた耳錠の魔道具で他の仲間と交信を始めた。
「……ああ、そう云ってる。 うむ、うむ、そうか、分かった」
すると禿頭の男は正面玄関の扉を開いた。
そして先程までとは打って変わった慇懃な態度でこう告げる。
「『暁の大地』の団長ドラガン・ストラット殿、そしてそのお仲間の方々。
中でドン・ニャルレオーネがお待ちしておりますので、どうかお入りください!」
「……はい」
そう云ってドラガンは正面玄関を潜った。
そしてオレ達もドラガンの後について行く。
想像以上に物々しい雰囲気だな。
マフィアか、こりゃ猫族と思って侮らない方がいいな。
さてドン・ニャルレオーネなる者は、どんな奴か。
それをこの目で確かめてやろうじゃないか。




