第二百三十九話 教会へ向かえ!(前編)
---ラサミス視点---
「進め、進め、勝利を掴み取れっ!」
「引くな! 奴等に魔族兵の意地を見せてやれ!」
後衛隊の後ろで、魔王軍の隊長らしき魔族がそう叫びながら魔族旗を翻す。
オレ達はひたすら連戦に次ぐ連戦を重ね、立ちはだかる帝国軍を次々と打ち破り、十時方向に進んだ。 もう随分と進んだが、まだ敵の幹部らしき敵の姿は見えない。 少し余裕も出てきたから、リリアさんにまた魔力探査やってもらおう。
「……リリアさん、もう一度、魔力探査をやってもらえないか?
ここからなら、かなり正確に敵の位置が分かると思うんだが……」
「それもそうだな、よし……リリア。 魔力探査を頼む」
アレ? なんかナース隊長が会話に割り込んだよ。
もしかしてオレが直にリリアさんに指示した事に怒ってる?
まあそうだな、彼はリリアさんの上官だからな。
だからここは様子を見よう。
「了解しました、三十秒程時間をください。 ――魔力探査開始!』
リリアさんは両眼を瞑り、眉間に力を籠めながら、魔力探査を開始する。
オレ達は息を潜めて、リリアの魔力探査を待つ。
「ん……うう……ううっ……。 ここから少し先にある大きな建物から、非常に強い魔力反応があります。恐らくこれが敵の幹部だと思われます。 それ以外にも十個くらい強い反応がありますね。 多分、敵の幹部の警護部隊の類いと思われます……」
「そうか、やはりこの先に敵の幹部が居るのか。
そしてここから少し先にある大きな建物と云えば、アレだな」
ナース隊長はそう云いながら、左手の人差し指で遠くを指差した。
その指差した方向には、丘の上の大きな教会らしき建物が建っていた。
成る程、奴等、教会を拠点の一つにしたのか。
それ自体は悪くない考えだが、魔族が教会に陣取るとはな。
何の冗句だ、と少しばかり思わなくもない。
「とりあえずあの丘の上にある教会を目指そう。
だがどんな罠が仕掛けられているか、分からんから用心するんだ!」
「はい」「了解」
と、オレ達はナース隊長の言葉に頷いた。
あの教会まではまだ距離があるな、となるとここから先は敵の防衛部隊が潜んでいそうだ。
と思った矢先に、前方に大量の怪しい人影が湧き出た。
その数は軽く見積もっても数十体以上はあった。
「クッ……まだあんなに敵が残ってるのか」
と、軽く舌打ちするナース隊長。
だがドラガンが眼装を両眼に装着しながら、落ち着いた口調で次のように伝えた。
「ナース隊長、アレはゴーレムの集団です」
「何故分かるんですかね?」と、ナース隊長。
「この眼装をかけて周囲を見れば、魔力数値などを測れる魔道具なんです。
先方の集団からは、魔力反応はありますが、魂はありません。 よって連中はゴーレムの類いでしょう」
「そうか、ならばここは焦らず確実に倒して行くべきだな」
「アタシもそれに同意だね。 ゴーレム相手なら、錬金術師が居れば楽勝でしょ!」
そう云ったのは錬金術師の女竜人だ。
確か彼女は「ヴァンキッシュ」の団員だ。 名前は……え~と確かクロエだ。
「随分と自信満々だが、何か策はあるのかね?」
と、レビン団長が問う。
すると錬金術師のクロエはややドヤ顔気味で答えた。
「ええ、このアタシが錬金術師の職業能力『地形変化』を使って、ゴーレム共が居る地形の属性を氷上に変えるわ。 そしたら魔法部隊が氷属性から風邪属性の魔法をぶっ放せば、魔力反応『分解』が発生するでしょ? 後はこれを延々と繰り返すだけよ。 理解したかしら?」
「ああ、ニャルほど。 クルレーベの時に使った戦法だナ!
この戦法ならゴーレム共を虐殺できるナ!」
そう云ったのは、あの少し変な猫族の銃士のラモン。
するとアイラやミネルバ、エリス、メイリンも「そうね」と同調した。
「了解、了解。 じゃあアタシが今から地形変化を使うから、
魔法部隊の皆は打ち合わせ通りにお願いね!」
「了解よ」「了解ッス」
クロエの言葉にリリアさんとメイリンがそう返事する。
するとクロエは両手で素早く印を結んだ。
「――地形変化開始っ!」
クロエがそう叫ぶと、前方のゴーレム部隊の足下の床や地面が綺麗に凍り付いた。
「――今よ!」
と、クロエがメイリン達に指示を出す。
「――分かってるわ! 我は汝。 汝は我。 我が名はリリア。 ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ! せいっ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」
「我は汝。 汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」
二人の魔導士が狙い通りに上級氷魔法を詠唱。
するとメイリン達の周囲の大気がビリビリと震えて、手にした杖の先端の魔石が眩く光り、大冷気が放出された。 大冷気に呑まれてた前方のゴーレム軍団は瞬く間に氷結した。 そして間髪入れず、第二射が放たれた。
「我は汝、汝は我。 我が名はリリア。 ウェルガリアに集う風の精霊よ、
我に力を与えたまえ! 消え去れっ……『アーク・テンペスト』!!」
「我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う風の精霊よ、
我に力を与えたまえ! ……『アーク・テンペスト』!!」
激しい旋風が、凍り付いたゴーレム達の身体に渦巻いた。
すると魔力反応『分解』が発生して、凍り付いたゴーレムの身体に放射状に皹が入り、粉々に砕け散った。 同じような光景が何度も繰り返される。 そして何体もの、何十体ものゴーレムが同様に綺麗に砕け散った。
「ヒューッ、コイツはなかなか見物だぜ!」
と、銃士ラモンが軽く口笛を鳴らした。
「油断するな、ラモン! これで終わりじゃない!」
レビン団長がラモンを軽く叱責した。
するとラモンは両肩を竦めて「オーケー、ボス」と返す。
「その通りよ、ゴーレムを倒しても敵からすれば大した痛手じゃないわ!
このままの要領でゴーレムを撃破しながら、敵の術士を倒すべきよ!」
クロエの云う事は尤もだ。
皆もそれを理解していたので、彼女の言葉に素直に従った。
その後も同じ要領でゴーレムを撃破しながら、
銃士ラモンと魔法銃士のマリベーレが職業能力『ホークアイ』を発動させて、中距離射撃、遠距離射撃で建物や物陰に潜んだ敵の術士を射殺して行く。
「よし、このまま突き進むぞ!
目的地はあの丘の上にある大きな教会だ。
これから先は敵も強くなると思うから、絶対に油断するな!」
ナース隊長が鋭利な声でそう指示を飛ばす。
するとオレを含めた周囲の仲間達も「はい!」と大きな声で返事して、気を引き締めた。
さて、あの教会に居る敵の幹部は誰だ?
あの女吸血鬼か。
それともあのクールそうな女魔族か。
まあいい、もう少しで自分の目で確かめられる。
どのみち誰が来ても苦戦は必至だ。
ならばオレとしても全力を尽すまでさ。
そしてオレ達は丘の上の教会を目指して、全力で地を蹴った。




