第二百四十話 教会へ向かえ!(後編)
---ラサミス視点---
「ヴァーア゛―ニャアア゛――」
「ヴア゛―アア゛……ヴ―ア゛―」
「……またこの手で来たか、ふざけやがって!」
オレは心底ウンザリしながら、そう毒づいた。
まあこの可能性を考えなかった訳ではない。
でも出来ればこのような状況にならないように、と心の何処かで願っていた。
だが現実は非情だ。
オレ達が丘の上に向かって進んでいたら、待ちかねていたように、周囲から眼が血走った猫族が大量に現れた。
クルレーベの時と同じだな。
吸血鬼に吸血されて、吸血猫化、あるいはその成れ果てのグール、グーラー化した猫族がオレ達の前に立ち塞がった。
とは云えコイツらの戦闘力自体は大した事はない。
だから前のように神職の神聖魔法でグール、グーラー化した猫族の魂を浄化する。 しかしエリスを初めとして、他の神職の味方も辛そうな表情をしていた。 無理もない、端から見ていても辛いからな。
……クソッ、ふざけやがって!
やる方は簡単だけど、対処する方は楽じゃないし、神経がすり減る。
クルレーベに続いて、二度もこのような経験をすると、流石のオレもこのような悪辣な罠を仕掛けた張本人に強い憎悪を抱いた。
「……だがクルレーベの時に比べたら、それ程、数は多くないな。
よし、浄化作業は程ほどにして、先を進もう!」
レビン団長が周囲の様子を探りながら、そう命令を下した。
そしてその判断は正しかったので、オレ達はその命令に素直に従い、再び教会へ向かった。
するとまたゴーレムの群れが沸いて出たが、先程と同じ要領でゴーレム達と術士を始末した。
そして更に進むと今度は吸血鬼部隊が現れた。
全員が黒の燕尾服姿だ。 ふん、気取りやがって!
「――そこまでだ。 ここから先は我等、吸血鬼部隊が……なっ!?」
「黙れよ、――三の太刀っ!!」
オレは眼前の吸血鬼目掛けて、刀術スキルを放った。
一の太刀で標的の眉間を斬り、二の標的で相手の両眼。
そして止めの三の太刀で標的の喉笛を切り裂いた。
「が、がはぁぁっ!?」
オレの放った三連撃が見事に決まり、眼前の吸血鬼は口を開閉しながら地面に倒れた。
「き、貴様っ! 不意打ちとは卑怯だぞ!」
「――知るか、ボケッ!! イヤアッ――――――!!」
オレは批難する吸血鬼を無視して、居合抜きを繰り出した。
そして半瞬程、過ぎてから標的の吸血鬼の喉笛が切り裂かれ、噴水のように血が飛散した。
「ご、ごはっ……あ、あ、あああ……あああっ!?」
声にならない声をあげて、背中から床に倒れる吸血鬼。
我ながら綺麗に決まったぜ。
でもな、こんなモンじゃ済まさねえよ。
今のオレは本気で怒ってるんだよ。
「こ、コイツ! つ、強いぞ!」
「ああ……かなりの使い手だ、皆、油断するな!」
と、周囲に陣取る吸血鬼部隊が慌てふためいた。
よし、相手は怯んでいる。 ならばここは徹底して攻めるぜ。
「消えろ! ――二の太刀っ!!」
オレは視界に入った吸血鬼目掛けて、素早く得意の二連撃を繰り出した。
一撃目は躱されたが、二撃目での敵の頬を僅かに掠めた。
すると吸血鬼の双眸に怒りと殺意が宿る。
「こ、この野郎! ぶっ殺す!」
吸血鬼はそう叫びながら、即座に間合いを詰めて来た。
オレはそれと同時にバックステップして、距離を保つ。
そして左手を前にかざして、眉間に力を篭める。
だが次の瞬間、眼前の吸血鬼の足元に水が発生して、更に凍結する。
咄嗟の事で思わずバランスを崩す吸血鬼。
「そこの坊や、やるじゃない! 今のうちに決めちゃいなよ!」
と、後方から錬金術師のクロエがそう檄を飛ばした。
成る程、クロエが瞬間的にピンポイントで地形効果を変えてくれたようだ。
この間隙を突いて、オレは全速力で前進して間合いを詰める。
そして両手に持った日本刀・雪風を水平に振るった。
「一の太刀!」
するとブシュッという音と共に吸血鬼の首筋から赤い鮮血が飛び散り、
しばらくすると力なく前のめりに崩れ落ちた。
これで瞬く間に、吸血鬼を三人始末した。
自分で云うのもアレだが、今の攻撃は我ながら良かったと思う。
「くっ、コイツ強いぞ! おまえ等、油断するな!
全員でゆっくりと囲んで包囲するんだ!」
と、眼前のオールバックの吸血鬼が指示を飛ばす。
すると吸血鬼だけでなく、周囲のグール、グーラー化した猫族、そして敵の術士が新たに召喚したゴーレムの群れがゆっくりと迫ってきた。
「これじゃキリがない」
と、ナース隊長が軽く舌打ちをする。
するとレビン団長が落ち着いた声でこう云った。
「ナース隊長、この場は我々、山猫騎士団にお任せください。
その間に貴方は仲間を引き連れて、教会へ向かってください。
大元の女王吸血鬼を倒せば、吸血化も治る可能性があります」
「……そうですな。 ここで時間を浪費している場合じゃないな。
よし、オレについて来られる奴はついて来い!」
「「「了解です!!!」」」
ナース隊長の言葉にオレ、アイラ、ミネルバが声を揃えて応えた。
「……想像以上にゴーレムが多いから、私はこの場に残るわ」
と、リリアさんがそう云う。
するとそれに便乗するように、エリスも錫杖を両手で持ちながら周囲を見渡した。
「ワタクシもこの場に残ります。
できる限り、グール、グーラーの魂を浄化したいので!」
「あたしもここに残る!
あたしは接近戦じゃ役に立たないから」
と、マリベーレもそう云った。
そうだな、回復役のエリスは出来れば、ついて来て欲しいがこの場は彼女の意思を尊重しよう。
マリベーレは確かに教会のように限定された空間では、
その実力は発揮しづらいから、この場に残る方がいいだろう。
「ヘイ、レビン団長! オレ様はナース隊長について行いきたいぜ。
同胞をこんな目に合わせた張本人にオレ様の怒りの弾丸をぶち込みたいんだよ!」
「そうだな、お前の近距離射撃なら敵の幹部相手にも通用するだろう。
分かった、ラモン。 オレの分も含めて親玉にお仕置きしてこい!」
「イエッサー、ボス!!」
と、左手で敬礼ポースを取るラモン。
まあいまいちよく分からん奴だが、コイツの射撃の腕は確かだからな。
「よし、では全速力で教会へ向かうぞ!
ついて来れない奴は置いてくから、全力で走れ!」
「はい」「了解」「オーケー」
ナース隊長の言葉にオレ達はそう返事して、全速力で走り出した。
オレ達の進路を塞ぐように敵の吸血鬼やグール、グーラー、ゴーレム。
また一般魔族兵が邪魔してきたが、その都度、一人、一体ずつ確実に止めを刺した。
「邪魔だ、一の太刀!」
「ピアシング・ドライバー」
「――ヴォーパル・スラスト!」
「フンッ! ダブルストライク!!」
オレやドラガン、ミネルバ、アイラも迫り来る敵を得意の技で切り捨てて行く。
それから後も何度も進路妨害されたが、オレは必要最低限の敵だけ切り捨てて、ひたすら前進した。 そうして走る事、五分余り。
オレ達はようやく丘の上の教会に到着した。
観た感じ結構立派な教会だ。
でも今からこの教会は戦場になる。
「――よし、では中へ入るぞ」
ナース隊長がそう云い、教会の玄関の扉を開けた。
え~とここまでついて来れたのは、オレ、ドラガン、アイラ、ミネルバ、メイリン。
それに銃士ラモンと錬金術師のクロエか。
ナース隊長を含めたら、八人か。 この面子ならなんとかやりそうだな。
そしてオレ達は警戒しながら、教会の中に入った。
教会の内部はなかなか広かった。 これなら百人以上収容できそうだな。
内装は質素だが、部屋の中央に甲冑を着た騎士っぽい猫族の青銅の像が土台の上に建っていた。 アレは多分、猫神ニャレスの像だな。
オレ達は周囲に目を配らせたが、敵らしき影は見当たらない。
そして視線を前方に向けると、綺麗なステンドグラスに彩られた教会内の祭壇の前で誰かが祈りを捧げていた。
「……貴様が噂の女王吸血鬼か?」
ナース隊長がそう声をかけると、前方の人物は祈りを止め、ゆっくりと立ち上がり、振り返った。
そしてオレ達はその顔に見覚えがあった。
目鼻だちが整っており、顔の造形に実に気品と優雅さが満ち溢れている。
その女魔族は襟ぐりの広いノースリーブの黒いブラウスの上に、
赤い裏地の黒マントを肩から羽織っていた。
下は丈が短い真っ赤なスカートという格好。
腰の茶色の剣帯には、黒鞘に収められた少し短めの片手剣が収められていた。
間違いない、此奴はあのクルレーベで戦った女王吸血鬼だ。
名前は確か……プラムナイザーだったと思う。
するとあの戦いを経験した仲間の表情が自然と引き締まった。
「……フン、下賎な人間の匂いが鼻につくわ。
だがここまで来るとは、少しは腕が立つようだな。
だから特別に私が貴様等の相手をしてやろう!」
女王吸血鬼プラムナイザーはそう云いながら、
腰の剣帯から少し短めの黒刃の片手剣を抜剣して構えた。
おい、おい、おい、一対八というのに随分と余裕じゃねえか。
クルレーベの戦いでは、あと少しの所まで追い詰めたんだぜ?
だが此奴のこの余裕を逆手に取って、こちらはパーティ戦を挑むべきだ。
『聞こえているか? こちらが八対一という圧倒的な有利な状況だが、
相手は魔族の幹部。 故に万全の態勢を整えてから、戦いに挑むぞ!
まず前衛はアイラ君とミネルバ君が努めてくれ!』
と、ナース隊長が耳錠の魔道具越しにそう指示を出した。
するとアイラとミネルバは「はい」と頷き、前方へ突き進んだ。
『そして中衛にはオレとドラガン殿とラサミス君、ラモン君が陣取る。 オレが開幕早々に属性強化でミネルバ君の光属性を強化する。 アイラ君は「アルケイン・サークル』を、ドラガン殿は「ライトニング・フォース」を発動してくれ!』
『はい』『承知しました』
ナース隊長の新たな指示にアイラとドラガンが頷きながら、答える。
『後衛にはメイリン君とクロエ君を配置する。 ただし教会内での戦いでは、魔法の使用は避けてくれ。 下手すれば二酸化炭素中毒でこちらが死ぬ可能性がある。 クロエ君はそうだな、状況に応じて「地形変化」を頼む。 あるいはそれ以外の職業能力で前衛と中衛を支援して欲しい』
『了解ッス』『分かったわ』
『メイリン君は基本的に対魔結界を張る事に専念してくれ。
後は後衛から見ていて、何か気付く点があれば云ってくれたまえ!』
『了解ッス、任せてください』
『では序盤はアイラ君とミネルバ君に戦ってもらい、相手の戦闘パターンを引き出す。 そしてラモン君は中衛から援護射撃を、そして中盤以降になったらラサミス君!』
『はい!』
ナース隊長は思ったより、的確な指示を出すな。
さて、オレに与えられる役割は何かな?
『敵の戦闘パターンを把握したら、キミが主力となって戦うんだ。
前回の戦いでは、キミがあの女吸血鬼に致命傷を与えたと聞いている。
だから今回もキミに期待する。 だからラサミス君、キミは全力で戦え!』
成る程、そういう作戦か。
悪くねえアイデアだ。
ならばオレも与えられた役割を全うするぜ。
「フン、何をこそこそ囁いている?
貴様等が束になったところで、五百年生きる女王吸血鬼の私に勝てるものか。 それを貴様等のその身を持って教えてやろう!」
と、高らかに宣言するプラムナイザー。
相変わらず高慢な女だ、やはりオレは此奴の事が嫌――
「ハンッ、じゃあアンタは五百歳って訳?
それじゃクソババアじゃん、どうりで加齢臭がする訳だわ!」
と、ミネルバは漆黒の魔槍の穂先を眼前の女吸血鬼に向けた。
うほっ、ミネルバも結構云うじゃねえか。
はははっ、でも確かに五百歳はクソババアだよな。
すると後方に居たクロエも「フッ」と鼻で笑いながら、こう付け加えた。
「加齢臭どころじゃないわね。 もう死臭が出てるんじゃない?
まあウチ等は若いからね。 そりゃクソババアなら嫉妬するっしょ!」
うわ、この人も大概口悪いなぁ~。
でも不思議と悪い気はしない、というか地味に面白い。
すると他の女性も便乗するように、煽りの言葉を並べ立てた。
「あまり老婆を虐めるな、老人は労るものだぞ?」
アイラがクールな口調でそう云う。
「アイラさん、それは普通のお婆ちゃんの場合。
此奴は極悪クソババアだから、労る必要はないッス」
と、メイリン。
「そういう事、だからこのババアをちゃっちゃっと始末するよ」
と、クロエが少し見下した口調でそう云う。
すると前方に佇む五百歳の女吸血鬼はわなわなと身体を震わせた。
効いてる、効いてる。
でもあまり怒らせ過ぎると、後が怖いぜ。
というか女って怖いね、アドリブなのに呼吸ぴったりじゃん。
「き、き、き、き、貴様ッ!!!!
下賎かつ下等な人間共め! この手で八つ裂きにしてくれるわ!!」
プラムナイザーはそう叫んで、全身に闇色の闘気を纏った。
するとふざけていた女性陣も手にした武器を構えて、戦闘態勢に入る。
さあて、ここからが本番だぜ。
まずはオレは様子見に徹するぜ。
オレはそう思いながら、腰をどっしりと据わらせて、手にした白刃の日本刀をゆっくりと構えた。
次回の更新は2021年6月6日(日)の予定です。
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