第二百四十二話 女達の戦い(後編)
---三人称視点---
早くも仲間の一人が倒された事によって、ラサミス達は動揺していた。
しかし前線に居たミネルバは一人気を吐いて、
眼前の吸血鬼目掛けて、再び突撃した。
「――トリプル・スラスト!!」
ミネルバはすかさず怒濤の三連撃を繰り出した。
それに対して、プラムナイザーも右手に持った黒刃の片手剣で漆黒の魔槍と斬撃を繰り返した。
すると前方に居たアイラが後ろに振り返って、こう叫んだ。
「――今のうちにラモン殿を回復するのよ!」
「あ、ああ、分かった」
アイラの言葉にラサミスはそう頷いて、床に倒れ込んだラモンの許に駆けつけた。
「我は汝、汝は我。 我が名はラサミス。
レディスの加護のもとに……『ハイ・ヒール』!」
ラサミスは両手をラモンの腹部に直接触れながら、中級回復魔法を詠唱する。
するとラサミスの両手から眩い光が放たれて、ラモンの身体を暖かく包み込んだ。
「ご、ごふっ……すまねえ、ボーイ」
と、ラモンが噎せ込みながら、そう云った。
「良いって事よ! 後はオレ達に任せてくれ!
それじゃ悪いけど、アンタを担がせてもらうよ」
ラサミスはそう云うなり、ラモンの身体を抱えて、
後衛が陣取る教会の入り口付近まで下がった。
そして赤子を下ろすように、ゆっくりとラモンを床に下ろした。
『ナース隊長、ラモンに『自動再生』をかけてもらえませんか?』
と、耳錠の魔道具でそう伝えるラサミス。
『そうだな、分かった。 我は汝、汝は我。 我が名はナース。
神祖エルドリアの加護のもとに……『自動再生』!」
ナース隊長がそう呪文を唱えると、ラモンの身体が目映い光に包まれた。
するとラモンも左膝を床につきながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
『すまねえ、ブラザー逹。 だいぶ楽になったが、何本か骨が折れてるようだ。
だから悪いがオレ様はここで休ませてもらうぜ』
『ああ、構わんよ。 キミはよくやった』
と、労いの言葉をかけるナース隊長。
とりあえずこれでラモンの命は守る事が出来た。
とはいえまだ戦いは続いている。
それ故に油断ができない。
すると後衛で戦況を見守っていたクロエが真剣な表情で周囲の味方に語りかけた。
『アイツ、想像以上に頭がキレるわ。 この狭い空間だと、ああいう無属性の攻撃や対魔結界の方が効果的だわ。 ならこちらとしては、風魔法辺りで攻めたいところね。 ねえ、そこのお嬢ちゃん。 アンタは風魔法は得意かしら?』
『あ、自分はメイリンっス、風魔法に関してはぼちぼちという感じです。
でもどのみち遠距離から撃っても、あの白猫に魔力を吸収されますよ?』
『そうらしいわね、でもここでずっと戦況を観てるだけもアレじゃない?
だから間隙を突いて、何かしたいのよ。 アナタはどう?』
クロエの言葉にメイリンは一瞬考え込んだ。
そして「う~ん」と唸ってから、こう返した。
『その気持ちは分かりますが、自分としては、対魔結界を張る事に集中したいです。 魔法攻撃に関してはクロエさんにお任せしますよ』
『分かったわ、じゃあメイリンは対魔結界を張る事に専念して!
アタシは地形変化、可能ならば錬金魔法で支援攻撃するわ!」
『了解した、では拙者とナース隊長とラサミスは中衛で様子を見ながら、
状況に応じて、動く事にしよう。 ナース隊長もそれで構いませんか?』
『ええ、それで構いませんよ』
『……そうこう云っているうちに、アイラとミネルバがピンチだぜ!』
ラサミスがそう叫ぶと、他の者の視線も自然と前へ向いた。
アイラとミネルバは二人一組でプラムナイザーと対峙するが、二人は既に肩で呼吸していた。 対するプラムナイザーは余裕の笑みを浮かべている。
「どうした? 威勢が良いのは最初だけか?
ふん、その程度の実力でよくもああも大口を叩いたものだ!」
プラムナイザーは手にしたやや短めの片手剣の柄を右手で握り締めながら、ゆっくりと間合いを詰める。 ミネルバも黒光りする魔槍を手にしながら、摺り足で間合いを詰める。 しかし先程から何度も斬撃を交わしたが、アイラとミネルバが繰り出す技は、ほとんど防御された。
特に厄介なのが、プラムナイザーが羽織っている黒マントだ。
アイラとミネルバが切り込むと同時に、
プラムナイザーも黒いマントを翻し、迫り来る刃をことごとく弾き、防いだ。
恐らく相当な魔力によって強化された魔道具の類であろう。
しかし苦戦の理由はそれだけではない。
プラムナイザー自身の剣術、剣技のレベルもかなり高い。
アイラやミネルバにしても、S級、A級の冒険者。
最近はライルやラサミスのせいで、彼女等が活躍する機会が減っているが、
彼女等、自身の戦闘力や戦闘技能はそこら辺の傭兵や冒険者より遙かに上だ。
だが彼女等の前に立ちはだかる女王吸血鬼の実力は想像以上だった。
二対一でなんとか戦いの形になっているが、
一人でもやられたら、たちまちもう一人もやられかねない。
アイラとミネルバもそれを感じ取っていたので、どうしても慎重にならざる得なかった。 とはいえこのままでは、やられるのも時間の問題だ。 ならば少しでも相手の戦闘パターンを引き出すべきだ。 後の事は他の仲間に任せよう。
ミネルバはそう思いながら、覚悟を決めた。
そしてアイラに視線を向けて、こう囁いた。
「アイラさん、このままじゃジリ貧だわ。
だからアタシが大技を繰り出すから、後のフォローをお願い!」
「……そうだな。 悔しいが私達じゃ此奴に勝てないようだ。
だが我々でも奴の戦闘パターンを引き出す事は可能だ。
分かった、ミネルバ。 ここは君に任せるよ」
「ええ、任されましょう」
と、アイラとミネルバは言葉を交わした。
覚悟を決めたミネルバは漆黒の魔槍に光の闘気を宿らせた。
次の瞬間、一気に距離を零にして突きかかるミネルバに、プラムナイザーは振り向きざまに剣を薙ぐ。
戦槍と片手剣が、火花を散らし、激突する。
硬質な金属音が周囲に響き渡る。
「ハアアアァァァッ!! ――ペンタ・トゥレラッ!!」
ミネルバは腹から声を出して、英雄級の槍術を繰り出した。
漆黒の魔槍の穂先を高速で、前方に突き刺した。
しかしプラムナイザーも華麗な足裁きで迫り来る穂先を回避。
怒濤の五連撃を全て回避するプラムナイザー。
これには勝ち気なミネルバも一瞬怯んだ。
そして五百年生きる女王吸血鬼はその隙を逃さなかった。
「――貰ったぁっ! ――マタドール・ファングッ!!」
そう技名を詠唱すると、プラムナイザーは手にした黒刃の片手剣で中段に鋭い突きを放った。
疾風怒濤のカウンター気味の突きが物の見事にミネルバの右肩に命中する。
「う、うっ!!」
激痛と共に喘ぐミネルバ。
だがプラムナイザーは更に追い打ちをかけた。
プラムナイザーは左手を前に突き出して、全力で魔力を練った。
ミネルバは「しまった」と思ったが、どうすることも出来なかった。
「――終わりだぁっ! ――重力波ぁっ!!」
プラムナイザーが短縮詠唱するなり、左手の平に強い重力反応が生じた。
そして次の瞬間、プラムナイザーの左手の平から物凄い勢いで重力の波動が放たれた。
「う、うわあああ……あああぁっ!!」
超至近距離での魔法攻撃。
重力の波動がミネルバの胸部に命中。
堪らず絶叫するミネルバ。 そして後方に十メーレル(約十メートル)程吹っ飛び、背中から床に衝突。 耐え難い痛みが全身を襲う。
眼の焦点が合わず、口から鮮血を吐いて、身体を痙攣させるミネルバ。
プラムナイザーはその光景を実に愉快そうに眺めながら――
「ふん、無様だな。 だが下賎な人間には相応しい様だ。 ……これで二人目!」
と、口の端を持ち上げた
だがそれと同時にラサミスがミネルバの許に駆けつけた。
「ミネルバ、大丈夫か!? 我は汝、汝は我。 我が名はラサミス。
レディスの加護のもとに……『ハイ・ヒール』!」
ラサミスは両手をミネルバの胸部に直接当てながら、中級回復魔法を再度、詠唱した。
すると先程陽動、ラサミスの両手から眩い光が放たれて、ミネルバの身体を暖かく包み込んだ。
「ご、ごほっ……」
「ミネルバ、大丈夫か!?」
「あ、あ、ありがとう。……ラサミス」
意識を戻したミネルバが力なくそう言った。
それにラサミスが首を左右に振りながら――
「……喋るな、まだ治療の途中だ。――それに骨が何本か折れてるかもしれない」
ラサミスは両手から眩い光を発し続ける。
それと同時にラサミスの額に汗が浮かび上がる。
壊す事は簡単だが、治す事は難しい。
それにラサミス自身、あまり回復魔法を使った事がない。
なので魔力の配分がイマイチ分からなかった。
だがとりあえず最悪の事態は避けれそうだ。
ラサミスはミネルバの身体を抱きかかえて、ラモンが座る場所まで移動した。
そこでミネルバを楽な姿勢で床に座らせた。
「――メディカルサークル!!」
そしてそこで黄金の手の職業能力『メディカルサークル』を発動させた。
すると目映い光を放つ円陣が生み出された。
そしてラサミスはラモンとミネルバをその円陣の上に座らせた。
「しばらくこの円陣で休んでてくれ。
この円陣の上に乗っていたら、体力や魔力が徐々に回復するらしい」
「す、すまねえな」と、ラモン。
「……そうさせてもらうわ」と、ミネルバ。
「後はオレ達に任せろ!」
ラサミスはそう云って、白刃の日本刀を両手で構えながら、前進して教会内部の中央に陣取った。
――これで二対六。
――流石は魔王軍の幹部と云うべきか。 やはりあの女魔族は想像以上に強い。
――このまま長期戦になれば、ジワジワとこちらの人数が減らされそうだ。
――そうなる前に手を打つべきだ。
――そして今度こそ確実に止めを刺してやる!
次回の更新は2021年6月12日(土)の予定です。
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