第二百四十五話 快刀乱麻(かいとうらんま)を断つ
---三人称視点---
ドラガンは炎の縄で拘束されて、
ナース隊長は敵の魅了攻撃で魅了状態。
残された面子はラサミスと後衛のメイリンとクロエ。
正しく絶体絶命のピンチ!
眼前のプラムナイザーも勝利を確信したように、微笑を浮かべていた。
だがラサミスはこの状況下においても、落ち着いていた。
無論、ピンチな事には変わらない。
しかしこれまで大なり小なり修羅場を潜ってきたせいか、
サラミスは妙に落ち着いて、この危機的状況の打破を試みる。
「う、ううっ……ああっっ~」
魅了状態のナース隊長が苦しそうに喘ぎながら、
右手に持った銀色の片手剣を構えながら、ラサミスに近づいた。
するとプラムナイザーはその光景を見ながら、可笑しそうに笑った。
「ふふふ、これは見物だな」
「来るな、来ないでくれ! ナース隊長!!」
と、ラサミスは悲痛な叫びを上げた。
しかしナース隊長は「ううう」と唸りながら、手にした片手剣を振り上げた。
勝利を確信したプラムナイザーは「勝った!」と勝利宣言をした。
だがそれは大きな誤りであった。
「――『フィジカル・リムーバー』ッ!!」
ラサミスは右手を振りかざし、状態異常解除の職業能力を発動させた。 するとラサミスの右手から放出された白い波動がナース隊長の身体に降り注がれた。
そしてしばらくするとナース隊長は、正気に戻った。
「えっ……?」
「なっ!?」
ナース隊長だけでなく、プラムナイザーも一瞬呆けた表情になった。
そしてラサミスはその隙を逃さなかった。
まず右手に持った雪風を黒鞘に収めて、両手で水色の盾を持った。
「うおおおぉっ!!」
そこからラサミスは両手に持った水色の盾を前に押し出しながら、全力で床を蹴った。 完全に不意を突かれたプラムナイザーは反応が遅れた。
そしてラサミスは一気に間合いを零にした。
「クッ、図ったなぁ!」
プラムナイザーが苦し紛れに右手に持った黒刃の片手剣で凪ぎ払いを放った。
だがラサミスはそれをダッキングで回避。
そして左手に持った水色の盾を床に投げ捨てた。
そこからラサミスは反り返るように反転しながら、右足を大きく蹴り上げた。
ラサミスのサマーソルトキックがプラムナイザーの顎にカウンター気味に命中!
ラサミスの右足に確かな感触が伝わった。
「ごふっ!?」
会心の一撃が決まり、プラムナイザーの顎が砕かれた。
それと同時にラサミスは軸足を左足から右足に変えた。
つまり左構え型から右構え型にスイッチしたのである。
不意を突かれて、強烈な蹴りで顎が砕かれたプラムナイザーの眼が虚ろになっている。
――さあ、ここからが本番だぜ!
――このオレの最強コンボを喰らうが良い!!
――実戦で使うのは、初めてだがコレが決まればオレの勝ちだぁっ!
「――フィギュア・オブ・エイトッ!!」
ラサミスはそう叫んで、八の字を描くように、身体をウィービングさせた。
それはまるで振り子の反動を生かしたような動きであった。
そして自身の編み出した独創的技を全力で放つラサミス。
ラサミスはまずは真横から左フックでプラムナイザーの右脇腹を強打。
「ぐはっ」と呻くプラムナイザー。
そこから返しの右フックでプラムナイザーの左耳を殴打。
「ぐああぁっ」と叫ぶプラムナイザー。
今の一撃でプラムナイザーの左耳の鼓膜が破れた。
だがラサミスは躊躇しなかった。
ラサミスは更に左右のフックを叩き込む。
「――フィギュア・オブ・エイトッ!!」
再度、独創的技を放つラサミス。
ラサミスは何度も何度もフックを叩き込む。
身体で八の字を描き、体重をたっぷり乗せる。
そこから何度も左右のフックを叩き込んだ。
「がはあぁっ……あああぁっ!?」
と、口から唾液と血液を飛ばすプラムナイザー。
相手は魔族と云えど女。
本来であればラサミスも女相手にこのような真似はしない。
だがこの場においては違った。
ラサミスは更に殴る、殴る、殴る、全力で殴る。
拳が痛むが更に殴る。 殴打、殴打、殴打。
とにかく殴る、殴った、殴りつけた。
次第にプラムナイザーの顔は血だらけになり、両眼を腫れて塞がり、鼻も骨折状態。
牙も歯もボロボロで何本も折れた状態。 最早、完全に戦闘不能状態だ。
だがラサミスの両拳も想像以上に傷ついていた。
だからラサミスは止めを刺すべく、次の手を打った。
――もうそろそろ拳も限界だな。 ならば次の一撃で全てを終わらせる。
「はあああぁっ……『黄金の息吹』!!」
ラサミスは全魔力を解放して、『黄金の息吹』を発動させた。
そして右腕に全魔力を注いだ光の闘気を宿らせる。
――この一撃に残りの全魔力を使う!
――これが決まれば、確実に此奴を倒せる筈だぁっ!
――喰らいやがれ、コレがオレの全力の「徹し」だぁっ!!
「ご、ご主人様! あ、危ない、逃げてぇ!」
と、主人の傍で叫ぶ使い魔の猫の妖精。
だがプラムナイザーは既に死に身体状態。
故にミアンの声は彼女に届かなかった。
ラサミスは瞳がぎらりと光せて、プラムナイザーの懐に入り込んだ。
そこから「ハア――」と大きく呼吸して、右手を開いたまま大きく前へと突き出した。
そしてラサミスは眩く光った右手でプラムナイザーの胸部を全力で強打。
次の瞬間、凄まじい衝撃がプラムナイザーの体内で爆発する。
「ぐ……ぐはあああぁぁっ――――」
ラサミスの右手に伝わる確かな衝撃。
プラムナイザーは口から胃液と血液を逆流させながら、
物凄い勢いで後方に十メーレル(約十メートル)程、斜め後ろに吹っ飛んだ。
そして背中から教会の壁に衝突。 するとそのままずるずると床に倒れ込んだ。
それと同時にプラムナイザーは「がはっ」と嘔吐いて、両肺を潰された口から大量の血液の泡を吹き出していた。
「ハアハアハアハァ……」
全魔力を使い切ったラサミスは呼吸を乱しながら、
見下ろす形で地べたに倒れ込んだプラムナイザーを見据えた。
「ご、ご主人さ……まァ……アアアァッ……」
プライナイザーの傍に浮遊する猫の妖精のミアンの身体が明滅し始めた。
ミアンはプラムナイザーの魔力で生み出された使い魔である。
故に使役者であるプラムナイザーの命が尽きれば、当然使い魔であるミアンも消滅する。
そしてミアンの身体が徐々に消えて行き、
最後は一つの魔石となって、その姿は完全に消滅した。
するとプラムナイザーの顔から生気が抜け、その双眸も急速に輝きを失う。
そして意識が薄れゆく中、彼女は最後にこう思った。
――まさか私がヒューマン如きに殺られるとはな。
――しかしそれも仕方あるまい。
――単純に私が弱くて、ラサミスが強かったのだ。
――だからその結果も甘んじて受けよう。
――だがこの私が……五百年生きた吸血鬼が……
――こんな所で朽ち果てるというのか?
――しかしそれも最早変えられない宿命。
――ならば無駄な足掻きは止めて、甘んじて死を受け入れよう。
――最後は……華麗に美しく……散ろう……
そしてしばらくすると五百年生きた女王吸血鬼の命の灯火が完全に消え失せた。
ラサミスは無表情のまま、プラムナイザーの亡骸を見据えていた。
その胸中には達成感も高揚感もなかった。
だがこれで終わりではない。
ラサミスの戦いは、連合軍の戦いはまだ続くのだ。
そしてしばらく経つと、プラムナイザーの亡骸は灰と化して完全に消滅した。
ラサミスはその光景をぼうっとした表情で見据えていた。
それは全てを出し尽くした戦士の横顔であった。
するとしばらくするとラサミスの全身に強い力が沸き起こった。
「っ!?」
一瞬何事だ、と警戒するラサミス。
だがすぐにそれはプラムナイザーを倒した事によって得た膨大な経験値と悟った。
すると急に緊張感が消え失せて、身体の力が抜けた。
そしてラサミスは左膝を床につけた。
「ら、ラサミス! だ、大丈夫!?」
と、メイリンがラサミスの許に駆け寄った。
「……やるじゃない、アンタ。 良い男になりそうね」
と、クロエも傍によって来て、そう告げた。
しかしラサミスは何処か達観した表情でこう返した。
「オレ一人の力じゃないさ。 皆のおかげさ。
それより負傷した仲間の介抱を頼む、オレも体力が戻ったら回復するから……」
「う、うん」「分かったわ」
この勝利によって、連合軍はザンバルドに続き、敵の幹部を新たに倒す事に成功。 そしてラサミスはこの勝利によって『吸血鬼殺し』と呼ばれるようになった。 だが本人はそれに対して特に感情の色を見せず、何処か達観した感じでその現状を受け入れた。 後にして思えば、この時からラサミスは英雄としての道を歩み出したのかしれない。 しかしいざ憧れの英雄の道を歩み出した本人は、その称号と周囲の評価に何処かシニカルな笑みを浮かべて、特に何も云わなかった。
だが今この瞬間は生き残れた事。
誰一人として仲間に犠牲を出さなかった事に満足しながら、
疲れた身体と精神を休ませる為に浅い眠りにつくのであった。




